60.まだ早い? ずっと無理?
迷宮から帰って来て、一ヶ月が経った。
今日は、リサとロバート君の結婚式だ。
俺は、妹のプラムと従者のミリスの二人の女性を連れて参加だ。
二人とも、ドレスで着飾って大人の女性になった。
特にミリスは胸が大きいせいか、すごく色っぽい。
プラムの胸の話は、しない。
「お兄。女性の胸元をチラチラ見るのは、やめなさい。
私が恥ずかしいんだからね」
怒られてしまった。
「わらわの胸は、いくら見ても良いぞ。
お主に絶対服従なのじゃからの」
ンホッ、見たいけど、プラムの視線が怖い。
会場に入ると、ソラとイノリに会った。
「ヤッホー、ブクちゃん。
その家来も連れてきたんだ」
「こんにちは、ブクローさん。
こんな華やかな場に、家来を連れてくることは、ございませんでしたのに」
ソラは、水色の清楚な感じのドレス。
イノリは、黒で縁取りされた純白の聖衣だ。
二人とも、息を呑むほどに美しい。
ミリスが口を尖らせる。
「お主ら、家来、家来言うな!
わらわは確かに僕じゃが、ブク殿と寝食を共にする、言わば伴侶じゃぞ」
「いや、一緒に寝たりして無いから」
俺は、一生懸命否定する。
ソラとイノリからは、魔族との間に子供が出来たらその子が次期魔王になるかも知れないから、絶対にエッチなことをしちゃダメだと言い聞かされている。
「いやいや、この間のブク殿の寝顔は、可愛かったぞ」
ミリスが、挑発するように言う。
「どういうことですの?
ちゃんとミリスさんは、あのベッドに寝かせているのでしょうね」
ミリスが俺の家に住むようになって、イノリが魔力で囲ったベッドを持ち込んだ。
この囲いからは、魔族は出られないそうだ。
「ちゃんと、毎晩あのベッドに入るのを確認して、魔力のスイッチを入れているから大丈夫だよ」
プラムが、ちゃんと間違いが起きていないことを説明してくれる。
「確かに、わらわは囲いから出られんが、ブク殿が毎晩入って来るからのう。
わらわは絶対服従じゃから、ブク殿の要求は断れんのじゃ」
「お兄。それ本当?」
プラムが、怖い顔でにらんでくる。
「う、ウソだから。俺が、そんな大胆なこと出来ないことくらい、みんな知ってるだろ?」
「確かにブクちゃんは今までは大丈夫だったけど、ミリスの誘惑に負けるかも知れないナリ。
プラムちゃん。これからは、ブクちゃんにも監視が必要ナリ。
ボクが、これから毎晩監視に行ってあげるよ」
「ダメです。
そんなことをしたら、ソラさんとブクローさんの間に間違いが起こってしまいます。
ここは、聖女でもある私が監視するのが正しいでしょう」
ミリスが、からかうように言う。
「イノリ。お主は聖女だとか言って清純なフリをしておるが、お主が一番スケベなんじゃ無いのか?」
「な、何ですってえ」
イノリが、ムッツリスケベ?
それで、夜な夜な俺の寝室に監視に来る?
想像しただけで、鼻血が出そうだ。
「おう、お前ら来てくれたんだな」
リサが、純白のウエディングドレスを着てあいさつに来る。
後ろにタキシード姿のロバート君もいる。
こうしていると、本当に美人だ。
ロバート君が羨ましい。
「リサ、ロバート君。おめでとう。
心から祝福するよ」
「ブク、ありがとう。
それにしても、あいつらは相変わらずだな。
アタイも、あの輪の中に入れなくなって、少しさびしい気がするよ」
イノリとミリスとソラが、誰がスケベかで揉めているのを眺めながら、リサがしみじみ言う。
「リサ先輩。寂しい思いはさせませんよ」
ロバート君が男らしく言い切っている。
二人とも、迷宮から帰ってからしばらくは寝たきりだったことを思うと、元気になったものだ。
リサとロバート君が、次のあいさつのために、離れて行った。
俺を呼ぶ声がする。
「ブクローさまー」
振り返ると、ルシア姫だった。
「ブクロー様。あなたは今回の迷宮攻略の大功労者ですのに、イノリ……いえ教会が邪魔をして、あなたへの貴族としての爵位授与が、かないませんの。
騎士団に入団する意志は、ございませんか?」
一瞬、カッコ良く馬に乗る俺の姿を想像したが、無理だ。
まず俺は、馬に乗れないし、戦えない。
それに、あんな重い甲冑を着たら、それだけで疲れそうだ。
「ルシア姫。申し訳ありません。
騎士団への入団は、お断りさせていただきます。
俺は、まだまだ戦いのスキルが開花しておりません。
騎士になってくれと言われても、まだ早いです」
「ええっ? ブクローさまは、世界最難関ダンジョンの最深層で魔王を倒した実力の持ち主ですよ。
あなたの戦いのスキルにケチをつける者が、いるはずがありませんわ」
「い、いや、俺のスキルなんて、まだまだっすよ。
俺は、別に貴族にならなくても、平民生活が板についていますから」
「そ、それでは、王族と結婚でき……」
グイッ
俺の手を引く者がいる。ソラだ。
「ブクちゃーん。
イノリッチが、ボクが一番スケベだって言うんだよー。
そんなこと無いよねー」
こいつら、まだこんな話をしていたのか。
「お前ら、本当はスケベな女だったんだな。
俺のことだけ変態扱いしやがって。
お前らまとめて、俺が満足いくまでエッチなことをしまくってやる!」
などと言えるようなら、俺はとっくにDTじゃ無かっただろう。
「フ、フヒヒヒ。
そ、ソラがスケベ?」
それだけ言うのが、精一杯だ。
「お兄、キモいよ。
お兄は、一生独り者だろうから、私が面倒見てあげるしかないね」
プラムに肩を叩かれる。
こんなに周りに美人が揃っているのに、誰ともそんな関係になれない。
俺の対女性スキルも、まだまだ開花しそうにない。まだ早い……のか?
《おしまい》




