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6.謙虚なお方

 ※ この回は、お姫様視点です。


 その日、私は護衛のリリィとルルを連れて徒歩で下町へと向かっていました。

「ルシア様、せめて馬車で移動すべきだったのでは?」


「いいえ、リリィ。相手を警戒させてしまいますわ」


 私たちの国の王族は、もうすぐ現れるという魔王対策で分裂していました。

 魔王が現れないようにS級ダンジョンを攻略すべきという攻略派と、ダンジョン攻略をせずに戦力を温存しようという放置派の2つです。


 こんなことで何人もの王族が暗殺されており、人間軍の戦力を削ぐための魔王軍のスパイがいるんじゃないかと疑ってしまうほどですわ。

 お互いが、相手をそのスパイだと決めつけているからこそだとは、思うのだけれど。


 その状況で、攻略派の中心人物の一人であり、王家の長女である私に魔法のメッセージが届いたのです。


 いわ

「攻略派の中心的存在 ルシア姫様

 スミレの日の正午、王都の下町、テンマー・ブリッジにて待つ。

 最小限の護衛で、来られたし。

 放置派のリストをお渡しいたす所存。

      平和を望む鳩の使いより」


 表立って活動できる攻略派と違って、放置派の行動は秘密裏です。

 そのため、説得しようにも誰を説得すれば良いのか分からない状況でした。

 だから攻略派にとっては、放置派のリストは喉から手が出るほど欲しいものなのです。


 当然、護衛のリリィとルルは、反対しました。

「姫様。これは、絶対罠ですピョン。

 テンマー・ブリッジ周辺は昼でも人通りが少なく、暗殺するには格好の場所ですよ」


「ルル、心配してくれるのは有難いわ。

 でも、虎穴に入らざれば虎子を得ず、です。

 私が危険に飛び込む勇気を持たなければ、危険を顧みずにダンジョンで頑張って下さっている皆さんに申し訳が立ちません」


「そこまで覚悟しておられるなら仕方ありませんが、罠と分かった時には逃げることを第一にお考え下さい。

 これだけは、譲れませんですピョン」


「わかりました。

 でも、あなた達二人の護衛があれば、暗殺者の一人や二人怖くないですわよね」


「ルシア様、敵が少人数で来る保証はありません。

 くれぐれも逃げることを第一にお考え下さい」


 そんなやり取りがあったことを、思い出してしまいました。




 今、橋の手前で立ちはだかるのは、ゴロツキを装ってはいますが、明らかに洗練された身のこなしの5人組の男たち。


「通してください」

 強い目に言ってみますが、聞き入れてはくれなさそうです。


「いやあ、お姉さん達。

 ここを通すわけにはいかないなあ」


 リリィとルルは、戦力の見極めも適切です。

 恐らく、相当な実力差がある様子。

 戦ったら負けそうです。

 このままでは暴漢に襲われたことにして、3人とも殺されてしまうでしょう。



「あんた達、女性相手に何してるのよ!」


 そこに、何も知らない一般人が正義感を出して首を突っ込んできました。

 これで、もう逃げられない。

 この無関係な市民を巻き込むわけにはいかないですから。


 私は覚悟を決めて、護衛の二人に戦いの指示を出しました。

 でも、私たちは大きな思い違いをしていたのです。

 そこにいた男の人は、弱そうな見かけとは違って、超一流の冒険者だったのです。


 一瞬にして勝負はついて、私たちは助かりました。


 その後訪れたテンマー・ブリッジには、誰もいませんでした。

 騒ぎで逃げたのか、罠だったのかは、はっきりしません。


 でも、S級パーティー『ティーヘイン・ショック』のメンバーとお近付きになれたのは、なんと幸運なことでしょう。

 神様、ありがとうございます。






 ここ最近、あちこちで突然地面の陥没が発生しています。

