初のクエストと新スキル
冒険者となったらならばやることは決まっている。クエストをしながらレベルをあげよう。この世界の冒険者はクエストをこなして金を稼ぎ、レベルを上げることによってステータスを上げ、そしてスキルを獲得する。俺はまだ弱い。初心者向けのクエストからこなしていこう。
「こんなのがいいかな」
俺は真っ先に目に入ったスライム5体の討伐というクエストをうけることとした。達成報酬は500ゴールド。そこらへんの市場でパンが2個買えるくらいの金だ。そうして俺は街を出てスライムの溜まり場に来た。
「見たところ1、2、3・・・7体ほどいるな。まあ今回は5体だけでいいからパパッと倒して報酬を貰おう」
そうして俺は構え、距離をとってそのスキルを放つ。
「ねんりき!」
すると波のようなものがまっすぐに飛んでいき、1体のスライムの体を削る。ねんりきはエスパーの初期スキルだ。もっとも魔法使いの初期スキル ファイアには威力で劣ってしまっているが。同じように2、3体ねんりきで倒していく。威力は低いが、二発でスライムを倒せるほどはかろうじてある。順調に遠距離からスライムを倒していく。
「しまった!」
懐に潜り込まれた。他のスライムに気を取られていた。咄嗟に腰についていた剣を抜く。シュン!という風を切る音とともに目の前のスライムの体は切れる。
「ふう……そうだ、俺には剣があったんだ」
たとえ剣聖には剣を扱うスキルや、ステータスで負けていても俺には積み重ねてきた技術がある。剣術だけで言うならば俺はそこらの剣士には負けはしないのだ。
そうして残りの1体を倒し、その場から離れると頭に音が響いた。レベルが上がったのだ。レベルがいつの間にやら4から6となっている。
「やった。これくらいのステータスがあればねんりきでスライムを1撃で倒せる」
今後はスライム程度のモンスターを倒して金を稼ぐのだ。この差はかなり高い。
「それにわずかだけど剣を使う時の『攻撃』のステータスも上がってる!」
今後は稀に剣も扱うこととなるだろう。少しの差でもうれしい。そうしてギルドに戻り報酬を受け取る。もう日が落ちかけている。
「そこらへんの宿に行ってパンでも食べて寝よう。俺には父から貰った金があるのだ」
近場の宿で部屋を借りる。そしてそこらの店でパンを買いに行く。そしていざやってくると俺の目を引くのは美味そうな肉や魚だった。少し考える。今日は冒険者ライフの初日。ちょっとくらい贅沢をしてもいいだろう。そうして俺はこの言葉を吐き出す。
「この肉とタレ、ついでにこの小さめの肉もください!」
宿に戻ってきた。俺は後悔している。
「買ってしまった。買いまくってしまった」
俺の目の前にはでかい肉が2個、小さめの肉が1個、塩、甘だれが並んでいる。
「今日の収入は500ゴールド、そして目の前にあるものに費やした金は・・・5500ゴールド。今日の収入の11倍の金を飯に使ってしまった」
しばらく俺の心は金を使いすぎた後悔と目の前の飯への好奇心で埋め尽くされていたのだが、
「一口だけ食おう」
そうして焼いた肉をそこに出しておいた甘だれにどっぷりとつけて口に入れると俺は後悔なんて忘れて肉にがっついていたのだった。
「腹が重い...」
昨日の夜、1人では食いきれないはず量の肉をなぜか食べきってしまった。その結果がこれだ。
「両親から貰った金は150000ゴールド。昨日使った金は宿代含めて10500ゴールド」
思わずため息が出てしまう。
「はあ...昨日の俺に肉なんて買わずに節約しろっていってやりたい」
そんな愚痴をつきながら俺はギルドへと向かった。
「今日は何をしようかなあ」
たくさんのクエストを眺めながら呟くとあるクエストが目に入ってくる。
スライム20体の討伐
昨日の4倍だ。しかしその分報酬が昨日の4倍以上の2500ゴールド。
「昨日散財した分今日は稼いでおきたいな。やってみるか」
そうして俺はスライムの溜まり場へとやってくるのだった。見た感じ12体くらいか。
「かなりいっぱいいるなあ」
そうして俺はねんりきを放つ。
「ねんりき!ねんりき!」
ねんりきはクールタイムが短いから連発ができる。そのうえ相手はスライム。油断しなければ距離を詰められることはない。そうして俺が12体のスライムを倒し終えると頭の中で音が響く。レベルが上がった。6から9へのレベルアップ。ステータスが上がる。それだけじゃなかった。
「新しいスキルをゲットしてる!」
新しいエスパーのスキルを獲得したようだ。
「サイコクラッシュ。どんなスキルなのだろう」
そうして次の溜まり場へと移動する。
敵は9体。さっそく新しいスキルを試してみよう。
「サイコクラッシュ!」
スキルを発動するとスライム4体ほどの足元にピンクの円が浮かびあがる。その後1秒、いや1.5秒ほど後に4体のスライムは見事に爆散した。
「すごい。4体のスライムが一気に...まさか範囲攻撃系のスキルだったなんて!」
これでスライムを倒す速度はかなり上がる。今までは1体ずつねんりきで倒していたのだ。
クールタイムは6秒。そこそこ長いがねんりきでちまちまと倒すよりは効率が良い。
「サイコクラッシュ!」
もう一度それを発動するとスライム4体が爆散する。残った1体は倒す必要がないがレベルのだめだ。
「ねんりき!」
すると波のようなものがスライムに飛んでいき、最後の1体の体は見事に消え去るのだった。
ギルドに戻り報酬を受け取る。今日はまだ余裕がある。レベルもさっきの戦いで10となった。
「ちょっと強めのモンスターに挑戦しよう。ゴブリンとかはどうだろうか」
ゴブリンはスライムと同じく雑魚モンスター。しかしスライムとは決定的な差がある。もちろんゴブリンの方が身体能力も高いが、それ以上にゴブリンには知能がある。知能の差というのはでかいものだ。
そのようなことを思いながら俺はゴブリンが生息するであろう場所へと向かうのだった。