VS麒麟 作戦フェーズ2 ①
「まずは先手必勝です! はあ!」
「ああ!」
直後、スファリエが矢を放つ。と同時に大翔がその矢と共に麒麟に接近する。しかし麒麟はその矢を前に一歩も動かない。いくらスファリエの矢のスピードが速いとはいえ、さっきよりも離れているため多少の余裕はあるうえに、今回は俺や大翔とやり合っていないのだ。つまり麒麟はその矢を動かずに対処できる。もしくはまだ対処しなくても問題はない。のどちらかだろう。
「気をつけろ!」
そう考えた俺は接近している大翔に叫んだ。大翔はこくりと頷き、そのまま走る。
そんな最中、矢はついに麒麟に命中寸前のところまで進んでいた。瞬間、麒麟は背中のヴェールを動かした。
「なっ……! あれで受けるつもりか!」
そう俺が叫ぶと、大翔はダッ! と横に跳び、そのまま麒麟の背後まで回り込んだ。と同時に矢はそのヴェールに衝突する。
「あの矢はあのような程度のヴェールにに受け止められる程度の代物ではありません!」
「いや、違う。あのヴェール……受け流すつもり!」
そのリコの言葉は正しく、受け止められてもなお進むエネルギーを失わないその矢をヴェールはくるりと後ろに、正確にいえば大翔の方へと受け流した。
「なにっ!?」
瞬時に大翔はその場で屈み、矢を回避した。しかし麒麟はくるりと振り向き、立ちあがろうとする大翔を前足で蹴り飛ばす。
「が、あ……!!」
勢いよい蹴りを受けた大翔はギャンッ! と吹き飛んでいく。
「――っ! ラバーシールド!」
吹き飛ぶ大翔をリコは取り出したそれで受け止める。柔らかいラバーでできているうえに、その勢いを受け止めても破れることのないそれはクッションとして最適であった。
「ぐふっ……」
「これ、使って。前に量産できるようにしておいてよかった」
「さ、サンキュー!」
大翔はそれに支えられながら吐血する。リコはそんな大翔の元に近寄り、また先ほどの回復薬を彼に手渡す。
(とりあえずあっちは大丈夫か。となると大翔が回復している間は俺が麒麟の相手しないとな)
そうして俺は麒麟の方へ剣を持ち、走り始める。
(フェーズ2に移行して早々に作戦外の動きになっちまったか……)
元々作戦では、俺は最大火力の『黄金の大剣』を構えて機を伺う形であり、前線へ出ることはほとんどないはずだった。
(まさか麒麟に強化形態みたいなのがあっただなんてな……。もとよりあの時の俺は全然本気を出してもらえてなかったんだからこれくらい考慮して作戦を立てるべきだったか)
この状況は完全に俺の考えが甘かったせいだ。であればやはり俺が一度なんとかするのがケジメって奴なのではなかろうか。そう思いながら俺は麒麟にスキルを発動する。
「サイコクラッシュっ!」
(もしかしたら……本当にもしかしたら今の麒麟にならスキルが効果を持つかもしれない)
そう考えて俺はそのスキルを発動した。試す時にヴェールに受け流されるとかなり困ってしまう。ねんりきやサイコショットだとあのヴェールに受け流される恐れがあるため、俺はただ爆発を起こすだけのサイコクラッシュを選んだ。
(さて、どうなる)
そう俺が麒麟をじっと見ていると、そいつはその場から一歩も動かずに爆発に飲み込まれた。が、やはりダメージがあるようには見えない。
(サイコクラッシュは一応地面に対して作用してる感じなんだが……)
瞬間、麒麟はその場から飛び出して俺に蹴りを放つ。すぐに俺は剣でそれを受ける。その蹴りはかなり重たいもので、俺は軽く後方にザザッと音を立てて下げられる。
(あの威力、ただ受けるだけじゃあドンドン追い込まれちまいそうだな……)
そうして俺は麒麟の攻撃は受け流す方向で戦闘を進めることにした。
戦いながら考えていると、俺はたった一つ、ある違和感を感じた。
(あれ……なんで引き寄せはあいつに効果あったんだ?)
引き寄せだって、立派な麒麟に作用するスキルだ。であるならば打ち消されるはずなのに、ねんりきのように打ち消されてはいない。ということはヤツに打ち消される条件が“間違っていた”のだろうか。
そう思った俺は探りを始めた。
とはいえ試すといっても麒麟の猛攻に耐えながら試さなければならない。ということで麒麟との戦いで使いやすいモノから。
「まずは引き寄せ!」
これは順当に効果を発揮した。いつものように麒麟の透明化の対策としてしっかりと。
(よぉし、次はこれだな)
そうして俺はサイコエンチャントを付与した剣を、リスク承知で一度手放す。
「念動力!」
そう、空中に放り投げられたその剣をスキルの効果で動かす。受け流されては面倒なのでヴェールを避けるように麒麟に向かわせる。 剣の操作は俺の思考によって行われているため、俺は麒麟の攻撃を回避しながら剣を操作しなければいけないのはかなり大変だ。
麒麟は剣を寄せ付けないようにヴェールを動かすため、剣はなかなか麒麟のふところに入り込むことはできない。
(はあ、ちょっと贅沢するか)
そう決めた俺はスキルを発動する。
「自己暗示っ!」
そのまま俺は剣に関する想像を行う。
『俺の剣は麒麟のヴェールに干渉されない』!