 そこは、大概の場合地下迷宮(ダンジョン)の入り口で、放っておくとモンスターが地上にあふれ出てきます。


 私たちは王族賢人会議を開き、ダンジョンを7段階にクラス分けしました。

 その中でも最高難度のS級ダンジョンは、来年まで放置すると最深部で魔王が誕生してしまいます。


 だから今年のうちに、このS級ダンジョンを攻略してしまわないといけないのです。

 あと8カ月です。


 まず、王族の中で最強戦力と認められた第2王子と王立騎士団の精鋭部隊で、攻略のためのパーティーを構成し、王立冒険者ギルドの最強パーティーと合わせて、2つのS級ダンジョンの同時攻略に着手しました。

 この二つのパーティーをS級ダンジョン攻略のための、S級パーティーと名付けました。

 しかし、迷宮探索に挑戦した第2王子のパーティーは、ここ一カ月間音信不通。安否が気遣われます。

 ギルド最強パーティーも、攻略停滞中です。


 そんな状況なので、新進気鋭のS級パーティー『ティーヘイン・ショック』は、王族からの注目度ナンバー1なのです。



 調べてみると、彼らは今王都にいるというではありませんか。

 あの謙虚なお方に会えるかも。

 私は一言お礼を言いたかったので、メンバー全員を宮廷の晩さん会にお招きしました。

 月に一度開かれる、貴族たちが情報交換をするための定例会です。

 立食パーティーの定例会なので、気づかい無用とお伝えしました。




 晩さん会当日、私は何故か胸がドキドキしてたまりませんでした。

 でも残念なことに、あの方は来られなかったのです。


 ティーヘイン男爵家のご子息は、緊張したのでしょうか。

 しどろもどろで、お話しても要領を得ません。

 他のメンバーは、料理に夢中のようです。


 多種多様なゲストが招かれており、どのお方がメンバーなのか見分けるのは難しかったです。

 ただ、一人だけすぐに分かったので、近付いていきました。

 何と声をおかけしようかしら。


 戦いに身を捧げ、慣れないドレスだと一目で分かる大柄な女性が、挨拶をする間もなく聞いてきます。

「どうして、アタイ達なんかを招いて下さったんすかあ?」


「ちょっと、リサ。あなた、お姫様に向かって失礼よ!」

 横から、美しい聖女の衣に身を包んだ女性が注意します。

 この人は、ミスティーク男爵家の御令嬢イノリさんですわね。


 とにかく、私はリサと呼ばれた方に、きっかけを逃さないように笑顔で答えます。

「お気になさらないでください。

 それよりも、あなた方のメンバーで黒い袋を背負った方にお会いしたかったのですが、今日はどうされたのでしょう?」


「ああ、それブクだよ。

 あいつ、この前リーダーがクビにしちゃったんだよね」


「ええっ? あんなすごい人をクビにしちゃったんですか?」


「うん。確かにブクは、すごく良いやつなんだけどさ。

 あいつ、ポカやっちゃってさ。

 イノリなんかも、すっごく怒ってたし」


 このリサ様という方は、率直な物言いで信頼がおけますわ。

 あの方はブク様。ああ、名前が分かりました。

 このリサ様とは、仲良くしていかないと。


「ちょっと待って。

 私は、怒ってなんていませんでしたから。

 S級ダンジョンではブクローさんのような方は危険だと思うから、これを機に後方に下がってもらおうと進言しただけですわ。

 まさか、クビにするなんて」


 なんだか、すごく悔しそう。

 お二人とも、ブク様のことを憎からずお思いのようですわね。


 私は、リサ様の手を取ってお願いします。

「あ、あの方、ブク様にお会いすることは出来ませんか?」


「ああ、アタイ、ブクのうち知ってるから、今度連れて行ってあげようか?」


 やったー。やりましたわ、私。

 これでまた、ブク様にお会いできる。

 あっ、ゴホン。いえ、頼れるS級冒険者とお近付きになれますわ。


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