ステーキ
「なんでお前、急になんか気持ち悪い敬語使い出したんだよ」
そう、大翔が聞いてくる。俺がなぜ敬語を使っているか、それは大翔が俺よりも年上であることに気がついてしまったからだ。俺はその内容を敬語で大翔に伝える。
「すいません! 私、大翔さんが年上なことに気づいておらず、失礼な態度をしてしまっていました」
「あぁ、そういうことか。だったら別にそんなの使わなくてもいいし、別にそんなの咎めるつもりはないよ。俺、年齢が低くみられること多いし」
なんて寛大な心をお持ちなんだろうか。俺はその言葉に甘えて普段通りの態度に戻る。
「分かった、ありがとう。それじゃあ客としてお前の店に入ってもいいか? お腹が空いてきたからさ」
「もちろんだ。いらっしゃいませ。お客さん!」
そういいながら大翔は店のドアを開き、俺を中に招き入れる。すぐさま大翔は俺を席に座らせて、そしてメニューを俺にみせる。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
そう言いながら見せてきたメニューには、前にいただいたワイバーンの肉串やあのおにぎりもあればそれ以外にもさまざまな料理が描かれていた。
うーん。どれにしようか。パッとみた感じ肉料理が多めだな。ガッツリ食いたい今の俺にはちょうどいい。前はワイバーンの肉を食べたし今回は別の肉料理を食べてみるか。
そう考えた俺は、「フェンリルステーキのブリュデバーラソースがけ」という料理を注文することにした。
俺の注文を受けた大翔は「了解いたしました!」と答えてキッチンの方へ向かっていった。
少し経つと、火のパチパチという音と共に美味そうな香りが漂ってきた。それだけで腹の減った今のおれは舞い上がる気分になる。
それからさらに待つと、その美味しそうな香りはこちらに近づいてきた。その香りを放つ料理を俺のテーブルに置いて大翔は「フェンリルステーキのブリュデバーラソースがけ、お待たせしました! ゆっくりと料理をお味わいください!」と言ってそこから離れ、キッチンに戻っていった。
「さて、さっそく……いただきますっ!」
俺は料理に添えられていたナイフとフォークを手に取り、ステーキを一口サイズに切り刻んでいく。切り口からはジュワァと肉汁のようなものが流れ出て、ステーキというケースに入り切らずに皿に溢れ出てしまっていたソースと混じり合っていく。赤いソースと茶色い肉汁とが混ざり合うことで、それは赤と茶色の中間色へと変化する。
「あれだけ量があったソースの色が変化するほどの肉汁の量ッ! 少し勿体無い気持ちと、食べた時に流れる肉汁の量を考えた時の好奇心の二つがステーキを切っただけで俺の中に生まれてきた! さあッ! いざ一口目だ!」
そうして俺は、ちょうど一口で食べられるサイズへと変化したステーキをフォークでさして口へと運ぶ。
溢れ出る食欲のまま俺はそれを歯ですりつぶす。瞬間、膨大な量の肉汁が川が流れるように俺の喉へと流れ込んでくる。
最高だっ! この肉汁の量、想像以上だッ! 肉を噛むのが止まらない!
ゴクンっ! という音と共にそれを飲み込んだ俺は、次の肉を口に運ぶ。
これ、一口目では気づかなかったけど、ソースもすごい良い味をしている! どこかフルーツのような甘味を感じるのに、ステーキの濃くて舌を刺激する味を邪魔していない。甘味があるおかげで肉の味に飽きがこなくてどんどん次を食べたいという食欲が刺激される。
そんなふうに次へ次へと肉を口に含んでいくと、いつの間にやら肉は最後の一口となっていた。
「マジかあ。だいたい30切れくらいあったあのステーキがもう最後の一つか」
名残惜しいが冷めないうちにこれを食べておきたい。
そうして俺はその一つを数十秒もかけて味わい、やがてゴクンと飲み込み「ご馳走様でした」と口にするのだった。




