59.魔王が地上にやって来た
「えっ、ここは地上?
アタイ達は天国にいるのか?
それとも、何ヶ月も意識を失っていたのか?」
意識を取り戻したリサとロバート君は、魔王との戦いの途中から記憶が無い。
気が付いたら地上にいるんだから、驚くのは無理もない。
『プリンス・プディング』の生き残り5名、『テイヘン・ショク』の生き残り5名、合わせて10名でダンジョン入り口の検問所に到着した。
ヘンリー王子に宣言してもらう。
「我ら10名、世界最難関ダンジョン『悪魔の母』を攻略して、ただいま帰還した」
「ええっ? お、王子様?」
ダンジョン側からではなく検問所の外から王子が現れて、検問所の兵士たちは驚いて声を上げる。
検問所の中で相談がされて、大慌ての兵士たちがひれ伏す。
「王子様。ただいま、城に使いを出します。
しばらく、ここでお待ちください」
しばらくすると、城から騎士団を伴ったルシア姫の他、王族たちが詰めかけた。
「いやあ、さすがヘンリー王子。
ついにやりましたな」
次々と握手を求められるヘンリー王子は、返事をせず薄ら笑いするだけで、あまり元気がない。
だが、すごい人だかりだ。
後から後から、いろんな兵士たちがうわさを聞きつけて集まってきている。
兵士たちの中には、感極まって涙を流している者もいる。
「最難関ダンジョン攻略バンザーイ。
ヘンリー王子バンザーイ」
誰かが声を上げると、一帯は歓声と拍手に包まれた。
「バンザーイ、バンザーイ」
世界は大魔王に支配されるかも知れなかったのが、心配なくなったんだから喜ぶのは当たり前だ。
「お兄、お兄は無事なの?」
団体の後ろの方から、聞き覚えのある声が聞こえる。
「プラムー! 兄ちゃんは、無事だぞー!」
大声で叫んで、無事を知らせる。
「良かったー。お兄、後でご馳走を用意しておくからねー」
返事が聞こえる。プラムも元気なようだ。
だが、人混みがすごくてプラムの方へは行けそうにない。
「ブクロー様、ご無事で、ご無事でいらっしゃったのですね。
良かったです」
ルシア姫が涙を流しながら、握手を求めてくる。
「いやあ、頼りになる仲間たちのお陰で、無事に帰って来られました」
さすがに予告も無く帰って来たので、式典なども準備が出来ていない。
俺たちは、その後『テイヘン・ショク』のパーティールームに引き返すことが許された。
その日は、プラムの料理をみんなで食べて、久々のフカフカのベッドで寝れて、幸せだった。
翌日、俺はプラムと一緒に王都の自分の家に帰る。
ソラとイノリもついて来た。
パーティールームにいたら、またお客さん攻勢があるだろうと予想したそうだ。
つまり、残されたリサとロバート君はその対応に迫られるわけだな。
体が治り切っていないのに、悪いことをしたかな?
家に入ると、魔王がいた。
まあ、鍵も渡していたので当たり前だが。
「ブクロー殿。退屈で仕方なかったぞ」
「いや、スマンスマン。
でも、翌日に抜けてこられるなんて、すごくラッキーなことなんだぞ」
「それで、こいつは何者じゃ?
そっちの二人は、ダンジョンにいた奴らじゃの」
「ああ、俺の妹でプラムだ。
プラム。こちらは魔族のミリスさんだ。
あのダンジョンの中で、出会った。
俺たちが最深層から一瞬で帰って来られたのは、この人のお陰だ」
「あ、はじめまして。プラムです。
お兄たちが、無事に帰って来られて本当に助かりました。
ありがとうございます」
「おお、これはご丁寧に。
どういたしましてじゃ。
わらわは、こいつの僕にされてしまったからのう。
絶対服従を言い渡されておるのじゃ」
「えっ?
こんなかわいい女の子を絶対服従だなんて。
お兄、一体どういう事?」
プラムが、怖い顔でにらんでくる。
俺が言い淀んでいると、イノリとソラが答えてくれた。
「そのミリスさんは、とても強い魔族なので服従してくれなければ、生かしておくことは出来ませんでした」
「ボクたちも、やられそうだったんだから。
実際、リサッチたちはボコボコにされてたからね」
「ええっ? リサさんがボコボコにされちゃうくらい強いんだ」
プラム的には、リサより強いモノの存在が想像できないんだろう。
信じられないという顔をしている。
「は、ハハ。
そういうことだ。
絶対服従とか言うと酷いように思うかも知れないが、俺の優しさの顕れだな」
俺は、ここぞとばかりにアピールする。
だが、ミリスはうつむきながら、ポツリと漏らす。
「わらわは、戦いの最中に素っ裸にひん剥かれて、絶対服従を誓わされたのじゃ」
あっ、こいつ。そんな誤解を招くようなことを。
「お兄、そんなハレンチなことをしたの?
いくら相手が強い魔族だからって、酷くない?」
「い、いや、不可抗力だ。
まさか、ヨロイの下に何も着ていないとは、思わなかったんだ」
「もおー。ソラさんもイノリさんも、お兄がそんな不埒なことをしないように、ちゃんと見張っておいてくれないと」
「ブクちゃんが変態なことをしないように、ちゃんと見張っておくナリ」
「あ、ああ。次からは気を付けましょう」
二人の反応を見て、ミリスがニンマリと笑みを浮かべる。
「いや、こいつらもわらわとの戦いの最中に、いかがわしいことをしようとしておったからのう。
わらわは無理やり脱がされたのじゃが、お主ら自分から脱ごうとしていなかったか?」
言われて、何故かソラとイノリが目を逸らしている。
「えっ? そんな美味しいシーンあったっけ?」
俺は思い出してみるが、二人が服を脱ごうとすることなんかあったかな?
あっ、あった。
全ての金庫をくれって言ったときに、上着も脱いで渡そうとしていた気がする。
「そ、そんな、気のせいですわ」
「そ、そうナリ。
戦いの最中に、エッチなことを考えるのは、ブクちゃんだけナリ」
酷い言われようだ。
ミリスは続けて質問する。
「そうか。エッチなのは、このブク殿だけなのだな?
お主たちは、エッチなことが嫌いなのじゃな?」
「えっ? そ、それは、あ、相手によります」
「右に同じナリ」
「相手によるとな。
では、相手がブク殿だったらどうなのじゃ?」
「そ、それは、ずっと一緒に旅した仲間ですから、少しくらいは許すと思います」
「ボクも、ちょっとくらいなら……」
「ええっ? エッチなことが許されるの?」
俺は、思わず口に出してしまった。
当然、プラムが噛みついてきた。
「お兄! 許されるわけ無いでしょ!
旅の仲間だから、勘違いされるようなことがあっても仕方ないってことだよ。
イノリさんもソラさんも、ほんのちょっとだって言ってるでしょ。
変な事したら、私が恥ずかしい思いをするんだからね」
「す、すみません。
以後、気を付けます」
頭を下げた俺の、顔を横から叩くものがいる。
トントン
ミリスが淫靡な笑みを浮かべながら、ささやいてくる。
「因みにわらわは、ブク殿に絶対服従じゃから、何をされても文句を言えんぞ」
ゴ、ゴクリ
イノリとソラが、怒ったように言う。
「プラムさん。この魔族とブクローさんは、二人っきりにしてはいけませんことよ」
「ボクも、その意見に大賛成ナリ」




