44.壁を乗り越える
妖精の石を使った報告の後、少し休憩する。
「王子様たちのパーティー『プリンス・プディング』も計画通り進んでいるとしたら、彼らは30階のボスモンスターを倒して2日間休養した後、今日が出発のはずです。
新メンバーで初のボス戦が、上級悪魔3匹ですから、苦戦したかも知れませんね」
イノリの分析を聞いて、俺は思う。
今回の王子たちは、19日目に31階に進出したわけだ。
前回俺たちは、48日目に31階の探索を始めた。日数が半分以下だ。
彼らは3回目で、25階までのボスフロアが留守だったとはいえ、物凄いペースだ。
そして俺たちも、計画通りなら13日目にそこまでいく。
有り得ないほどのハイペースなんだが、これでも無理せず慎重に進んでいる。
事前情報と、一度ここまで来ている経験の貴重さが身に染みて感じられる。
地下24階まではぬかるみの中を進むので、速く進むことは出来なかった。
25階からは足場が良くなるので、進行速度が上がった。
30階には12日目の早い時間に到着し、ゆっくり休んでから13日目に予定通り出発した。
俺たちが出発して16日目、王子たちの26日目に35階のボスフロアの扉の前で合流した。
「大魔王の誕生まで、あと4ヵ月を残したこの日に世界最強パーティー2つが、難関を前にして一つになる。
攻略はシフト式で行うことになっているが、こことラスボスの所では協力して当たることになっている。
よろしく頼むぞ」
王子が差し出した手を握って、俺は固い握手を交わした。
ここで、油断していたのは俺の方だと思い知らされた。
王子パーティーは、一人欠けて7人になっていた。
さらにもう一人は、左腕を失っていた。
前回一緒に帰って来たシメオネさんだ。
骨折程度のケガなら、カマラさんや補充で入った教会の僧侶の人たちが治療してくれる。
俺たちと一緒に来た二人は、丁度二人欠員の出た、王子のパーティーの前衛に収まった。
35階は、やっぱり俺が最初に一人で行かされた。
出てきた上級悪魔を収納すると、すぐに出口の扉の方に行く。
開けてみると開いた。
ものの数秒で、悪魔はお亡くなりになったということか。
俺の蟲毒の器の威力は、凄まじい威力になっているな。
急いで39階に降りる。
入り口も開くはずなので、後続と別の階に転送されたら大変だ。
数分後、ソラとイノリが、俺が出てきた隣の扉から39階に降りてきた。
続いてその隣の扉が開いて、王子パーティーの前衛4人が出てきたところで、39階に大型の上級悪魔が登場した。
どうやら、リサたちも最後の一匹を倒したんだろう。
「格納、俺の39階ボス悪魔」
俺は、即座に収納した。
収納する敵の名前は、俺が納得していれば間違っていても言い間違えても大丈夫なことが分かっている。
どうせ出すことも無いので、名前を忘れても無問題だ。
リサとロバート君と王子パーティーの残りのメンバーが扉を開けてやって来て、全員揃った。
「ピコーン、レベルアップしました」
ここで、ペンダントが反応する。
俺は、戦わずしてレベル45になってしまった。
「さて、14人全員無事で大きな壁を乗り越えることが出来た。
明日、『プリンス・プディング』は40階のボスフロアに進む。
そこで数日滞在するので、『テイヘン・ショク』のメンバーは、45階まで進んで未知のフロアボスと戦って欲しい」
ヘンリー王子の話は、まるで演説のようだ。
その後、地下7階で獲れたミノタウロスステーキをみんなで食べて、またリサが持ち込んでいた酒を飲んで大いに盛り上がった。
士気も上がったので、その勢いで王子に妖精の石を使った報告もしてもらう。
「あ、あのー、ヘンリーです。
苦しかった、その、35階は、あのー無事に突破しました。
えーと、あの、以上だ。
あとは、ブクロー氏頼む」
そうか。王子は報告を受ける立場で、報告した経験なんてなかったんだ。
悪いことをした。
「あっ、出発して17日目です。
39階を突破したので、明日王子たちは40階のボスフロアに挑みます。
その後、45階を俺たち、46階を『プリンス・プディング』というように交互に進んでいきます。
『プリンス・プディング』は一名欠けて、さらに負傷者一人。
2名補充されたので、戦力8名は変わらずです。
『テイヘン・ショク』は、全員無事です。
プラムにも俺の無事を伝えてもらえたら、嬉しいです。
妖精さん、ここまで伝言お願いします」
石から現れた精霊が、ダンジョンの天井に消えていく。
翌日、俺たちは王子パーティーを送り出して、ゆっくり過ごす。
負傷したシメオネさんが、シミジミ語る。
「最初、シフト攻略とか聞いた時は、
『何だそりゃ。全員で一致協力して攻略しないとダメだろう』
って思った。
でも、こうやって戦えなくなると、シフト攻略で本当に助かったよ。
こんなダンジョンの中に一人置いていかれたら、助からないもんな。
みんなの足を引っ張る所だった。
俺の考えなんて、本当に浅いんだなと実感したよ」
「そんなこと無いっす。
シメオネさんは、騎士団でもベテランで、前回の攻略の数少ない生き残りの一人じゃないっすか。
自信を失わないでください。
自分も、前回火傷してみんなの足を引っ張ったけど、優しくしてくれたリサ先輩と結婚の約束までこぎつけました。
生きて帰れば、絶対に良いことがあります」
「言うなあ、ロバ!
さすがアタイの亭主になる男だ」
バアーンと、リサがロバート君の背中を叩く。
すっかりリサの可愛がりを受ける役は、彼に譲ることが出来たな。
良いことだ。
翌日、俺たちは39階を出発する。
40階でキャンプしている王子パーティーに、シメオネさんを預けた。
シネオメさんは、片腕を失ったとはいえ体幹が強い。
荷物をそれなりに運べるので、ポーターとして荷物を運ぶ。
王子たちは、全員揃っていたが無事という訳では無かった。
何人かが怪我をしていたし、スライムの突起攻撃を食らったんだろう。
盾が2つ、穴が開いたり、ひしゃげて使えなくなっていた。
これらを補修してから、出発するそうだ。
ここから俺たちは、本来の5人パーティーだ。
この面子で41階に足を踏み入れるのは、初めてのことになる。
まず、リンゴもどきの森で果実を集めた。
今回は、森を燃やさない。
俺たちは、色んなモンスターの肉やキノコなど色んな食料を備蓄しているが、王子パーティーにとっては貴重な食糧だ。
そして、階段を見つけて42階に降りる。
ここからは、まさに前人未到の迷宮探検になる。




