表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/60

5.お姫様との出会い

 戦いたくない俺の一生懸命のお願いは聞き入れられそうにない。


 先頭に立つ、元王立騎士団のヒデブとかいう人は、いきなり長剣を抜いた。

 いかにも騎士団支給という感じの、高そうな剣だ。

 きっと、すごい切れ味なんだろうな。

「えっ、ちょっとちょっと。

 素手の敵相手に、そんな立派な剣を抜くなんて、卑怯じゃ無いですか?」


 俺は必死で言うが、相手は剣を収める気配もない。

 あんな剣で斬られたら、骨まで切られそうだ。

「卑怯だと思うなら、お前も抜け!

 S級パーティーのメンバーなんだろう。

 それとも、剣を使わずに戦うタイプの戦闘職なのか?

 後ろの女たちは、やり合う気満々だぞ」


 言われて振り返ると、俺の斜め後ろの女性二人は剣を抜いている。

 確かに目がマジで、やり合う気満々なのがよく分かる。


 ただ、そんなこと言われても、武器自体持っていないから俺だけ丸腰だ。


「いや、俺、剣持ってないし。

 騎士団の人が丸腰の敵を倒したら、カッコ悪いんじゃないですか?」


「命のやり取りに、カッコいいも悪いもない。

 貴様、これでも何も出してこないという事は、武器を使わずに戦うタイプだな。

 油断させようったって、そうはいかんぞ。

 死ねえ!」

 地面を蹴って、飛びかかってくる。


 やるしかない。

 覚悟を決めた俺は、魔法の詠唱をする。

格納インプット、俺のヒデブ率いる暴漢5人組」


 すまん。臭いと思うが、我慢してくれ。

 というか、生きている人を収納するのは初めてだ。

 5人組の指定で、5人とも消えるかどうかも分からない。


 他の人の収納魔法は、中で時間が止まっているとか、真空状態なのでモノが腐らないとか聞いたことがあるが、俺のはモノも腐るし、中で瓶が割れたら内容物で他のモノが汚れたりしているんだから、大丈夫だろう。

 多分。


 一瞬にして、俺たちの前ですごんでいた5人組が、パッと姿を消した。

「フウーッ、やっちまった」

 安心した俺は、何か口走ってしまった。


「お兄、カッコ良かったよ。

 さすが、S級は伊達じゃないね」

 プラムに褒められて、何だか嬉しい。


「感服いたしました。

 本当に強い方というのは、自身の強さを誇示せず、戦いを避けようとするのですね。

 あなたのような凄い方が助けて下さらなければ、私たちはどうなっていたことか」

 俺の後ろに回らなかった、つまり戦おうとしなかった女性が、勘違い発言をしている。



 遠くから、馬に乗った騎兵たちが駆け寄ってくる。

「姫様、ご無事で?」

 えっ、姫様?


 とにかく、収納庫に変な奴らをしまっておきたくないので、騎兵さん達にお任せしよう。

搬出アウトプット、俺のヒデブ率いる暴漢5人組」


 何も起こらない。

 何かミスったのだろうか?

 もう一度詠唱してみる。

搬出アウトプット、俺のヒデブ率いる暴漢5人組」


 やはり、何も起こらない。


 俺は、少し嫌な予感がした。

 予感が当たって欲しくは無いが、詠唱してみる。

搬出アウトプット、俺のヒデブ率いる暴漢4人組」


 よかった。何も起こらない。


 でも、念のためにもう一つ確認しておく。

搬出アウトプット、俺のヒデブ率いる暴漢3人組」


 まさかと思ったが、さっきの男たちのうち3人が息も絶え絶えに、現れた。


「ハアハア、ま、丸い石の玉が……」


「あっという間に、アベシの奴が……」


 3人とも現れると同時に、立っているのも無理とばかりにひざをついた。

 石の玉? そう言えば、メモ帳を見ながら収納庫の物を全部出したつもりだったけど、丸い石はメモってなかった。

 重力で転がっているのかと思っていたんだが、まだ転がり続けているという事は、魔法か何かで動いているんだろうか?

 いやいや、それ以前に暴漢が二人減っているのが、気になる。

 収納庫にしまったものが臭くなる位、色々なモノが散乱しているんだろうけど、人の死体とか絶対に見たくない。

 どんなことになっているのか、様子が知りたい。


「あ、あのー、転送された先って、どんな感じでしたか?」


 モヒカン刈りのヒデブさんに聞いてみる。

「ひ、ヒイーッ、お、おまえ、ち、近寄るな!

 た、助けてくれー、こ、こいつは悪魔だー」

 ヒデブさんは、駆け付けた騎兵にすがりつく。


 エエーッ? そんなにひどい状況なの?

 俺の収納魔法、もう荷物を収納できないな。




 俺の右後ろで構えていた女性が、かしこまった調子で言ってくる。

「何かお礼を差し上げたいので、お名前をうかがうことはできませんか?」


 そういや、襲ってきたやつらは王立騎士団がどうこう言っていたな。

 そんな人たちの命を奪ってしまったかも知れないって、かなりまずいんじゃ?

 いや、かなりヤバイ案件だろう。


 もしかして、暴漢のフリをして暗殺するとかいう、政治闘争?

 関係したら、俺達も命を狙われるっていうやつじゃね?

 面倒ごとに巻き込まれるのは、ご免だ。

 俺は、プラムと一緒に食事に出かけるんだい。

 お礼には、ちょっと心が動いたのは秘密だ。


「名乗るほどの者ではございません。

 それでは、私たちはこれで失礼いたします」

 少しかしこまって答えてみた。


 立ち去ろうとすると、俺のことを強いと勘違いしていた女性、姫と呼ばれていた人が、プラムを引き留める。

「あ、あの、お兄様にいさまと呼んでおられましたが、ご兄妹なのですよね」


「いいえ、年上だからおにいと呼んでいるだけです」


 えっ、そうなの?

 俺は可愛い妹だと思っているのに、あんまりだ。


 姫と呼ばれていた人は食い下がる。

「で、では、どういったご関係なのでしょうか?」


「それをあなたに教える義務は、ございません。

 お兄は、私だけのお兄なんだから」


 そうだよな。

 幼い頃に両親が亡くなって、天涯で二人だけの家族だからな。


 まだ何か言いたそうな雰囲気を感じたが、プラムは俺の手を引っ張って、その場を去った。

 店に近付くと、俺の腕にしがみついて来た。

 強がっていたけど、怖かったんだな。


 兄ちゃんが守ってやるからな。

 でも、プラムよ。

 ちょっと胸が肘に当たっているんですけど。

 こいつ、こんなに大きかったっけ。


 そういや、『ティーヘイン・ショック』の名前を出していたな。

 でも俺はクビになっているし、俺への手掛かりには、ならないだろう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