騎士団長と権力と奴隷
俺は見覚えのある家に辿り着いていた。見覚えどころか懐かしい家だ。
「ここです。ここが父さんがいるであろう場で、前まで俺が住んでいた家です」
俺はその家を指差し、騎士団長に目的の場に辿り着いたことを示す。
「分かりました。では正面から訪問させていただきましょう」
騎士団長は家のドアをノックする。コンコンという音が鳴ると、すぐにそのドアは家の内側から開けられた。
「どなたでしょう」
そんな言葉と共に現れたのは、俺の父であるその男、見上剣刃だ。父の顔は俺と騎士団長の姿を見た瞬間みるみるうちに驚愕のものへと変わっていく。
「久しぶりだな。剣刃」
騎士団長は驚く父に向かってそう言う。ただ、その声は再会を祝ったようなものではなく、怒りのこもったものであった。
「……わざわざ智也を連れて、何をしにきたんだ? ウォーリアス……」
「お前を殴りにきたんだ。剣刃!」
父の問いに即答した騎士団長の声は、先ほどとは違って分かりやすく怒っていた。いわゆる怒号に近いものだ。
「なるほど……じゃあお前は今から俺を殴るってのか?」
父は騎士団長に向けてそう問いかける。
「いや、まずは聞かせてもらいたい……。お前が自身の子供を無理やり追い出したワケを!」
騎士団長は恐ろしい気迫を放ちながら父にそう言い放つ。
「そんなの簡単だ。こいつが剣聖ではなく、エスパーなどという魔法使いとかの劣化天職を授かりやがったからだッ!」
父は明らかにキレた感じで叫ぶ。
(―――ッ! だからそんなのどうしようもなかっただろ!)
俺は心の中でそう叫んでいた。どうしようもないことで失望され、追い出される。俺からしてみたらそんな理不尽なことだった。
「それは知っている。俺が聞きたいのは、なぜお前は息子が剣聖であること以外を認めていないかだ!」
騎士団長はより声を大きく、張り上げる。
「ーーーッ! し、仕方ない。教えてやろう! お前のせいだけどなァ! ウォーリアス!!」
父は声を荒げる。
(騎士団長のせいだと!? 俺と騎士団長になんの関係があるってんだよ)
「な……!? お、俺のせい……だと!? 俺がお前に……何かしてしまったと、言うのか!?」
父の言葉を聞いた騎士団長は激しく動揺している。
「あぁ……! 教えてやろう! 智也にも分かるようにな……!」
そうして父は語り始めた。その恨みで満ちて、満ちて、満ちきっている彼の人生を。
――――――――――――
11年前、その時の騎士団長である、ガンディス・トゥライオス。彼がじきに60歳を迎えるため、後継の騎士団長を決めると言い始めた。あらゆる立候補者の中で、ガンディスが選んだのが俺、剣刃とウォーリアスであった。騎士団長の枠は一つだけであるため、さまざまな能力において拮抗していた俺たちは結局戦闘能力が高かった方が選ばれることとなった。
「お互い剣聖でレベルも同じ。あとはどちらの方が技術的に秀でているかだ」
俺と向かい合ったウォーリアスはそんなことを言う。
「確かにそうだな」
俺はウォーリアスの言葉にそう答える。
「はじめよッ!」
そんな騎士団長の言葉と共に俺たちはお互いに剣を抜く。それからはひたすらその場に剣がかち合う音が鳴り続けた。いずれその音が鳴り止んだのは、俺が敗北した時であった。
「そこまで! 勝者、ウォーリアス・サンチェスター! よって、時期騎士団長はウォーリアス・サンチェスターとするッ!」
その場に騎士団長のそんな言葉がこだまする。その言葉は俺の絶望を生み出す。
「はぁ……はぁ……。ありがとうございました……!」
ウォーリアスは俺に向かって握手の手を差し出す。俺もその手を握り返す。
「……ありがとうございました」
俺はそれから騎士を辞めた。理由は簡単で、騎士団長になることができなかったから。なぜここまで俺が騎士団長になりたかったのか。それは簡単で、俺が権力を欲していたから。
俺は昔、3から5歳の頃はいわゆる奴隷であった。子供の頃の俺は、権力を持つ大人達の遊び道具のような扱いを受けていた。
「ヒャッハッハハァッ! 金のねぇガキには俺が制裁を与えてやるよッ!」
大人達の一人がそんなことをいいながら俺のことを殴る。それに同調するように大人達は一斉に殴り始める。一人は脚で、もう一人は鈍器で、そんなふうにやつらは俺を殴り倒す。
いずれ俺の身体は痛みに耐えきれず、俺はほとんど眠りに落ちる。ほとんど死んでいるようなものだった。
「は……? 死んでる? そんなバカな! お、俺はそんな強く殴ってねぇぞ! どうすんだよこれ! く、くそ! 所詮は奴隷、ほっとけ! ずらかるぞ!」
大人の一人がそんなことを言うと、揃って大人たちがそこから立ち去る音がかすかに聞こえてきた。そして俺は完全に意識を落とした。
血が流れていた。このまま死ぬはずであった。なのに俺の目にはまた光が入ってきた。
「な、何……が……」
俺はかすかにそんな声を放つ。そして完全に目を開く。するとその目には一人の大人の顔がうつる。
「ごめんね。君がおそろしく重傷であったからさ、取れる手段がこれしかなかったんだ」
その大人の言葉と共に俺は授かった。神様からの加護を。そして『剣聖』という力を。
「おかげで綺麗に傷も治っているだろう? あぁ、僕はもうすぐここから立ち去らなければならないんだけど、勝手に君に何をしたのか説明させてもらうよ。君には儀式を受けてもらった。神様からの加護を受ける儀式をね。一般的には『天職発現の儀式』って言うんだっけ? まあそういう儀式を受けてもらうことで神様から加護を与えてもらって、君の傷を治した。こういうのは普通は5歳になったタイミングで受けるものなんだけど……まあ君はそれができなかったみたいだ。まあそのおかげで今救われたんだから結果オーライさ。それじゃあ僕はグッバイさせてもらおう。あとは君次第だ! 頑張ってね〜」
それだけ、言うことだけ言ってその大人はそこから立ち去った。
それから俺は奴隷になんぞならないために、もう二度とあんなことにならないために、その剣聖の力で結果を残し、騎士となった。そこで騎士団長となり、人を使うモノとなるために。
だが結果は騎士団長の座はウォーリアスに取られ、俺は使われるだけのものとなった。ゆえに騎士団を辞め、冒険者となり、そこで名声と権力を手に入れた。
そして見上智也と名付けた息子を作り、俺は息子に俺を超える権力をてにいれてもらうことにしたのだ。その確約された剣聖の力で




