巨石の解析と神様の使い
「やあ、こんにちは。リコ」
「突然現れて……いったい何? その似合わない挨拶の仕方は」
店に移動した俺は、そこの店主にさっそくコンタクトをとった。がそれは辛辣な言葉で返されてしまった。
(さて、どう事情を話せば協力を得られるだろうか。こういった事で最も効果的なものは、相手が承諾したくなるような報酬を提示する事だと思う。俺はそれをリコから学んだ。護衛の頼みをされたときに、だ)
そう。俺は彼女に頼み事をされたとき、十分な『金』という報酬を提示されたことでそれを承諾した。
よって俺も彼女に協力したくなるような報酬を提示することにした。
(リコが欲しがる報酬か……なんだろうな。まあパッと思い浮かぶのは……)
そうして俺は彼女に協力をしてもらうよう、言葉を紡ぎ始める。
「一つ、頼み事を聞いてもらえないか?」
「条件次第ね」
俺の言葉に瞬時にそう返すリコ。
「それじゃあ……自然の、モンスターの文明に来て力を貸してほしいってのが頼みだ」
俺はそんな彼女に頼みの内容を伝えた。すると彼女の表情が大きく変わった。特に大きな感情が見えない平坦なものから、驚きか、呆れか、そのような感情が含まれる表情に早変わりだ。
「モンスターの文明? なんでそんな……もしかして智也、お前わざわざそんなところまで行って何かやっているわけ? もしかしてモンスター狩りでもしているの?」
「断じて違う。どちらかといえば自然のモンスターの手助けをやっているのだよ。俺は。んで、その手伝いをリコにもしていただきたいのだ」
「モンスターの手助け? その手伝いを私に? まず、状況と手伝いの内容を教えて」
彼女は困惑した様子で、それでも冷静に俺にそれを問う。
俺は簡単に彼女にそれらを説明した。
「といった感じだ。リコの力ならこの状況、あの石をどうにかできると思ってな」
「なるほどね……。モンスターにも派閥争いみたいなのあるんだね。それで本題の方だけど、確かに私の『鑑定』ならそれの正体から破壊方法まで判明させることができると思う」
彼女の言う通り、俺が彼女を頼った理由は『鑑定』というスキルだ。彼女のそのスキルは文字通り、その物質が持つ力や価値、性質などを分析、判断するスキルだ。
本来であれば専門的な知識と腕前が必要な鑑定という行為を、ワンタッチで行うことができる『鑑定』スキル。それがあればあの巨石の破壊方法もわかるかもしれない。
「いえす。俺はリコの力、もっと詳しくいうなら鑑定のスキルを求めている」
「だけどそれは私の協力を得なければ扱うことはできない。だから協力してほしい。そういう事でしょう?」
彼女は俺の言葉の続きをつづるようにそう続けて言った。
「協力を頼む立場でこう言ったことを言うのは申し訳ない気持ちでいっぱいだが、なるべく早く答えを出してくれないか。あまりのんびりしている暇は自然の文明にはないんだ」
今俺がこうリコと会話している間にも巨石は自然を侵食しているだろう。ゆえ、俺は彼女にそう言った。彼女はそんな俺に、すぐに答えを出してくれた。
「答えはイエス、かな。ただ条件付き」
「それは?」
「モンスターの文明で混沌のモンスターと戦闘をしたんでしょう? そこで混沌のモンスターの素材を私にくれないかな。もし今持ってなかったら今後手に入れたら、でいいから」
彼女のそんな条件に俺は頭を抱えた。
(混沌のモンスターの素材、か。うーん……そんなもの、持ってたっけか……? まあ別に今後でいいって言ってくれたし……あっ! いや、一応持ってたな!)
