VS麒麟 作戦フェーズ2②
私、スファリエは、麒麟の攻撃を受け流すヴェールを前に弓を放てなくなってしまっていた。
私の弓は一度あれに受け流され、仲間の、桐生大翔さんの邪魔となっていたのだ。
(――っ! ずっと封印し続けた、言ってしまえば私にとっての禁術を解放して戦いに臨んだのに……それなのに、まったく貢献できていないっ……!)
私は自身の不甲斐なさに絶望感を抱いた。
――――――
そうして俺はその黄金の大剣を片手に、戦場に復帰した。そこではついさっきまでと同じように、大翔がフライパンを右手に、包丁を左手に、両方を高スピードで扱うことで麒麟の攻撃を抑え込んでいる。
(戦況に変化は見られないな……)
そう俺が辺りを見回していると、頭の中に麒麟の声が響く。
《戻ったか、挑戦者》
(へえ、心待ちにしていてくれたのか? 俺の戻りを)
そんな俺の冗談に麒麟は《馬鹿者。受けるモノがいないと試練にはならんだろう》と真っ当な意見を返す。
《して、そのような得物で我を狩るつもりか? 挑戦者》
麒麟は大翔と、あたりの岩が割れるほどの衝撃波が巻き起こる攻防を繰り広げながらも俺の黄金の大剣に視線を移してそう問うた。
(ああ、そうだ。これはお前に重傷を負わせるための俺の最大火力)
《ふっ……そうか。であれば見せろ。その最大火力とやらを》
余裕そうな口調でそう言う麒麟に向けて大翔はフライパンを振るうが、やはり受け止められてしまっている。
「ウェポン錬金、短剣!」
そんな大翔を援護するためか、リコはそこら辺の小石を錬金術で短剣を生み出し、それを麒麟に向けて投げた。
だがそれだけではどうせあの麒麟の身を守るヴェールに受け流されるだろう。しかし彼女の狙いはそれを麒麟に当て、ダメージを与えることではなかった。
やはりわかっていた通り、くるりんと麒麟のヴェールは動いて短剣を受け流す。
「はっ!!」
その瞬間、ヴェールが短剣に構っていた隙にスファリエが弓を放ち、麒麟に光の矢を突き刺した。
リコはスファリエに視線で合図をしていたのだ。ぱちくりと瞬きをすることでスファリエにこの隙に攻撃をしてくれと。そんな合図である。スファリエは正しくこの合図を受け取り、正確に隙をついて矢を放ったのだ。
「さすがはスファリエとリコだな」
俺はそのやりとりを見て、そんな感想を口にした。
そして矢を受けた麒麟の方は、ダメージを受けて体勢を崩していた。
「だあっ!!」
その隙をついた大翔のフライパンに、さらに麒麟の身体は叩かれる。
傾けられた麒麟の身体は、そいつ自身の力で瞬時に地面と並行に戻される。
《ふ、ははっ、新たな試練を挑戦者に与えよう》
そんな麒麟の高らかな笑い声と言葉が俺の頭に直接送られた時、そいつの身体は神々しく輝き始めた。
(な、新たな試練だって?)
俺がそう思うと、ついにと言うべきか、ようやくと言うべきか、麒麟は俺だけに聞こえる形でなく、ここにいる全員が聞こえる形で言葉を発した。
「指定完了—座標交換」
「しゃ、しゃべっ——!?」
桐生大翔が動揺してそう発した瞬間、彼の姿はブンッ、と消えた。
そのすぐ直後、その姿はリコ・ガラポーユのものとなった。
「えっ……!?」
「なっ……!」
そんな言葉を口から放り出したリコと大翔の立ち位置が先ほどから入れ替わっていた。
「ガラポーユさんっ!」
そう叫んだスファリエが見ていたのはまさにリコの目の前にいる構えた麒麟の姿。
「ぐ、う゛ぅ……!?」
麒麟はつい先ほどまで自身の目の前にいた桐生大翔と、常に後方に位置していたリコ・ガラポーユの位置を入れ替え、そのまま大翔のいた場に移動させられたリコの腹を蹴り飛ばしたのだ。
「ガラポーユさん!! く、多重結束草ッ!!」
吹き飛ばすリコの身体をスファリエが魔技を使って受け止める。
「があ゛っ!」
衝突時の衝撃を受けたリコは真っ赤な血をばっと吐き出す。
「ぐう゛……し、収納。来て、超回復薬……」
そう言ってリコは傷ついた身体で収納の空間を開き、手を突っ込む。が、その瞬間に麒麟はさらに技を発動する。
「対象識別完了——指定破光砲」
その言葉と共に麒麟の口から放出された細いビーム。それはリコの方へと突き進んでいく。
「リコっ! く、転送っ!」
俺は自身の身体をリコを守るため、彼女の前に転送させる。
「なっ……! 曲がって——」
しかしそのビームはまるで急にハンドルを回した車のようにギャン! と方向を変えて進む。
《其方は花を育てたことがあるか?》
(……? ないけど)
突然俺の頭に放り込まれた問いに対し、俺は嘘をつかず、真摯に答える。
《そうか……まあいい。我が思うに、花を育てることは気を遣って育てるから面白い。たとえ枯れても勝手に美しい姿に再生する花を育てることになんの面白さがある? ああ、そうだ。この戦いというせっかく面白いはずのものをつまらないものとしているその要因を消してやろう》
麒麟の声が俺の頭に響く。
(つまらないものとしている要因、枯れても再生する花……まさか!)
