始まり
この世界には天職というものが存在する。
この世界に生まれた全ての人間には生後5年目に天職発現の儀式を受けて自身の天職を発現させる。
天職というものは基本的に両親のものが遺伝したり、その二つが合わさったものが発現する。例えば父が剣士、母が魔法使いとするとその子供には魔法剣士が、父がタンク、母がヒーラーとするとその子供にはヒールタンクが発現する。
そしてこの俺、見上智也は父母ともに剣聖とよばれる、剣を扱う天職の中でも最上位の天職をもつ父母の元に生まれた。そして日々強き剣聖となるための剣の訓練を積まされていた。
そして今日、俺は5歳となる。つまり天職が発現するのだ。俺はこの天職発現の儀式で剣聖が発現するのだ。そのはずだった。
俺は剣聖2人のもとに生まれたため、その子供の俺の天職発現の儀式にはたくさんのギャラリーが集まる。それこそこの街の大半の人が集まっているといってもいい。周りからの期待の眼差しが集まる。そして俺の天職が発現した。
ギャラリーの顔が変わる。ざわざわと声が立ち始める。期待と尊敬で溢れていたギャラリーの眼差しは混乱、軽蔑、さまざまな感情がこもった眼差しが俺に集まるがその全てが空気を暗くする。そんな空気を破ったのは俺の父だった。
「お前、その天職はいったいなんだ!!」
周辺にまんべんなく届くほどの怒号だった。
「お前の天職は一体なぜエスパーなんだ!?」
そう、父の言葉の通り、俺の天職は剣聖ではなく、『エスパー』だったのだ。エスパーという天職は、ハズレと言われる部類の天職だった。戦闘向けの天職で遠距離から様々な手段で攻撃をするタイプの天職なのだが、この天職がハズレと言われる理由の一つに魔法使いの存在がある。エスパーは同じ遠距離から攻撃する天職の魔法使いの完全劣化と言われている天職なのだった。
「お、俺にだって……そんなのわからない!」
俺は泣き声が混ざったような怒号で言い返す。
俺は剣聖になるべくして生まれてからずっと辛い剣の訓練をしていた。それが全て無駄となってしまった。
父が落ち着いた、けれどもどこか怒りの混じったような声で俺にその言葉を紡ぐ。
「……お前は我が家の恥晒しだ。最低限生活をするための金や武器はやる。明日の朝には家をでていけ」
思わず言葉が俺の口から漏れた。
「ふざけるな!勝手に俺の天職を決めつけて生まれてからずっと訓練をさせて、そしてハズレ天職だったら家からでていけ?そんな話があるか!」
自分でもおかしなことを言っていることはわかっている。なぜなら俺の天職は両親が剣聖であるから剣聖となるはずだったのだ。父や母だって勝手に決めつけていたわけではない。法則に則ってそう考えていただけだ。たけど俺はその怒りを抑えることはできず、言葉を吐き出す。
しかし父はそんな俺の言葉を無視をし、家へと入って行ったのだった。
俺は当分その場で泣いた。人の目も気にする事なく。そしてようやく落ち着いた頃に家へと入った。そのまま自分の部屋へ入るとそこには1ヶ月ほど安めの宿に泊まれるほどの金貨と鉄の剣が置いてあった。
その後俺は母の元へ尋ねた。転職がエスパーとなってしまった俺を肯定して欲しかった。しかし投げかけられた言葉は辛辣だった。色々と罵倒をくらったが、話を要約すると「お前のような落ちこぼれが住まう場所はここにはない。早く出て行ってくれ」だそうだ。その夜俺は家を出る準備をした。
そして、ベットの上で枕を濡らしたのだった。