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劣化天職で最強  作者: 春の天変地異
モンスターの文明『自然の文明』編
133/134

VS麒麟 作戦フェーズ2③ 対処法

 スファリエの声に、その場にいた皆が一瞬彼女の方を振り向く。が、隙にはならないほどの時間でまた武器を構える。

 「麒麟を無理やり見つけ出します! 方法は魔技を打ち消すヤツの体質を利用。砂嵐を引き起こす魔技をここ一体に使用し、砂嵐を打ち消させ、姿を可視化させます!」

 彼女の言うそれは、白い紙に描かれたあらゆる色を打ち消す白い絵の具を探すため、その紙を黒で塗り尽くすようなものだろう。そうすればその、もともと白い紙にあるせいで見えないあらゆる色を打ち消す白い絵の具は可視化されることになるわけだ。

 「だがそれだと俺やリコ、大翔に加えてスファリエ本人までも砂嵐で——!」

 「はい! そうなるのを防ぐため、私の周囲に砂嵐を寄せ付けない風の盾を生み出します!」

 「なるほど! つまり俺たちはスファリエの近くによればいいってわけだな!」

 「そういうことです! それと、これをするには二つの魔技の発動が必要なため、その間皆さんには私を守っていただければ、と!」

 俺の問いにスファリエは答え、大翔がその後の言葉を先取りする。スファリエはそこにさらに要望を付け足した。

 その言葉を把握して俺たちは構えを崩さずスファリエに寄る。

 「それでは開始させていただきます! 一応、風の盾は麒麟に効果がないですから、たとえそれがあっても麒麟はこちらに突撃して攻撃してくるかもしれません」

 「けどその時はどうせ麒麟も姿を見せないといけないでしょう?」

 「はい、ガラポーユさんの言う通りです。その時は上手く迎え撃つなどして対応いただきたいです」

 「わかった。それじゃあ頼むぞ!」

 彼女の忠告を聞き入れ、俺はそう言った。


 それからほんの少し時間がたつと、準備が済んだのかスファリエは一つの魔技を発動した。

 「サイクロンシールド!」

 瞬間、ブワッと、俺たちの周囲には凄まじい突風が発生した。がすぐにそれは形を形成し、俺たちを包む風の盾となった。

 「なんて風圧……触れるだけで身体が断ち切られそう……」

 風の盾を見たリコはそんな感想を口にした。

 「この盾が持続する時間は短くはなくとも決して長くもありません。早急にもう一つの魔技を発動させます」

 そう言ったスファリエは左手で小さな紙を持ち、詠唱? のようなものを始めた。その紙はきっとあのエネルギーを持つ文字とやらが描かれているのだろう。

 「範囲指定完了。吹き荒れる突風、舞荒れる砂、我が心に思い浮かぶ情景よ。呼びかけに答え、ここに顕現せよッ! 心象顕界(しんしょうけんかい)ッ!!」

 生み出されるは彼女の心に映る情景。それは吹き荒れる砂嵐。きっとその中に入り込んで仕舞えば、常に砂に肉を打たれ続け、いずれその砂嵐の中に飲み込まれ、影すらも見えなくなってしまうだろう。

 しかし麒麟はそうはならない。魔技で生み出された砂であればやつの身体に打ち消される。だがそれにより、やつの身体のシルエットは砂嵐の中にくっきり映ることになるのだ。

 

 そうしてそのシルエットはどこにあるのかと言うと……俺の正面だった。

 風の盾のすぐ寸前。そこに麒麟はいた。

 「なっ……!」

 「智也!」

 ブワッと、麒麟のシルエットは色付いていく。白や黄色や黒や、ヤツを構成する色が薄黄色の砂に染められた俺の視界に塗り出されていく。そいつは姿を現した。つまり攻撃をしようとしている。

 「反射っ!」

 ヤツが風の盾を乗り越えた時、咄嗟に俺はあらゆる攻撃を反射する最強の防御を作り出す。これで俺は5秒の間は無敵と言っても過言ではない。

 ただ、その間も俺以外は別に無敵でない。つまり俺以外に攻撃をされても俺は守ることはできない。麒麟だってそれはわかっているようで、やつは即座に地面を踏み、ぐるりと方向を変えた。やつが向かうのはリコの方向。俺に攻撃が通じないため、麒麟は攻撃の対象を俺から彼女に変えたのだ。

