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46/60

46.見えない敵

 45階のボスフロアで、敵が姿を現さない。

「お題目は良いから、姿を見せろ!

 お前の命も、アタイが容赦なく叩っ斬ってやるよ」

 リサが挑発するが、反応が無い。

 警戒しながら周りを見渡すが、敵の姿はない。

 ボスフロアの扉は、入り口も出口も開かない。


「敵が出てこないとは、困りましたね」

 イノリが、警戒したまま微笑みをくれる。


「おい、出て来いよ!

 アタイ達が怖いのか?」

 リサが叫ぶが、答えすらない。


「朽ち果てろ、とか言っていましたけど、何も手を出さずに干からびさせる作戦なんすかね?」

 ロバート君が不安げに言葉を漏らす。


「ロバ、弱気になるんじゃねえ。

 こいつは、チャンスと見たら出てくるに決まっている。

 気を抜くんじゃねえぞ!」



 そのまま、1時間は経っただろうか。

 敵は、あれ以降姿を現さないどころか一言も発さない。


 警戒体制を一層強めるリサを見て、ソラが急にそこに座り込む。

「おい、ソラ。どうしたんだ?

 何かの攻撃を食らったのか?」


「違うよ、ブクちゃん。

 ボクは大丈夫だから、いこいのキンちゃんを出して」


「いや、この局面でいこいのキンちゃんって、最も相応しくないだろう」


「良いから、出すナリ」


 いこいとか言いながら、何か敵の位置を見破るものでも入っているんだろうか。

搬出アウトプット、ソラのいこいのキンちゃん」


 大きめの金庫が一つ、広間の中に現れた。

 ソラは、金庫の周りに張ってある外気を遮断する魔法を解くと、番号を合わせて金庫を開ける。


 まず小さなホウキをだして、その辺をキレイに掃く。

 そして、座布団を敷いて、その上にチョコンと座った。


 ねこのキャラクターの描かれた可愛い水筒を開けて、コップとしても使えるフタに水を注ぐ。

 泉で汲んできたキレイな水だ。


「ブクちゃんも、隣に座りなよ。

 この前、座布団をあげたでしょ」


 他の3人が横目でチラチラとこちらを見るが、俺はソラの横に座布団をしいて腰を下ろした。

 実は、1時間以上緊張して疲れたんだよね。

 どちらにしても、敵が見えない以上俺は戦力にならないから、少し休憩させてもらうことにした。


「よっこいしょっと」


「ブクちゃん。おじいさんみたいナリ」


「おお、ソラちゃんや。

 ブク爺さんは、もう衰えてしまったからのう。

 優しくして欲しいのじゃよ」


「ブク爺ちゃん。優しくって、何すれば良いの?」


「そうじゃなあ。デヘヘヘ」


「ブクちゃん。また変態なこと考えてるナリー。

 ちっともお爺ちゃんじゃないナリ」


「いやまあ、そう言わんとじゃなあ。ムフフフ」

 クンカクンカ。

 ソラの方から女の子の匂いがする。

 みんな、イノリの浄化魔法のお陰で、一か月近くの冒険生活でも臭くならずにすんでいる。

 でも、このいい香りはどういう事だろう?


「それ以上近付いたら、ダンジョンを出た時にセクハラされたって言っちゃうよ」


「えっ、そ、それは困る。

 ソラさん、申し訳ございません。

 そんな気は無かったんです」


「ええっ? 本当になかったの?」


 年貢の取り立ての時に、叛意はんいが無いことを示す農民のように説明する。

「もちろんで、ごぜえますだ。お代官様。

 アッシは、いつも清く正しく生きておりますだ」


「怪しいナリ」


「滅相もございませんよ。今もほら、あくまで演技でちゃんと周囲に警戒をしておりますよ」

 俺は、わざとらしく周りを見渡す。


「あーあ。本当にちょっと位なら、セクハラされても許したげようと思ったのになー。

 そっかあ。ちっとも、そんな気になってなかったんだあ」


「えっ? ソラさん、マジ?

 本当に、エッチなことをし、し、しても良いの?」

 俺の指先に、ずっと前に触ったソラのお尻の感触がよみがえる。


 その瞬間、ソラが無詠唱で軽い電撃魔法を放った。

 バチバチッ

「そこナリー!

 微妙に、魔力の変化があったナリー」


「く、クソ。こ、こんな……」

 悪魔が声を出した瞬間に、リサがダーンと踏み込む音を響かせて距離を詰めた。

 一気にその声がした位置を、剣で両断する。


 シュバッ


「ギャアーーッ」

 悪魔が、青い血を流しながら姿を現した。その瞬間だった。

「雷魔法、魔法の雷の槍マジックサンダーランス


 悪魔のお腹に、ソラの放った巨大な魔法の槍が突き刺さる。

 槍の周辺に、バリバリと稲妻がまき散らされる。

「グハアーッ」

 耳をつんざく断末魔の叫び声を残して、悪魔はその場に力尽きた。



 俺は、完全にソラのエッチな誘導に乗ってしまって、油断していた。

 実を言うと、腰が抜けたように動けない。

「や、やったのか?」


「ああ、アタイの一撃でかなり深手を負っていたはずだ。

 そこに、あんな強烈な魔法の槍を食らったら、ひとたまりも無いだろう」

 リサが、満足した表情で言い放つ。


 ロバート君が感心している。

「さすがブク先輩っス。

 自分も一瞬、戦闘中に何やってんだと怒りそうになったっス」


「でも、ブクローさん。ちょっと演技にしては真に迫り過ぎてませんでしたか?」


 イノリの質問に俺が戸惑っていると、ソラが答える。

「ボクの貞操の危機だったナリよ」


「そんな訳あるかあ!

 戦闘中にどうして貞操の危機が訪れるんだよ」


「だって、戦闘中にセクハラされるなんて思わなかったナリ。

 怖かったナリ。ウウッ、シクシク」

 あっ、こいつ泣いたふりしているな。


 俺は、セクハラして責任を追及される上司のように弁解する。

「ソラ君。申し訳ない。

 ワシは今回のセクハラの責任を取って……」


「結婚するナリか?」


「え? エエーッ?

 け、け、結婚?」

 リーダーを辞任いたしますとか言おうと思っていたら、思わぬ返しをされた。


 イノリが流れを切る。

「ハイハイ。ブクローさんも、冗談を本気にしない」


「は、ハハ。そうだよな。冗談だよな」


 イノリが、キッとにらみながら言葉を続ける。

「下らない漫才は、もう良いですからね。

 出入口が開いているか確認して、キャンプの用意をしますよ」

 イノリが、そそくさと出口の扉を確認に行った。

「はい、開いてますから。みなさん、サッサとこっちに来て下さーい」


「冗談で、ごまかされたナリ」

 何か小さな声が聞こえた気がした。


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