そうして俺が思い出したのは現在マイホームに置かれている、『ギュラドラ』というモンスターの死体だ。
「分かった、今から持ってくるよ。ちょっとデカめのモンスターの死体だけど大丈夫か?」
「……それってどれくらい?」
「この店くらいなら埋め尽くすほどの大きさかな」
それを聞いたリコは呆れたようにため息をついて言う。
「あとででいいから、解体してもってきて。そこまで条件に追加ってことで」
「分かったよ。それじゃあ協力はしてくれるってことでいいんだよな?」
そう俺が確認を取ると彼女はこくりと頷き、「うん」と声を発した。
「ありがとう。それじゃあ早速行こうか。自然の文明に」
「とはいえ、一体どうやってそこに行くつもり? ああ、いや……少し待って。普通に無視したけど、あなたってさっきここに来たとき、突然現れたよね。前の分身と入れ替わるのとは違いそうだし……。また新しいスキルを手に入れたのか」
彼女は生まれた疑問の答えをすぐに見つけたようだ。
「正解だよ。とはいえこれは別に最近手に入れたもんでもないよ。前の、あの……そう。刺し穿つ数多の飛翔剣のとき。あのときにはすでに手に入れてたスキルなんだ」
1週間と数日くらい前だろうか。その技を発動するためにいくつものスキルを順に発動するというものがめんどくさく感じた俺はリコに相談しに行ったのだ。
その頃にはすでに『転送』のスキルを手に入れていたということを俺は彼女に告げた。
「へえ、あの時にはもうあったんだ……。それじゃあそれの力で早速行こう。私の気が変わらないうちにね」
「そうだな。それじゃあ俺の手を持っていてくれ」
その言葉を聞いたリコはスッと俺の手を軽く握る。 『転送』は俺と、俺が触れているものなら同時に移動させることができる。そのうえ俺だけ、触れているものだけの移動も可能な万能スキルである。その力で俺とリコを同時に移動させるのだ。
「よし、行こう。転送!」
瞬時に俺とリコは自然の文明の、スファリエのそばへと移動した。
「見上さん、その方がそうなのですか?」
リコの姿を見たスファリエが俺の方を向き、そう聞く。
「うん。こちらの方が錬金術師のリコ・ガラポーユだ」
俺の紹介の後、すぐにリコはスファリエに「よろしくお願いします」と言って頭を下げる。
「それじゃあ早速お願いしてもいいかな」
俺がリコの方を向いてそう問うと彼女は頷いた。
「とはいえ、この地面って乗ってもいいモノなの?」
彼女はその侵食され、紫色となった地面を指差しそう俺に聞く。
「あー……どうだろう。念のためそれに乗らないようにあの巨石に触った方がいいかも。もしジャンプとかで巨石まで行けそうになかったら手伝うよ」
「それじゃあ手伝いお願いする」
そうして俺は彼女に触れ、スキルを発動した。
「グラビティコントロール!」
その瞬間、リコにかかる重力が小さくなった。
「うん、これなら大丈夫だと思う。それじゃあ行ってくるよ」
そうしてリコが跳躍しようとした瞬間、スファリエが声を上げる。
「少しお待ちください」
その声を聞いた俺とリコはスファリエの方を向いてその言葉の意図を聞く。
「どうしたんだ?」
「侵食された地面に触れるのがダメだとしたら、その根源であるものに触れるのもまた同じなのではないでしょうか」
「ああ、確かに。火が燃え移った紙に触るのを避けたのに、元の火に触れにいくようなもの。少し待ってください」
そうスファリエに使って言ったリコはスキルを発動させた。
「開いて、収納」
瞬間、謎の青白い空間に繋がったゲートのようなものが宙に現れた。
「そのスキルは何?」
俺がリコにそう聞くと、彼女は答える。
「錬金術師のスキルの一つ。このおそらく無限に広がる空間の中にあらゆる道具や物体を収納することができるの。取り出しも可能」
「なんじゃそりゃ。アイテムバッグの何十倍も便利じゃないか」
アイテムバッグはあらゆる物を5個まで収納することができるが、彼女のいい方からするとそのスキルは無数に収納することができるみたいだ。
「ちなみに取り出す時ってどうするんだ? その空間の中にあれもこれも入れてたら取り出したい時に取り出したいものが出せなくなってしまいそうだけど」
「それもこのスキルの便利なところ。出したい物を思い浮かべながら手を入れると……」
そうしてリコはその空間に片手を入れ、そして何かを取り出した。
「こんなふうに手の元に物がやってきてくれる」
「はへー、なるほど。ちなみにそれは?」
俺はリコが取り出し、手に握られていたそのアイテムを見てそう聞く。
(ぱっと見手袋みたいだな)
「見ての通り、手袋だよ。万能な手袋だけどね」
俺の考えは正しかったようだ。
「万能か。とにかく、それをつけていれば巨石の侵食を受けないのか?」
「まあそう言うことだね。ちなみにこれも錬金術で生み出されたシロモノだよ」