 「はっ……やっぱそうするよなァ!!」

 そう麒麟に叫ぶ俺は、すでにそいつが移動した位置に大剣を振り下ろしていた。

 俺に攻撃が通じないとわかれば頭のいいコイツなら俺以外に対象を変えるだろう。その中で最も攻撃がしやすくて厄介なリコを狙う。

 そんな俺の予測はしっかり的中していたようだ。

 

 だが俺の大剣は麒麟の背から伸びるヴェールによって防御されていた。

 「ぐっ……! このヴェール、本体よりも反応が早くないか!?」

 《このヴェールは自動的に敵意や殺気にも反応し、防御する。単に我が反応した攻撃を防ぐだけではない、便利なものだ。其方は我の奇をつくことはできたようだが、敵意を隠せてはいなかったようだな》

 なんとかそのヴェールごと麒麟を斬ろうと試みるが、あまりにも硬いそのヴェールに受けきられている。しかしその時皆が俺とせり合う麒麟に攻撃を仕掛けた。

 「加熱! くらえぇ!!」

 「ウェポン錬金、短剣!」

 「はああ!」

 大翔がフライパンで殴りかかり、リコは短剣を投擲、そしてスファリエは光の矢で攻撃を行った。

 迫る攻撃の数々に麒麟は一度大地を蹴り、そこから離れる。

 「ちっ……! 逃げられた!」

 

 麒麟が離れたことで地面に落とされた大剣は文字通り地面を割った。精霊峠の山頂から伸びる地面の亀裂は果てが見えぬほどにまだ続いている。


 麒麟が離れたそこにはひらりひらりと、宙を舞う透き通る何かがあった。

 「これは……ははっ、よかった。さすがはこの大剣だ。そのうえだ。もしかしたら——」

 俺はその何かを手に取り、確認する。それによってわかった。

 俺の剣はヤツのヴェールを斬ることができなかった。そう俺は思っていたが、どうやらそうではなかったようで、俺の手に取られたその透き通るものは俺が斬った麒麟のヴェールの一部なようだ。

 手のひらの半分にも満たない小さな切れ端であるが、麒麟のヴェールの一部がここにある。

 そこから俺は一つ、いい考えというヤツを思いついた。

 

 「リコっ! これに“補完錬金”を使ってくれ!」

 「それ……うん、わかった」

 俺の手に掴まれている麒麟のヴェールを確認したリコは俺の狙いに気がついたようだ。

 俺は後方にいるリコにそれを渡すため、視線を麒麟から離さずそちらへ向かって跳ぶ。

 麒麟は何かを察したのか、その俺の方へ走り出す。

 「させねぇッ! だあっ!!」

 そんな麒麟の前に大翔が立ち塞がる。向かってくる麒麟にフライパンを振るうことで動きを止めた。

 「ナイス大翔! よし、リコ。頼む!」

 ひとまず麒麟は大翔に任せ、リコにヴェールの切れ端を渡す。

 「智也にしてはなかなかいい考えに思うよ。補完錬金」

 彼女の手に触れられたヴェールにそのスキルが発動すると、彼女の帽子の上から被さるように、麒麟の背につくものと完全に同じのヴェールが現れた。

 それは彼女の身につけるには大きいようで、背よりも大きなそれは地面に引きずってしまっている。

 「これでリコは麒麟と同じようにあらゆる攻撃を自動的に防ぎ、受け流す力を手に入れたってわけだな」

 「なるほど……あのヴェールの切れ端は今、麒麟の身についている部分が欠損していた。だから補完錬金で補完することができたというわけですか」


 (さて、これで一度作戦通りの状況に戻ったな)

 今の状況は大翔が麒麟を足止め、リコとスファリエがその援護。そして俺が気を伺う。そんな作戦通りの状況へ戻っていた。

 (ただ……あれだな。麒麟にはなんか位置を入れ替える魔技がある。あれのせいでいつ位置を入れ替えられてもおかしくない。突然大翔と誰かの位置が入れ替えられ、麒麟の正面に移動させられるかもしれない。常にその可能性を考えてないとダメだ)

