逃亡
「!?」
俺よりも身長が少し低い、短髪で黒髪のフライパンを手に持った少年が俺の前に着地する。
「おーい。お客さん、大丈夫か?」
「あなたは……!」
「待て、とりあえずあのモンスターから逃げるぞー」
そうしてヤツを叩いたフライパンの少年、『桐生大翔』が負傷した俺を担いで走り出す。
「ちょっ!? なんで逃げっ……!」
そう俺が言うと、即座に大翔は答える。
「なんでって、お客さん……智也がそこまで負傷してるからだろ!」
大翔はしれっと俺の呼び方をお客さんから智也に変更しながら、俺の傷を指摘する。
「あぁ……そっか。俺、わりとダメージ受けてたみたいだな。ありがとう」
よくみたら俺の腹からは割と血が流れていた。われながらよく気付かずに喋り続けていたなと思う。
「ほら、智也。これ食っておけ」
そんなことを言いながら大翔は俺に、のりが巻かれた綺麗な三角形のおにぎりを手渡した。
「……? いただきます……」
俺にはなぜ今、大翔が俺にこれを食べろと言ったのか分からなかったが、とりあえず食べてみることにした。
俺は大きく口を開けてガブリと一口それにかじりつく。
「……! 美味いっ! これ、具は『フリッシュ』か……!」
「そう。魚なのに肉のようにジュワッと汁が溢れてくるフリッシュ。それと米、のりを一緒に食うことで米とのりにその汁が染み込み満遍なくフリッシュの味を楽しめるっていう料理だ」
「しかもこれ、味が濃いと感じることが多いフリッシュの味が、大量の米と一緒に食うことでほどよい味になっている!」
「智也、お前の口はなかなかいい口してるな」
「まあこれでも美味い飯を食うことは好きだからな」
「へえ。それじゃあまた俺の店にもきてくれよな。よし、それじゃあお前の傷もそこそこ治っただろうし……」
「えっ!? ホントだ……! 傷が治ってる! どうして傷が……!」
俺が大翔の言葉に驚きながら自分の腹を見ると、確かに傷が塞がっていた。
「俺の料理にはスキルで回復効果を付与できるんだ。実はそこら辺のポーションよりも強い効果があるんだぞ。これ」
「へえ、便利なスキルだな。それ」
「ああ。それじゃ、降ろすぞ。もうお前走れるだろ?」
そうして大翔は俺の返事を待たずにひょいと俺を地面に降ろす。
「よし、それじゃあとっとと逃げなきゃな」
そう俺が言うと、大翔は俺の後ろ、来た道の方を振り返れと言うようにそちらの方に指をさす。
「見ろよ。もうあのモンスターは追っかけてきてないぞ」
「えっ! ホントだ……」
俺がアイツのナワバリから抜け出したからか? いや、それでもアイツは確かに知能を持ってた。知能を持つモンスターは大抵俺みたいな危険となるやつを見逃すことはないはず……。
そう俺が考えていると、大翔は俺に向かって語りかける。
「何をそう考えているのかは知らんけど、奴がおってこないのは、奴が俺らは追いかける理由がないってだけだろ」
「……そうか。あいつは多分、ここら辺のモンスターの中でもめちゃくちゃ強い側のモンスターだ。だから俺がまたアイツのナワバリに踏み込んでも、返り討ちにできる自信があるんだ。だからアイツはわざわざおってこないんだ!」
「まあそんなところじゃね? あとはナワバリから離れることが難しい理由があるとかかな」
「なるほど……。まあどちらにせよ、とりあえず街に戻るか」
そうして俺と大翔は街へ向かって歩くのだった。