彼女はそれを身につけながら、それの誕生秘話を軽く俺に語った。
「人間の術というのは万能なのですね」
スファリエはそれを見てそんな感想を言った。
「まあ……多分錬金術くらいだよ。こんなになんでもできる術ってのはね」
俺はそんなスファリエにそう言うのだった。
「それじゃあ、準備が整ったから行ってくる」
そう、手袋をつけ終えたリコは俺たちの方を向いて言った。
「うん、行ってらっしゃい。頼んだぞ」
「お願いします。リコ・ガラポーユさん。どうか自然の文明をそのお力でお救いください」
俺とスファリエはそう言ったリコを見送る言葉を口にする。
「そんな堅苦しい言葉じゃなくて大丈夫ですよ。それでは」
直後、リコはぐっと足に力を込め、大きく跳躍した! ぐんぐん彼女は巨石に近づいていき、そしてそれに手を触れた。
「鑑定!」
瞬間、リコの脳内にはあらゆる巨石に関する情報が流れ込む。
(まさかこんな物質が世の中に存在するだなんて。いや、むしろこれは……あってはならない物質……)
その情報を瞬時に整理したリコはそのようなことを思っていた。
そうしてリコは巨石の向こう側の侵食されていない地面に着地し、直後こちらへ再度跳躍して戻ってきた。
「どうだった?」
俺はそうリコに聞く。するとリコはやや困ったような表情を浮かべて答える。
「ひとまず結論から伝えると……破壊は難しいかもしれない」
その言葉を聞いた瞬間、俺はスファリエの方を見る。するとその顔はかなり曇っていて、今にも「そんな……」と言った声が出てきそうだ。
「とりあえず……詳細を聞いてもいいかな」
「うん……。まずはあの巨石の詳細だけど、あれは魔技? というものでこの世に顕現させられた"神様の失敗作"」
「神様の失敗作?」
俺はリコから告げられたその言葉の意味を考えた。が、特に答えを導き出せそうにないためすぐにリコの言葉の続きを聞くことにした。
「うん。神様がこの世界に生み出そうとした物質。けれど神様はそれをこの世界に生み出しはしなかった。そんな物質を、魔技っていうものを使ってこの世界に呼び出したみたい。その混沌の軍事ってやつは」
「待ってくれ。よくわからんけどあの巨石は神様が作ったもので、失敗作なんだろう? だったらなんであんな恐ろしい耐久性を持っているんだよ」
俺はリコの話で生み出された疑問をそのまま聞いた。
「神様の話を人間の価値基準で考えない方がいい」
リコは俺の質問にそう返した。
「つまり、我々からしたら失敗作というと出来の悪いモノと言った意味で使われることが主ですが、神様からしたらそれ以外にもその言葉は使われるということですか?」
「はい、そういうことです」
スファリエが自身の見解をリコにつたえ、リコはそれを肯定した。
「智也にもわかりやすく伝えると、例えばあなたが物語を作るとしよう」
「うん」
「物語を作るうえで、主人公とそのまわりの人物を生み出すとする。その時、そのまわりの中にとても頭が良くて、力も飛び抜けて強くて、そのうえ世界の真理を全て把握しているような、完璧超人な人物がいたらその物語はどうなるでしょう」
「うーん……多分、めちゃくちゃになるな。あ……なるほど。つまりそれがあの巨石か」
俺はリコの例え話を聞いてあの巨石についてを理解した。
「うん。つまりあれは神様が作った、この世界という物語をめちゃくちゃにしてしまいそうな"失敗作"ってわけ」
「なるほどなあ……。ちなみにそんな規格外なものを破壊する方法はあったりするのか……?」
俺はそんな話を聞いてなお、この自然の文明を救うための手段を模索する。
「……最も確実な方法は神様の力をぶつけること」
リコの言葉を聞いたスファリエは感情を言葉に乗せて発する。
「そ、そんなの不可能じゃ、ないですか……」
「そうですね……。他に手段を挙げるなら、神様の力に匹敵する力を……」
「ちょっと待ってくれ」
俺はそう、リコの言葉を静止した。理由は簡単で、神様の力というのに心当たりがあったからだ。
「どうしたの……? 智也。他に破壊する手段でもあるわけ?」
「他にっていうか、神様の力に心当たりがあって……」
瞬間、リコとスファリエはそろって声を上げる。
「は?」「え!?」
そんなほうけたような声を上げた直後、リコはそれがどういうことかと俺に問いかけた。
「えっと……ひとまずはリコ、これを鑑定してくれ」
そうして俺はポケットから、自然の文明のモンスターから譲り受けたストーンを取り出す。
「これは?」
「ここの、自然の文明のモンスターのパトルって方から……」
そんなふうに俺が言った瞬間、スファリエはまたもや声を上げた。
「ぱ、パトルですか!?」
そう言った彼女の顔は呆気に取られたような表情になっていた。
「知っているのか?」