麒麟の話した花を用いた例え話。俺にはそれを全て理解することはちょっと難しかったが、それでもそれが表す、これから起こる事象を理解することはできた。
「えっ……!?」
「くっ!!」
しかし、それに気がついた時にはもう手遅れ。今考えれば麒麟が妙な例え話をしたのには俺の動きを止める意図もあったのかもしれない。
麒麟の放ったビームはリコの収納が生み出す謎の空間に入り込んでいた。
(くそっ! やっぱり戦闘中に無駄な話はするもんじゃあない!)
パリィン
一度、そんな音が収納の中から聞こえると
パリィンパリィンパリィンパリィパリパリパリパリパリパリパリ————————————
連続してガラス瓶が砕ける、正確に言えばビームに貫かれ、砕かれる音が鳴り響く。
「まさか……このビームは超回復薬を全て砕こうというの!?」
「そのまさかだ! リコ! ひとまず収納を閉じろ! まだまだこの絶え間なく続くビームが入り込んでいくぞ!」
栓を閉めていない風呂に水を流し続けるように、ビームはいまだに途絶えることなく麒麟によって放出され、収納の空間内に入り込んでいく。
リコは俺の言葉を聞いてすかさずその栓を閉じる。
と同時に麒麟によるビームの放出も止まった。
「まずい……今ので多分超回復薬は全部やられた。今からの戦闘はまともに回復できないと思った方がいい……」
超回復薬、リコから負傷のたびに渡され使用されていた回復薬の名だ。
これまでの麒麟との戦闘では俺たちはそれを使って、いわゆるゾンビのように再生、回復を繰り返して何度も麒麟とやり合っていた。しかしそれが全て破壊されたことで俺たちはもう、もし動けないほどの怪我を一度でもおってしまえば終わりだ。
「ひとまず一つだけ、さっき手に取った超回復薬は残ってる……から」
リコがそれを懐にしまうと、その瞬間に麒麟は大地を蹴り、駆け出した。その残った超回復薬を砕いてやろうと、そんな目論見が麒麟から見え透いている。
「引き寄せっ!」
俺は麒麟を止めるため、ほぼ唯一麒麟に打ち消されぬそのスキルを麒麟に当てた。長い赤紐の先端である右手を引いて、麒麟をこちらに引き寄せようとする。
「指定完了—座標交換」
「なっ! また……!」
その時、リコと大翔の位置が入れ替わったように今度は麒麟とスファリエの身体がブンっと消えたかと思えば、立ち位置が入れ替わっていた。
「くっ……見上さん!」
どころか麒麟を引き寄せていたはずのそのスキルは、そのままスファリエを引き寄せる。
俺は焦り、その糸を断ち切れずに彼女を引き寄せ続けてしまい、ゴツーン、と俺の彼女のデコが勢いよく衝突した。
「あ、あう……!」
「ぐ……!」
あまりにもいい勢いで衝突したスファリエと俺の二人は目を回してしまう。
そんなうちに麒麟はもともとスファリエの居た場でツノをギラギラの輝かせ、ビームを放つ。それの行先はやはりリコ・ガラポーユの元だ。
「任せろ! 包丁研ぎゥ!」
大翔の手にはキラン、と輝きを放つ包丁。リコの正面に立ち、そしてすこし横に移動する。その位置はちょうどビームの通る真横。
「大翔、何を……!?」
「はああ!!」
そうして麒麟のビームが突き進んで彼の横を通過し始めた時、彼の包丁はそれを“切り始めた”。それもまるできゅうりやネギを切るかのように。
大翔の包丁はビームをまるでまな板の上に置かれているかのように薄い輪切り……いわゆる小口切りにしていった。
「す、すごい……! 切られた薄いビームが推進力を失って地面に落ちていく……!」
リコは正直彼の包丁がなぜビームを野菜の如くカットできるのかは理解できなかったが、その不可解な力が自身を救ってくれたということで、何かケチをつけることはできなかった。
「包丁は研げば研ぐほど切れ味が増す。つまりよく研げばビームも切れる!」
大翔のその理論に思わず意識を取り戻し、俺は「包丁を研ぐってすごい!」と、言葉を発した。
麒麟の身体はその光景に一瞬驚いたように見えたが、すぐにそれは見えなくなった。物理的に、マジに見えなくなった。つまり、あの姿を隠す力を使ったのだろう。
「麒麟が姿を隠しました! 気をつけてください!」
そのことを認識したスファリエが周囲に忠告をする。声を聞いた俺、リコ、大翔は武器を持ったりして構える。
が、一向に麒麟は姿は表さない。すでに姿を隠してから1分ほどたった。
(なるほど……あのやろう。俺たちが待ち続ける中で隙を見せるのをひたすらに待つつもりか……! 確かに姿が見えない以上、こちら側から仕掛けることは難しい……)
俺はそう感じながらも、決して構えを崩さず、油断をせぬようにその大剣を持つ。
そのままじっとしていると、その膠着状態の最中、スファリエが声を上げた。
「油断をせず、その構えを崩さぬまま聞いてください!」




