自然の文明からの提案
「く、くそぉ……逃しちゃったか……」
俺はすでに裂け目が消えた虚空を見つめてそう口にする。
(はあ、できればここで仕留めておきたかったんだけどな。そうすれば……後ろの奴らの信頼もちょっとは得られたかもしれないのに。さて、次はこっちか……)
俺がそう思いながら振り返ると、そこには自然の文明のモンスターが多く集まってこちらを見つめていた。
(はあ、どう見ても何か言いたげな感じだな。……よく見たら混沌のモンスターがもういないな。ということは自然の奴らが倒し切ったのか。あの戦闘能力の差で……よくできたな)
そう考えながら俺がモンスターたちをじっと見つめ返していると、集団の中から人型のモンスターが俺の前へと現れた。
(おお、まるで人間の女性だな。苔のような緑髪に、太い木の枝のような角か。服も着てるし……ほんとに角以外は人間そのものと言っても過言じゃない)
俺は彼女から放たれるビンビンの敵意を感じながらも、じっと観察を続ける。
そうしていると、ようやく彼女の口は開かれた。
「貴方は人間ですね?」
そんな単刀直入な問いに俺は「はい」と答える。
「本来なら即刻捕えられる身分でありますが、貴方には我々に加勢し、カオスドラゴンを撃退したという功績がある。我々はそれを無下にすることはできません」
「そりゃありがとうございます」
俺は彼女の主張に適当に言葉を返す。
「敬語でなくて大丈夫ですよ。それで、私は貴方に問いたい」
「なんでしょう?」
「貴方はこれからどうするのですか? ここからでるつもりでいるのか、それともここで何かをしようとしているのか。どちらですか?」
彼女は厳格な面持ちで俺にそう問いかける。
(ああ……そういえばこれからどうしようかなあ。なんも決まってないや。とりあえずそのまま言っておくかあ)
彼女の問いに対する答えがない俺は、とりあえず今の俺の考えをそのまま言うことにする。
「ごめん、決まってないや」
「は、はあ? で、では貴方は人間の身で一体何をしにここへ訪れたのですか?」
俺のそんな答えに、彼女は驚いた顔で再度俺に聞く。
「なにって……興味があったから覗きに来ただけだけど……」
「あ、貴方……イカれているのですか……?」
「なんでだよ」
彼女は俺の答えを聞き、やや引いたような顔をしてそんなことを言ってくるため、つい俺はそんな言葉を吐いてしまった。
「こ、ここは貴方達人間からしたら命を狙ってくるという認識のモンスターが大量にいるのですよ……? そんなところに興味があったから覗きに……? なかなか理解できないのですが……やっぱり嘘はついてないのですよね……」
彼女は自分の手の方に目を向けながら言う。
「俺が嘘ついてないって、そんなことわかるのか? 確かに俺はほんとのことしか言ってないし、常日頃から真実しか言わない正直ものだけどさ」
「それはこの花の力です。この花の近くで嘘をついた瞬間、これの花びらが落ちてゆくのです」
(俺のボケを綺麗にスルーしたな。この人)
彼女の言葉を聞きながら、心の中で俺はそんなことを呟く。
「嘘を……か。"俺は自然の文明のモンスターに対する敵意や殺意を持っている"」
俺がそう口にした瞬間、彼女の手に持たれているものの花びらは1枚ひらりと落ちてしまった。
「なるほど。確かにそうみたいだな」
俺はその現象をしっかり確認してそう口にする。
「ありがとうございます。後にしてもらおうと思っていたことを先にしてくださり」
彼女は俺の言葉を聞いて、そう言った。彼女はどこか納得していない様子ではあるが、ひとまずは俺への敵意を減らしてくれていた。
「それじゃあ俺はどうすればいい? ここを自由に歩き回ってもいいのか?」
そんな彼女の言葉を引き出そうと、俺は最も彼女が言葉を出したがりそうなことを考えて言う。
「ダメに決まっています。貴方という人間がここを好き勝手に歩いていては、ここのモンスターたちが警戒し、もしかすると戦闘にまで発展するかもしれません」
「そうだよな。そりゃそうだ」
俺は彼女の意見に納得する。
「ただ、この自然の文明に協力してくださるのなら、貴方が自然の文明で活動できる範囲を僅かに生み出すことができるかもしれません」
「おお! それはありがたい。それで、一体私はどのように協力すればいいんだ?」
俺はそんなありがたい彼女の提案を聞き入れ、彼女が俺に求めるものを問う。
「ここ自然の文明の戦力になっていただきたい。貴方もわかっているでしょうが、自然の文明の戦力は混沌の戦力に大きく劣っています。攻め落とされるのも……時間の問題でしょう……」
「だから俺の力が使いたいってわけか」
「そうです。正直信じられない領域にいますが、貴方は混沌のものどもをほとんど1撃で撃破。どころか混沌のドラゴンを圧倒。これほどの力が我々の戦力になればここを守り切ることができるかもしれない……。もちろん常に貴方をここに縛り付けるわけではないのです。ここが本当にピンチの時に駆けつけて手を貸していただきたい。それだけです」
彼女は懇願するように俺にそう言う。
「それくらいなら全然いいよ。いっそ暇な時なら呼んでくれればいつでもすぐ行くさ」
(どうせ転送があるからすぐに行けるんだよな)
「本当ですか。であればかなりありがたい。それでは貴方にはこれを渡しておきます」
そう言って彼女は俺に一輪の花を手渡す。
「これは?」
「これと同じものがこちらにもあります。そしてこちらのものから花びらを1つ取ると……」
そう言った彼女はその花から花びらを1つもぎ取る。すると、俺の方の花びらもひらりと1つ離れて落ちていった。
「なるほど。そちらが俺を呼びたいって時にそれの花びらを取るわけだな」
「そう言うことです。それと……こちらもどうぞ」
そんなことを言いながら彼女は花を模したバッジのようなものを俺に渡す。
「これも何か特別な花ですか?」
「これは貴方がここで敵対視されないようにするためのもの。ここのモンスターたちはもちろん人間を警戒しています。ただの人間であれば発見された瞬間に攻撃対象となるでしょう。ですがこれを持っていれば、モンスターたちに受け入れてもらえる……とは行きませんが、少なくとも攻撃されたりはしません」
「なるほど。つまりこれを持っていれば、常識の範囲内でならここで動くことが許されるわけか」
「そういうことです。諸々ご理解いただけましたでしょうか」
説明をし終えた彼女は、そう俺に問いかける。
「うん、大丈夫だ。ありがとう」
「それでは、いざと言う時には呼びますのでひとまずご自由にお過ごしください」
そういうと彼女はその場を去るのだった。