そんな彼女に俺はそう聞いた。
「はい……。彼女は自然の文明の軍の主力四人のうちの一人です。確かに彼女はそのような石をいつも持ち歩いておりましたが……一体どのようにして彼女からそれを譲り受けたのですか?」
スファリエは俺の手のストーンをじっと見つめてそんな疑問を発した。
「なんか……ギュラドラってモンスターを倒したら、パトルさんがそいつと戦闘してたらしく、命を救ってくれたからって……」
「ギュラドラと……。なるほど、確かにヤツが相手となるとパトルでも一人で相手するのは厳しいでしょうね……。ありがとうございます。彼女を救ってくれて」
スファリエは何かを悟ったようにそう俺に頭を下げて言った。
「や、別にいいよ」
(強そうなモンスター探して戦ったら偶然助けてただけだし……)
「それで彼女、いや彼女の父親曰くこの石、リュールストーンには神が宿るらしい。それが本当なら神様の力ってのもなんとか引き出すことができるんじゃないかなって……」
俺がそう説明すると、リコはすぐにそれに触れた。
「鑑定」
そんな彼女の顔をじっと見ると、やや曇っていた顔が明るくなっていくことがわかった。
「どうだった……?」
俺はおそるおそると言った感じでリコに聞く。言ってしまえば、リュールストーンこそが最後の希望。これがダメだったら本当にあの巨石に対して俺たちは打つ手がない。だからこそ俺はそれがダメだった時のことを考えて不安になっている。が、そんな俺の心は良い形で裏切られた。
「どうにかなるかも。確かにそれには神様が、いや正確にいうと神様の力が宿ってる」
「本当ですか!?」
リコの言葉にスファリエはすぐ反応し、本当かという問いかけをした。
「はい。だけど、その力を引き出す方法がかなり難しいものです」
「それは?」
「神様に認められること。それを、神様の力を扱うことができる器だって認めてもらうことだよ」
リコのそんな言葉に、俺はそんなことができるのかという感じで聞く。
「神様に認められるだって?」
「神様に直接謁見して、認めてもらう。それが神様の力を引き出す方法」
リコの言葉からは、このようなことはできるのだろうかといった懐疑の感情が含まれていた。
「神様と謁見する方法はあるのか?」
「うーん……。あるには、ある。難しいけど」
彼女はかなり頭を悩ませた様子で言葉を続ける。
「まずは再現性の高い方法から。神様の興味をひいて、神様の領域に招待されること」
「興味を引くというと?」
「人間と同じだよ。例えば、国の騎士団長が王都のど真ん中で裸踊りでもしたら、確実に話題になるでしょう?」
俺はそんな例え話の光景を頭に浮かべる。
「騎士団長が裸踊り……まあそうだろうな」
そんな例え話に納得をした。
「それを神様の規模感で行うの」
「世界の真ん中で裸踊りすればいいのか?」
「ふざけてるの? 裸踊りは例え話」
リコは俺の言葉にそう反応する。
「じゃあ何をしろって言うんだ? 俺には神様の規模感で行う裸踊りだなんて皆目見当もつかないのだが」
「ひとまず裸踊りから離れて。神様の興味を引く……神様の使いでも倒す、とか?」
彼女は軽く悩み、そんな意見を提示した。
(神様の使いか……。そもそもそんなやつこの世にいるのだろうか。リコの鑑定や、神様の加護とかの話から神様がいるっていうのは確実だろうけど、神様の使いなんてものはみたことも、おとぎばなし以外で聞いたこともない)
俺はかつてある一つの、俺が唯一読んだことのあるおとぎばなしによって『神様の使い』という言葉を聞いた。そのおとぎばなしというのが『太古剣聖物語』である。
それは、大昔の剣聖が試練を乗り越え、『剣神』というのに昇華すると言ったお話なのだが、その試練で出てくるのが神様の使いだ。試練の最後で剣聖に立ちはだかる神々しい、まさに神様の使いといった、モンスターのような生物。それが神様の使い。
そんなものを俺が思い出し、考えているとスファリエが声を上げた。
「神様の使いですか。自然の文明に過去にいた神様の使いはすでにここを離れ、人間の世界に行ったと聞いていますが……」
その言葉を聞いた瞬間おれはそちらへ振り向いた。
「え、いるの? 神様の使い」
「ええ、いますよ。神様の使いなら。居場所は確か……最近は人間の世界の、精霊峠? というところにいるそうです」
それを聞いた瞬間、俺の頭にはある心当たりが浮かぶ。
(精霊峠の神様の使い……。もしかしてアイツじゃないか? それなら納得するくらいには強かったし……。はあ、なんだか今日は心当たりがあることが多いな)
「どうしたの? 突然頭なんか抱えて考え込んで……似合わない」
「いやさ、あるんだよなあ……。神様の使いに心当たり」
それを聞いたリコはやはり口をあんぐり開き、「ええっ!」と声を上げたのだった。