その創造が具現化された結果、剣を受けようとするヴェールをそれは通り抜けて麒麟を斬る。
(よし、念動力は消されないみたいだな。ついでに自己暗示の影響もかき消されてはいないらしい。あとは……)
「これだな。遅延っ!」
遅延で生み出される、物体の動きを遅くする力が作用しているその空間。それは目で見えるくらいの、薄い紫色に染められている。まるでそこにだけ透ける紫色のプラスチックの板を被せたようだ。
俺は麒麟の元にその空間を作り上げた。
その範囲は紫色に染め上げられる。
瞬間、パァン とその紫色は"割れた"。空間が砕かれたのだ。
「――ッ! ダメだったか!」
やはりどんな基準でスキルが消されるのかはよくわからない。であるため俺はそのまま剣での戦いを続行しようとする。
(いや、待て。こう言ったことを解き明かすなら都合のいいスキルがあるじゃないか)
脳にそんなスキルが思い浮かぶ。それは俺の手の中にあるスキルではない。
そう、リコのスキル『鑑定』である。
(ただ……あれを使うには対象に触れなきゃいけない)
ということは後衛前提のリコに前衛に出てもらう必要があるのだ。それは作戦を大きく破綻させることに繋がり、そしてリコを危険に晒すことでもある。
(ああ、やっぱなしだな。これは。結局あれの正体が分かったところで大きく優位に立てるわけでもないんだ)
そう判断した俺はすぐにその考えを頭から捨て去り、麒麟との戦いに集中する。つもりであった。
《我に挑みし、力を求める人間よ。其方の気概を認め、この力の答えを教えよう》
そんな言葉が考えを捨て去った頭に直接入り込んできた。
(な、この声は……? や、多分麒麟……なんだろうな)
その答え合わせをするようにその女性のような声は言葉を紡ぐ。
《まず第一に、これは其方にしか聞こえていない。理由は語らずともわかるから省くが、これから伝える情報は仲間に共有するも、其方の中で留めるも好きにするが良い》
今もなお俺と戦闘を繰り広げる麒麟の声はそんなことを語る。
(理由は……俺がリュールストーンの持ち主だからだろうな。これから言われるであろう情報とやらはきっとあの打ち消す力の正体だろうが、そうであれば共有しない理由はないか)
俺がそう考えていると、麒麟の声はその力の正体を語り始めた。
《この力は自動的に、我に害を成すと判断した魔技やスキルを打ち消す力だ。故、其方の引き寄せはこの力が害のないものだと判断してしまったため、打ち消すことができなかったわけだ》
(ははあ、なるほど。そりゃねんりきやサイコクラッシュ、それに遅延は消されるわけだ。ただ、害を成すの基準が明確にわからない以上、あまり対策できないな)
俺は麒麟の言葉を聞いてそう判断した。
(とはいえ共有しておくだけしておいてもいいくらいの価値はあるためあとで共有しておこう。それにしてもなんで麒麟は突然言葉を発して俺に教えてくれたんだろうか。まあそんなこと問いている余裕なんてないが)
俺がそんな疑問を心のうちに収めておくと、またも麒麟の言葉が脳に響いた。
《ふははっ、答えてやろう。その質問に》
(おいおい、心まで読めるのかよ。さすがは神様の使いだな)
《まあな。してその質問の答えだが、面白い戦闘を求めるが故だ》
「はあ?」
ぽろっとそんな失礼な言葉が漏れてしまった。
《ふふっ、其方ら人間だって愉快な物事を好むだろう? 我とて同じだ。このような戦い一つですら愉しみたいのだ》
麒麟は笑うような声で語る。
そいつの言うことは理解できないわけでもない。俺だって楽しいことは好きだ。
結局俺はその言葉に納得するしかなく戦いを続けるが、少しだけそいつの言葉に狂気を感じるのだった。
情報を手に入れたが結局のところ、俺にできるのは剣による受け流しを活かした持久戦だけだった。
今までどれだけ自分がスキルに頼ってきていたかがよくわかる戦いだ。だが今は耐えているだけでいい。耐えていればいずれ……
「交代だ! すまねえな! 手ぇかけさせちまってよ!」
そう叫ぶ声の主は桐生大翔だ。
「加熱ぅ! からのぉ……パァンチッ!!」
後方から飛び出した男による、アツアツのフライパンによる打撃が麒麟の動きを止めた。
「包丁研ぎ」
大翔は右手の包丁を瞬時に研ぎ、切れ味を高めた。瞬間に麒麟は動き出し、またもや高速で大翔に蹴りを放つ。
「う、おらぁ!」
大翔は避けもせず、その蹴りを腹の腹筋で受け止めた。
「アイツっ……!」
先ほどは吹き飛ばされたその蹴りを、見事受け止めたのだ。
「さっきは気合いが足んなかったからなぁ! こんな蹴りでダメージくらっちまった! けどよぉ……こっからはこの程度じゃ俺はやれないぜ?」
直後、大翔による反撃が行われる。火力も、切れ味も高まった彼の自慢の調理道具による反撃である。
(気合いか……なかなか根性論にも感じるが、まあアイツなら大丈夫だろう。ここは一度任せよう)
そう判断した俺はその戦いの前衛から後衛へと移動するのだった。
ひとまずは作戦の第二フェーズは元の形に近い状態となった。ということで俺も自身の役目を果たす準備をしなければならない。
そうして俺はそのスキルの効果を活用する。
(ミラージュステップの分身よ、入れ替われ!)
一瞬のうちに俺の身体はその黄金の大剣の目の前にあった。
これこそが今の俺の最大火力。試し切りは全力を出して振ってすらいない一度だけだが、それでも俺はこの剣の潜在能力を理解できていた。
「ぐっ……やっぱり重い。けどまあ……筋トレやレベルアップが効いてるな。前ほどじゃあない。今なら満足に振ることだって……。よし、戻るか」
(ミラージュステップの分身! もう一回入れ替われ!)
そんな少しの間の離脱から俺は復帰するのだった。




