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劣化天職で最強  作者: 春の天変地異
モンスターの文明『自然の文明』編
118/134

モンスターの料理 『コウシャー』

 「パトルさんだったか、いい人だったなあ。いや、彼女はモンスターか。まーいーや、とりあえずこのリュールストーン、大事にしなきゃなあ」

 俺は貰ったリュールストーンを懐にしまっておく。

 「さて、契約だしちゃんと働かなきゃな。分身はちゃんと働いてるみたいだけど、本体が分身より働かねえってのはダメだろう」

 分身はどうやらしっかり仕事をしているようで、実は先ほどのパトルさんとの会話の最中にレベルが一つ上がって136となった。つまりそれほどの量モンスターを倒しているわけだ。

 

 「うーん、この辺にゃあもうモンスターがほとんどいないみたいだな。てことで別んとこいくか。グラビティコントロール!」

 周辺の状況を確認し、俺は大きく跳躍する。目的はさっきと同じく、強そうなモンスターだ。

 「みた感じ今は自然が優勢そうだ。お、俺の分身もしっかりと戦ってるじゃないか。このペースで倒してるんだからあれほどレベルが上がっていくのも納得だ」

 戦場を空から見下ろすと状況がよくわかる。ひたすら力で攻める混沌のモンスターたちの進行を、硬そうな木の壁で阻み、その裏や上から矢が光る弓や、スキルであろう力を用いて倒している。おまけに俺の分身が剣を片手にモンスターの群れに突撃してかなりのペースでモンスターを倒し続けている。結果、自然の文明は大きな被害を受けずに混沌を倒し続けることに成功していた。

 

 「あっ……!」

 そうして俺が眺めていると、この軍を率いているモンスター、『混沌の軍事』を発見した。すぐに俺はそいつの元へ行こうとする。

 「念動力!」

 宙に浮かび俺を襲ってくる混沌のモンスターたちを、念動力の力で黄金の剣を自在に動かすことで撃破してゆく。

 「解除!」

 そうして進んだ末、混沌の軍事の上に着いた俺はグラビティコントロールを解除し、そいつの前に降り立った。


 「駒が減るのがやけに速いと思えば……やはりキサマがいたのか、人間」

 俺の姿を視界に写すやいなや、そいつは俺にそう言ってくる。

 「うん、いい養分だったよ。おかげでたくさんレベルがあがった」

 「ふん……レベルを上げたいのなら自然を狩ればいい。混沌よりも楽だろう」

 「俺からすれば混沌と自然の強さに変わりはないよ。どちらも一撃ならよりレベルが上がりやすい方を狩るだろう? それに、もとより俺は別にここのモンスターを狩って強くなるつもりなんてないさ。ここに限らず、混沌に敵対するつもりもなかったんだけどな」

 「ではなぜ自然に加担する?」

 「ここを自由に歩いても良い権利をもらったんだ。いいとこだよ、ここは。少し前にここをぶらついたんだけどさ、そん時にメシを食べたんだよ」

 そうして俺は混沌の軍事にその時のことを話し始める。


―――――

 

 (ここは……メシ屋か。モンスターの文明にも、食事を提供する商売はあるんだな)

 俺はモンスターが集まる街のような場に訪れてその店を発見していた。そこはパステルカラーの木でできており、カラフルで賑やかそうな店だ。

 (どうせならここで少し遅めの昼メシを食べるのもいいけど、やっぱ他のお客さんが嫌がりそうだよな。俺人間だし)

 店の前で立ち尽くして俺がそんなことを考えていると、そこの店員であろう、きのみのようなモンスターが店から出てきて、ピョンピョン跳ねながら俺の元へとやってきた。

 「そこの人間の方、良ければうちで食べていきませんか?」

 「えっ……いいんですか? 俺人間ですよ?」

 そのモンスターの提案に俺は困惑して聞き返す。

 「実はウチの店、最近もっといい味を出したいと思ってまして、人間にウチの料理に関する意見をもらってみるのもありだと思ったんすよ」

 「なるほど。ただ、俺はここの通貨とか、そういうのを持ってなくてお代を払うことができそうにないんですけど……」

 店員の提案を聞き、俺は自身の事情を吐露する。

 「ああ、それなら大丈夫っすよ! 人間の意見を聞けるってだけで食事5食分の価値はあると思うんで!」

 店員は笑いながらそう言う。

 「まあ、それなら……」

 「やったぁ! 人間の毒にならない料理を提供するんで、そこの席で待っててくださいね」

 俺が提案を受け入れると、店員はそんなやや不吉な言葉を残して店の奥、厨房へと入っていった。そうして俺は指定された席に腰を下ろす。

 

