9.S級ダンジョンに再挑戦
「それじゃ、早速準備してくるから、ここで待ってて」
リサが立ち去ろうとするが、3人組の中心人物が縦ロールを揺らしながら通せんぼする。
「いけません!」
「何が?」
リサがキョトンとして聞く。
「そんな危険なダンジョンに、男女二人で潜るなんて、嘆かわしいことですわ。
ピンチを二人で乗り切るために、あんなことやこんなこと。
アーン、それにそんなことまで。
キャー、やっぱりダメですわ。
絶対に許されません。
二人で行くって言うのなら、私たちも連れて行きなさい!」
何かこの人、キャラ変わってませんか?
「あのー、さっきも言いましたけど、知らない人と一緒に潜るのは……」
「私たちは戦えます。
最初のモンスターハウスで判断して下さい。
そこで、ダメだと判断されたら諦めますから」
本当に戦えるのかな?
まあでも、リサがいれば何とかなるだろう。
プラムに帰りは遅くなるかも知れないと伝えて、俺たちはギルドに行った。
俺のパーティーに女性3人を登録して、リサを含めて5人で『悪魔の母』に潜る申請をした。
ギルドで今回の冒険メンバー詳細を出してもらった。
◆リサ
職業:戦士
階級:S
経験:LV58
種族:獣人(熊)
性別:女
所属:ティーヘイン・ショック
◆ルシア
職業:聖女
階級:S
経験:LV32
種族:ヒューマン
性別:女
所属:テイヘン・ショク
◆リリィ
職業:忍者
階級:S
経験:LV41
種族:獣人(兎)
性別:女
所属:テイヘン・ショク
◆ルル
職業:忍者
階級:S
経験:LV41
種族:獣人(兎)
性別:女寄り
所属:テイヘン・ショク
◆ブクロー
職業:サポーター
階級:S
経験:LV16
種族:ヒューマン
性別:男
所属:テイヘン・ショク(リーダー)
へー、リーダーだと、こういうのがもらえるんだ。
しかし、俺だけレベル低っ。
あと、リリィさんとルルさんのウサ耳は、本物だったんだ。
そして、俺以外女ばかりのハーレムパーティー。
男のロマンを感じるなあ。
これで、俺が強い実質的リーダーだったら、言うこと無かったんだけどな。
そんな訳で、俺はこのダンジョンに入るのが2日連続になった。
検問所の衛兵さんが感心している。
「兄ちゃん、本当にすごいやつだな。
このダンジョンを生きて戻って来て、早速翌日に再挑戦か。
頑張れよ! 応援してるぜ」
声援を受けて、ちょっと照れてしまったが、ここは初っ端から厳しいダンジョンだ。
気を抜かないようにしないと。
俺の家を出る時に、ルシアさん達はまた帽子とマスクで顔を隠していたが、ここで外した。
本当に、バレてはいけない身分の人なんだろうな。
俺は、緊張しながら最初の扉を開いた。
室内が、ジワジワと明るくなっていく。
「ウオーッ」
えっ? 室内の敵が目覚める間もなく、リサが襲い掛かる。
大剣を振り回して、グールたちを切り裂く、突き刺す、斬り飛ばす。
「あなた達、後れを取ってはいけません!」
「「ハッ」」
ルシアさんに指示されて、ウサ耳忍者二人が跳び上がる。
3人で、バッタバッタと斬りまくっている。
「私たちは、見ているだけで良さそうですわね」
落ち着いた様子のルシアさんの後ろに、グールが一匹迫ってくる。
「格納、俺のグール」
スッと姿が消える。
「ああっブク様。ありがとうございますぅ」
ウルウルした目で、見つめられた。
デヘヘヘ、何か幸せな気分。
と見る間に、敵の数が減っていく。
ものの数分で、敵はいなくなった。
「ピコーン、レベルアップしました」
「ピコーン、レベルアップしました」
お、俺のレベルがまた上がった。
前線にいるからか。
「私もレベルが一つ上がりましたわ」
ルシアさんも嬉しそうに報告してくる。
「ヨシッ。片付いたな。
じゃあ、次の部屋に行こうか」
リサは、いきなり次の部屋のドアを開ける。
やっぱりいる。
あのヤバイ悪魔。
俺は反射的に詠唱する。
「格納、俺の目の前のヤバイ悪魔」
あ、悪魔が消えない。
言い直してみる。
「格納、俺の目の前のヤバイ悪魔その2」
悪魔がスッと消えた。
フーッ、良かった。
同じ呼び名ではダメだった時は、ちょっと焦ったけど。
『その2』とかで良いんだ。
「おいおい、ブクー。
いきなり消しちゃったら、敵の力が読めないじゃんか。
これは、次行けってことだな」
リサが、不満そうだ。
「ピコーン、レベルアップしました」
「あっ、リサ。ちょっと待って。
今、変なタイミングでレベルアップした」
「それがどうかしたの?」
「さっきの悪魔その1とその2が戦ったんじゃないかな。
どっちが勝ったんだろう。
搬出、俺の目の前のヤバイ悪魔」
反応が無いな。
「搬出、俺の目の前のヤバイ悪魔その2」
あっ、出てきた。
「おお、また出してくれたのか。
よっしゃー!」
いきなりブーンと振ったリサの剣は、空を切った。
瞬間移動のように移動した悪魔が、リサの背後から魔法の火の玉を打ち出そうとする。
しかし、その火の玉が打ち出されることは無かった。
リリィさんが、その悪魔の背後から背中に短刀を突き立てていた。
悪魔は、煙のように消えた。
「おっ、サンキュー。
アタイ達、結構いい連携じゃないか?」
リサが振り返りながら、礼を言う。
「当然ですわ。ブク様、これで私たちも合格をいただけますわよね」
ルシアさんが、自分の手柄のように言う。
「ああ。期待以上だ」
「リリィ、ルル。よくやって下さいました。
感謝いたします」
「「ルシア様。勿体ないお言葉にございます」」
オレンジ色の髪と緑の髪の、違うタイプの美人だが、双子のようにハモっている。
「アタイは? アタイも合格だよね?」
「いや、リサはもともと一緒に行くって言ってただろ」
「そうだったっけ」
しかし、まだ入り口の近くとはいえ、S級ダンジョンをこんなに順調に進んで行けるとは本当に驚いた。