 麒麟の魔技、『座標交換(トレイド・コーディア)』。現在ヤツにそれを使われ、俺が警戒している事象のようにヤツと至近距離で戦闘をしていた大翔と、後方で援護をしていたリコの位置を入れ替えられ、リコが攻撃をされた。

 その力がある限り、今築いているこの陣形がいつ崩されてもおかしくはないのだ。

 とはいえ幸い、この中で一番近接戦が弱いリコはつい先ほどヴェールの守りを手に入れた。

 敵意に反応して自動的に攻撃を防ぐそれであれば突然麒麟に位置を入れ替えられ、彼女自身の反応が遅れたとしてもその攻撃を防ぐことはできる。前までよりは座標交換に対してもこちらは楽になったように思う。

 ただその、陣形を崩されるという問題を除いたとしても尚、俺の中で一つ、あまりにも懸念すべき問題が残っている。

 (俺が決定打として黄金の剣を振るった時、その瞬間に“麒麟とリコ、大翔、スファリエの誰かと位置を入れ替えられた”。そうなったら最悪だ……何か対策を考えておかなきゃなんねぇが……クソ。なにも思い浮かばない。一体どうあの力を対処すればいいんだ?)

 俺はそれを防ぐため、なんとか対処法を編み出そうと思考を巡らせる。

 自身の今持つスキルと、麒麟が座標交換を使った時の記憶。その両方の中から何か対処法はないかと、考える。

 だが思い浮かばない。俺の持つスキル、その全てがそれを対処する力を持ち合わせていなかった。

 ねんりき、サイコクラッシュは言わずもがな。自己暗示だけでは突破は難しいだろう。それは反射、コピー、グラビティコントロール、具現化、引き寄せ、サイコエンチャント、念動力、ミラージュステップ、サイコブースト、ダウンコントロール、そして遅延にも言えることだ。

 もしかしたら、と思ったのは転送である。

 位置を入れ替えた麒麟の元へ自身を転送すればいいのでは、と。

 だがダメだ。俺が転送される、その間に麒麟はヴェールを動かす余裕があるだろう。そうしたら剣をそれに防がれ、また麒麟に座標交換をさせる隙が生まれる。

 (思い浮かばない……マジで、この問題をどうにかしないと俺はヤツにこの作戦を終わらせる一撃を放つことができない。ようやく麒麟の攻撃や姿を隠すあれとかに対する対処法はできてきたのに、これが対処できないだけで俺たちはこいつに勝てない)

 そう俺が悩んでいると、リコが声を出す。

 「智也、何に悩んでいるのか知らないけど、私の力があればあなたに新たな力を生み出すことはできるよ。別にそうしろって言ってはないけど、それを選択肢に入れるのもありだと私は思う」

 「リコ……それはあれか? スキル錬金のことか?」

 「そう。それを使えば智也は新たなスキルを手に入れることができる。代わりに二つのスキルを組み合わせ、失うことになるけれどね」

 「……」

 (どうする。リコのスキル錬金で新しいスキルを作って、それに賭けるか? いや、それがもし酷いスキルだった時、俺は麒麟を倒すための手段になり得るものを二つ失ってしまう。今俺が持つスキルの中で失ってもいいスキルというのはない。だから二つのスキルを組み合わせてしまうというのは……)

 「いや待て……そうだ。そうじゃないか!」

 俺は思い浮かぶ。今ある自分の力のみで実行できる対処法を。

 「そのようすだと思いついたみたいだね」

 「ああ、どうしてだろうな。いっつもやってたのになんで頭から抜け落ちて……」

 「人間、焦ると重要なことが抜け落ちる。そんなことはよくあるみたいだからね。あなたもそうだったんじゃない?」

 「ははっ! そうかもな」

 俺が思い浮かんだ対処法。それは、組み合わせること。転送と、自己暗示。どうするか。簡単だ。転送後、ヴェールに守られるのならテメエに『テメエの剣はヴェールに干渉されない』と、そう暗示をかけちまえばいいのだ。

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