 (モンスターの作る料理か。どんなもんなんだろうなあ)

 そうして俺が厨房の方を見る。

 (おお! 料理人ならぬ、料理モンスターが調理しているところが見られるのか! ……料理モンスターはいいづらいから料理人でいいや……)

 厨房はこちらから見えるようになっており、料理人が実際に料理をする様が見えるようになっていた。

 (ちょうど今から作り始めるみたいだな。火が出てるところに鍋みたいなのをセットしてる)

 料理人は鍋のような調理器具を加熱し始めた。人間のでも、料理によってはだが、まずフライパンや鍋を加熱しておくものだが、モンスターの料理にもそういったものはあるようだ。

 

 そうして少し経った後、ついにじっと待っていた料理人は手を動かした。

 (あれは……油か?)

 料理人は透明の液体を鍋に垂らした。すると、ジュワジュワと音を大きな音を立て始める。つまりあれは人間のとこでいうところの油なのだろう。

 そこに料理人はさまざまな食材を入れ始めた。刻んだ草、一口サイズの四角形に刻まれた肉、赤いきのみを順に入れていく。全て正体不明である。そこに料理人はさらに見たことのない食材を加えていく。

 (見たことのない食材ばかりでワクワクするぜ。さすがはモンスターの文明の料理だな)

 そうして俺はジィッと料理の過程を眺め続ける。料理人は恐ろしいほどの集中力で一つ一つの過程を素早く、丁寧にこなし続けた。その中には俺が全く見たことも聞いたこともないような動きもあった。それによって俺は、どんな料理が出てくるかワクワク止まらなかった。


 それから少し経って、ついに鍋の中身が皿に盛り付けられた。

 (ついに完成したか! まだ厨房にあるっていうのに、美味そうな匂いがここまでしてくる!)

 

 そうして料理人は皿に盛り付けられた料理を店員の一人に手渡し、さっきの店員はそれと、卵のようなものと水を持って俺のところまでやってきた。

 「どうぞ! こちらは『コウシャー』という料理です。このスプーンをつかってお食べください。卵はコウシャーにかけたり、ご自由に使ってください。食べ終えたら、感想をこの紙に書いてください。それと、もしもお口に合わなかったらいつでも言ってください。こちらで処理しますので!」

 「ありがとうございます。ではさっそく、いただきます」

 そうして俺はスプーンを手に取る。コウシャーと言われたその料理は、濃い赤の液体にさまざまな具材が入っている。人間の料理でならスープのようなものだ。だが食べてみれば全然違う料理かもしれない。ゆえ、俺は食べるためにそれをスプーンで掬う。

 (うお! すごくドロっとしている。スープというよりもシチューだな。これは。さあ、まずは一口だ)

 

 そしてついに俺はそれを口に入れた。

 「―――っ!」

 まず俺はゴクゴクの汁を喉の奥へ倒していく。ドロドロの液体が大量に俺の喉へと流れ込んでくる

 (これは美味い! まずはこの液体、汁だ。すくったときからそうだろうとは思っていたが、めちゃくちゃとろみがある。まるで溶かしたチョコレートだ。そして味もいい。ビーフシチューとかに似た味だが、辛味がある! 辛さってのはいいぜ。ピリッとした辛さが舌を刺激する。この感覚がたまらない!)

  そのまま俺は具材も噛んで、汁と絡めて飲み込む。

 (たくさんの具材があるが、全部美味い! まず印象に残ったのはこのブロックみたいな肉だ! 歯応えがあり、そして噛めば噛むほど味を感じられる。人間の世界でメジャーな、牛や豚の肉ではこの歯応えは味わえないぜ。この肉はかなり煮込んでいたと思うんだけどそれでもこの歯応えか。どんな生物の肉なんだろうなこれは。

 んでお次はこの草だな。こいつもいい味で、それが出汁みたいになって汁に溶け込んでいる。さらにさっき感じた辛味はこれ由来なんだな。こいつを舌に乗せた瞬間にピリピリと痺れたぜ。

 他にも、このきのみは噛んだときの食感がいい。プチュっと潰れて少しこれを潰すのが楽しくなる。味は、なんだか難しい味だな。先ほどまでのものと比べたら、これといって衝撃に残る味ではない。単に食感を生み出すために入れたのだろうか。ただこの食感があるおかげでよりこの料理が楽しめているな)

 俺はその料理を楽しみながらドンドン口に放り込んでいく。

 (お、これはシャキシャキしてていいな。もやしみたいだ)


 (これはタケノコみたいな感じだ。このコリコリとした食感が、すごい似てる)

