7.ソロでの冒険は、孤独な戦い
2,3日休養した後、俺は王立冒険者ギルドに出かけた。
いつまでも遊んではいられない。妹を養わないといけないからな。
受付に行って、軽いダンジョン攻略をするパーティーに、混ぜてもらえないか相談する。
だが、現実は厳しい。
S級冒険者なのに、戦闘職はサポーター。
それなのに、頼りの収納魔法は使えません。
これでは、誰も雇ってくれない。
仕方ないので、ソロ(一人)で潜ることにした。
俺も、戦士とか魔法使いとか分かりやすい戦闘職が良かったな。
よりによって、サポーターだもんな。
「ハアー、底辺職だな」
「分かりました。『テイヘン・ショク』で登録いたします。
こちらが、S級パーティーのメンバー証になります。
ギルドで4組目のS級パーティー登録となります。
8カ月以内に、S級ダンジョン攻略に着手いただくことが義務となります。
現在、第2王子パーティー捜索のクエストが出ていますがお受けになりますか?」
「ええっ? ちょっと待って。
そんなクエスト受けないよ。
どうして俺が、4組目のS級パーティーとかになっちゃうの?」
受付のお姉さんが、事務的に説明してくれる。
「基本的にソロでダンジョン攻略される場合も、パーティー登録していただきます。
ブクローさんはS級冒険者ですから、当然そのパーティーもS級になります」
「そうですか。それで、今この近くで人の少ないダンジョンは何処ですか?」
俺は、試したいことがあったので聞いてみた。
「今、攻略報酬増額キャンペーン中なので、どこも人でいっぱいです。
例外的に、お城の下のS級ダンジョン『悪魔の母』だけは、音信不通の『プリンス・プディング』の8人しか潜っていませんね」
「じゃあ、今日は『悪魔の母』に行ってみます」
「S級ダンジョンにソロで潜るって、あなた死にますよ」
「いや、入り口の近くをウロチョロして様子を見たら帰ってきますから」
「本当に様子見だけにしてくださいよ。
ブクローさんは、冒険者にしては話も通じますし、S級冒険者なのにちっとも偉そうにしないから、ギルド職員の人気投票があったら、上位入賞間違いなしなんですから。
絶対無事に帰ってきてくださいよ」
「ええっ? 俺受付のお姉さんに人気あるの?
それなら、命を落としても悔いはないかも」
「調子に乗っていると、本当に危ないですよ。
今年に入って、A級ダンジョン以上の生還率は80%を割っているんですから。
S級で、しかもソロなんて、少しの油断で帰って来れませんからね」
生還率80%と聞くと高いように思うが、例えば5人パーティーで、今回の俺みたいに2,3回様子見をして、4回目で一人しか生きて帰れなかったとしても生還率80%だ。
慎重な奴らの多い王立冒険者ギルドでの数字だから、本当に危険だ。
俺は、ギルドショップで全身が隠れる大きな盾、タワーシールドを買ってから、ダンジョンに向かった。
ダンジョンは、物理的な壁と魔法の障壁で囲まれている。
ダンジョンから出てきたモンスターが、町に近づけないようにしているんだ。
壁と障壁の一部に門が設けてあって、検問所がある。
検問所の衛兵にS級パーティーのメンバー証を見せる。
「おう、兄ちゃん。見かけによらず、すげえ奴だな。
ここをソロ(一人)で通るのは、兄ちゃんが初めてだぜ」
うっ、よく考えたら俺、ものすごく危険なことをしているんだな。
見込み違いとかあったら、ヤバイな。
万一の時はプラム、浅はかな兄ちゃんを許してくれ。
ダンジョンは、入り口まで石で出来た回廊になっており、入り口を入っても石造りの廊下が続いていた。
廊下は、壁に一定間隔で魔法の照明器具が設置してあり、人の気配を感知して灯りがともる。
俺は、タワーシールドの陰に隠れるような格好で、ジリジリと廊下を進んでいく。
何者にも出会わずに、大きな石の扉の前に着いた。
俺は、深呼吸して扉を開ける。
中は真っ暗だ。
ギー、パタン
俺の後ろでドアが閉まる。
魔法の灯りが、少しずつ明るさを増していく。
えっ、いきなりモンスターハウス?
浅い眠りについているように動かない、大量のグールがいる。
グールは、死体を食べるという悪魔だ。
こいつらが目覚める前に、用意する。
「搬出、俺の四角い岩」
出てきた岩に乗ると、もう一つ。
「搬出、俺のでっかい石の玉」
丸い石が目の前に現れるのと、モンスター達が目覚めるのは同時だった。
グオー、グアー、ガー
モンスター達の咆哮が、部屋の中に充満する。
その瞬間、丸い石が転がり始める。
ゴ、ゴロ、ゴロゴロ、ゴロゴロゴロゴロ……
すごい勢いで転がり始めた。
ギャー、グギャー
モンスター達が潰されて悲鳴を上げるが、盾の後ろに隠れている俺からは見えない。
「ピコーン、レベルアップしました」
突然、俺の首から下げていた冒険者の証が音を立てる。
続けざまに鳴り続ける。
「ピコーン、レベルアップしました」
「ピコーン、レベルアップしました」
「ピコーン、レベルアップしました」
「ピコーン、レベルアップしました」
「ピコーン、レベルアップしました」
音がしなくなったので、盾の影から顔を出す。
どうやら、ほとんど片付いたようだ。
冒険者の証を確認すると、レベル16まで上がっていた。
今までのパーティーの後ろに待機していた時と違って、急速だな。
このダンジョンの敵の経験値が高いこともあるんだろうけど。
とはいえ、モーソイたちは俺以外全員レベル50以上って言ってたからな。
とにかく、転がる丸い石の威力は確認した。
「格納、俺のでっかい石の玉」
余りに順調にいったので、俺は調子に乗ってしまった。
次の扉を開いてしまったのだ。
その部屋では、一匹の大きな悪魔が宙に浮いている。
俺は、同じように石を出す。
「搬出、俺の四角い岩」
「搬出、俺のでっかい石の玉」
だが、宙に浮いた悪魔は、地面を転がる石の玉を冷たい目で見つめているだけだ。
や、ヤバイ。
石の玉が通用しない敵が、一瞬で現れた。
ソロでの冒険、初体験にして人生終了?




