騎士団長
「ふう……これでこっちは終わりかな。あとは……」
そうして俺は、あのドラゴンの首を刎ねた騎士団の方と巨大な狼のようなモンスターの戦闘に目を向ける。
(―――ッ! 速い!)
俺の目に映るその戦いは、狼のモンスターが高速かつ縦横無尽に騎士団の方に攻撃を仕掛けていて、騎士団の方はその攻撃をほぼ一歩も動かず全ていなしている。
「お隣、失礼します」
その戦いを傍観していると、隣から女性の声がした。そちらの方に向くと、そこには先程のモンスターとの戦いで魔法を使ってモンスターを倒していた騎士団の人がいた。
「は、はい。どうぞ」
突然横にいたその女性の言葉に俺は反応した。
「あの狼のモンスターはフェンリルと言います。ご存知でしたか?」
女性はモンスターを指差してそう言う。
「いや、初めて知りました。私はあまりモンスターに関する知識がないので……」
「なるほど。では少し……フェンリルに関して説明いたしましょうか?」
俺の言葉を聞いた彼女はそんなことを言う。
(なかなかに突然だが、聞いておこう。そのうちやつと相対するときに役に立つかもしれない)
そう考えた俺は「お願いしてもよろしいでしょうか」と口にする。その言葉を聞き届けた彼女は宣言通り説明をはじめてくれる。
「フェンリルは見ての通り巨大な狼の見た目をしたモンスターです。やつは現在行っているように高速で動き、四方八方から獲物を取り囲むように攻撃をしてきます。だからこそ私のような遠距離からの攻撃をメインにした人間はやつと相対したら逃げねばなりません。ほぼ絶対勝てないから。まあ少なくとも私並みの実力がないと逃げることもままならないのですが」
(なるほどな。俺も多分やつと戦っても勝てるか少し怪しいな。剣があったらなんとかなるかもしれないけど)
「なるほど、だいたい理解できました。ありがとうございました」
俺は彼女の説明を聞き終え、感謝を述べる。
「いえ、ほとんどこちらが勝手にやらせていただいたことなので」
彼女は軽く微笑みそう言う。そんな彼女の説明を聞いた俺は、一つ問う。
「そのような恐ろしいモンスターを相手取る彼の手助けとか、そういうのはしなくても良いのですか?」
俺は別に、フェンリルと戦っているあの人が負けるとは思っていなかった。ではなぜそのようなことを口にしたのか。それは彼女が、騎士団の人たちがあの人をどれだけ信頼しているのか、あの戦いをどう思っているのかを聞きだすためにそのようなことを聞いたのだ。
そんな俺の問いに彼女は笑みを浮かべて答える。
「あれをみて、そんなのが必要と思いますか?」
その言葉と共に彼女が指をさした戦いを俺はみる。
フェンリルの硬い爪と、それをいなす彼の大きな剣がぶつかり合う音が聞こえてくる。とても高頻度で、されど軽くはない、重たい音だ。
俺はその音を聞きながら、その音を奏でる演奏をじっと見つめる。
そして俺は真っ白だったフェンリルの体に赤い血がついていることに気がついた。
(……よく見たらちょくちょくあの人の攻撃がフェンリルに命中している。フェンリルの攻撃をいなす中でしっかりとカウンターを決めているのか)
「なるほど……分かりました。勝敗がつくのは時間の問題でしょうね。すごいですね、あの人」
「そうでしょう。あなたは存じ上げないのかもしれませんが、彼はこの国の騎士団の団長なのです。しかも副団長である私と比べて圧倒的に強い」
(へえ、この女性が副団長であの人は団長だったのか。うすうすそんな感じだとは思ってたけれども)
「つまり、彼がこの国において最強なのですか?」
俺は彼が騎士団の団長という言葉を聞き、好奇心からそんなことを副団長に聞く。
「ええ、おそらく団長が最強でしょう」
(おそらく? 団長に匹敵するほどの人間がこの国にいるのか?)
「なるほど。ということは団長に匹敵するかもしれない人間がいるってことですか?」
彼女はコクリと頷き、答える。
「ええ。匹敵するかもしれないというよりも昔は匹敵していた。もしくは超えていた、というのが正しいです」
(あれを超える実力者がまだこの国に……)
「それでは戦いが終わったみたいなので私はお暇させていただきます」
そんな彼女の言葉を聞いて俺はハッとする。いつの間にやらあの剣と爪が撃ち合う音は消えていた。そして地面には白い体を赤く染めたフェンリルが倒れていて……団長は無傷で立っていたのだ。