 

 (これ……ふわっとしていて、それでいてスープの味がしっかり染み込んでる。柔らかくて口の中でとろける〜)

 

 そうして俺が食べるにつれコウシャーはドンドン減っていき、ついに残り半分となっていた。

 (もう残り半分か。となると……味変だな)

 そう考えた俺は、卓上の調味料に目を移す。

 (モンスターのとこにもこういった、卓上調味料っていう文化とかはあるんだな。さて、あるのは……ソルト、ブラックペッパー、ガーリック、チューリット。最後のやつだけ聞いたことがないやつだな。成分でも見てみるか)

 俺はそのチューリットのケースを手に取り、裏返す。そこにはしっかり成分やらなんやらが記されていて、俺は俺を読んでいく。

 (へえ、知らないものもあるが、見た感じ独特な風味を加える粉ってところか。かけてみるのもありだな)

 そうして俺は、それぞれを自分の理想の味を作るためにかけていく。

 (まずはガーリック、ニンニクだな。あまりどっぷりは入れず、ほんのりニンニクの風味がつくくらいを目指して入れよう)

 スプーンでニンニクを掬い、コウシャーに入れて混ぜ込む。

 (次にブラックペッパー。こいつで塩味と辛味を足していくぜ)

 俺はそのブラックペッパーの入れ物を傾け、トントンと叩いて入れてゆく。

 (さあて、あとはこのチューリットだ。味のわからないものを入れると理想の味から遠ざかってしまうかもしれない。だからこの行動はかなりのリスクがある。だが俺はやってやる! 成分を見てどんな味かを考え、そしてこれをすれば最高の味になると俺は思ったんだ。さあ、味合わせてくれ! 俺にその最高の味を!)

 そうして俺はそこにチューリットを、ニンニクの3分の1くらいの量入れる。

 (ニンニクよりも少なめにするわけは、独特な味は強すぎると料理の良さを壊してしまうかもしれないからだ。例えばマヨネーズ。アレはアレ独自の味をもっている。だからポテトサラダとか、あの味を主にした料理に入れるなら最高だろう。あとはアレを中和できるほどの味をもったのに入れると、その二つが混ざり合っていい味を出すこともある。だがこの料理はその二つに当てはまるかと言うと、そうでないと俺は思う。このチューリットは決してコウシャーに溶け込む味ではないと思うのだ。だから少なめにする。こいつには少なめだとしても味を出す力があると俺は思う)

 

 そして俺は『仕上げ』を手に取る。

 (さあ、仕上げはこの卵だ。こいつの中身を混ぜ込むことで俺の『究極のコウシャー』は完成する! 丁寧に、ミスしないように……叩き割る! そして中身を入れる! あとは箸を使って……混ぜ込む!)

 勢いよく俺が箸を動かすと、カチャカチャと音を立てながらコウシャーの中が混ざり合う。そして2色が1色となったとき、俺はスプーンを手に取った。

 (完成だ! これこそ俺の究極のコウシャーだ! さっそく食べよう!)

 そのスプーンで究極のコウシャーをすくいあげる。そして、そのまま俺は口に突っ込んだ。

 (〜〜っ!! 予想を超えてくるほどの最高の味だ! 卵、チューリット、ブラックペッパー、そしてニンニク。このどれもがそれぞれの役割を完璧に果たすどころか、役割以上の成果を上げてくれている! チューリットもたまらない! 食べたことのない味で、そのうえかなり強くて独特な味にも関わらずコウシャーに溶けこんでいる!)

 その最高の味に手が止まらなくなった俺は、ガツガツとドンドンそれを口に突っ込んでいく。もう俺の目には食べ終わるまでそれ以外映ることはないのだ。


 「ごちそうさまでした」

 コウシャーを楽しみ、満足感に包まれた俺はスプーンを空になった皿に入れて手を合わせる。そうして次に目を向けるのは感想を書くための紙だ。

 (ここまで楽しませてもらったんだ。正直にこの気持ちを文字に表さないとな)

 そうして俺はしっかりと、食べ始めから食べ終わりまでの俺の気持ちを文章にする。素のコウシャーから味変後の味まで。


―――――

 「てなわけで俺はここでそんな美味い料理を味わったんだ。俺はまたあの料理が食べたいし、人間の俺にあんな最高の料理を振る舞ってくれるここが好きだ。だからここに加担するのさ」

 「……なんとも馬鹿らしい理由だな」

 混沌の軍事は俺の話を嘲笑う。

 「確かにお前からしてみればそうかもしれないが……俺にとっちゃ加担するのに十分な理由だ」

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