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4.下町のヒーロー

 パーティーをクビになった俺は、気分転換の意味もあって妹と一緒に食事に出かけた。


 何年間かずっと、何日もダンジョンに潜って時々家に帰って寝るという生活をしていたので、ちゃんとしたものが食べられる家での食事は、楽しみにしていた。


 でも、何度か妹プラムの作った食事を食べたが、どうも味付けがワンパターンだ。

 たまには外で食事して、色んな味を覚えた方が良いという事で外食することになったんだ。


 クビになったとはいえ、何年間もS級まで行くほどのパーティーにいたので、蓄えは多少あった。



 とはいえ、これからしばらくは無職生活になるかも知れない。

 ぜいたくは敵だ。

 高級街は避けて、下町で食事することにした。


「で、何を食べに行こうか?」


「おにいの好きなもので良いよ」


「その、何でも良いってのが一番困るんだよなあ」


「じゃあ、いつも行っている店とか無いの?」


「あるにはあるけど、牛丼屋だぞ」


「もしかして、牛丼一筋80年とかいう店?」


「ああ、でも最近は豚丼とかもやりだしたけどな。

 俺は、チーズ牛丼が好きなんだけど、これからは豚丼で我慢しなきゃいけないかもな。

 ハハハ」


「お兄が気に入っている味なら、ぜひ食べたい。

 これからは、家で食事することも増えるだろうから、お兄のお気に入りの味を覚えて帰って、食べさせてあげるよ」


 うおおおお、なんと可愛い申し入れ。

 我が妹ながら、プラムちゃんマジ天使。P.M.T!



「それで、お兄。

 どうして、今日も食事行くのにその黒い袋持ってるの?」


「ああ、すまん。癖だな。

 これを持っていないと落ち着かないんだ。

 もしかしたら、この袋との関係が切れたら、俺の収納魔法のスキルが消えてなくなるんじゃないかと思って不安なんだ」

 言われてみれば、俺はこのスキルが発現してから、ずっとこの袋を使い続けている。


 プラムが可愛い紐を付けてくれて、ナップサックのように背負えるようになってからは、中身空っぽなのに四六時中背負ったままだ。

 ひもを引っ張ると、キュッと袋の口が閉まるのが、すごく便利だ。

 中身空だけど。



 さて、俺たちの家から下町の繁華街までは、ちょっと距離がある。

 途中人通りの少ない所で、何やら押し問答をしている。


 帽子をかぶって、顔の下半分がすっぽり隠れるマスクをした女性3人が、行く手を塞ぐ5人組の男たちに抗議している。

「通してください」


「いやあ、お姉さん達。

 ここを通すわけにはいかないなあ。

 なんせ、アンタ達は、このまま奴隷市場に売り飛ばされることになっているんだ。

 まあ、売り飛ばす前に俺たちがタップリ楽しんでやるがな」


 先頭のモヒカン刈りの男は、いかにも悪そうだ。

 後ろの男たちも何人かは、すでにナイフを抜いて刃の部分をなめている。

 相当危ない奴らだ。


 これは、巻き込まれたら間違いなく命の危ない案件だ。

 戦闘職サポーターが関係して良いような話じゃない。

 俺は、やり取りが聞こえない振りをした。


 が、なんと、プラムは知らぬ振りは出来なかったようだ。


「あんた達、女性相手に何してるのよ!」


「なんだ? 関係ないやつは引っ込んでろ!

 それとも、お嬢ちゃんも一緒に奴隷市場に売っぱらわれたいのか?

 まあ、俺たちは人数が増えるなら歓迎だぜ。

 へっへっへ」


 うう、怖い。

 だが、可愛い妹プラムを売っぱらわれるわけにはいかない。

 俺は勇気を振り絞って言った。

「お兄さんたち。戦いは、数だ。

 こっちは、俺と妹を合わせて5人だ。

 つまり、5対5。

 被害が出ないように、ここは引いて、もっと襲いやすい相手を選んだ方が良くないか?」


 うう、我ながら理屈っぽいけど全く解決に向かわないような、弱い論拠だ。


「へっへ。その5人で、俺たち5人と戦えると思ってやがるのか?」


 3人の女性の中の一人が、もう一人にソッと耳打ちする。

「奴は、汚い格好でごまかしていますが、元王立騎士団副隊長のヒデブです。

 その後ろも、アベシやブハラなど、歴戦の戦士ぞろいです。

 かなり分が悪いかと」

 言われた女性も小声で返す。

「S級ダンジョン放置派の人たちなのですね」



 耳の良い俺には聞こえていたぜ。

 S級ダンジョン放置派っていうのが何なのかは、分からないけど。

 おいおい、なんでそんな凄い奴らに絡まれてるんだよ。


 と、プラムがズイッと前に出る。

「あんた達、そこそこやる奴らの様ね。

 でも、相手が悪かったわ。

 お兄は、下町のヒーローなんだからね。

 普通王立冒険者ギルドに登録できるのは、王侯貴族だけなんだけど、お兄は特別に下町出身の平民でも登録が認められた特殊能力者なんだから」


 うっ、我が妹よ。

 俺のことをそんな立派な兄だと勘違いしていたんだね。

 真実は、貴族の幼なじみがいて、その貴族モーソイが荷物持ちとして俺を誘ってくれただけなんだけど。


「へー、そうかい。この兄ちゃんがねえ」

 モヒカンの暴漢は、馬鹿にしたように言う。

 そりゃそうですよね。

 俺は、女戦士のリサより貧弱な体格で、武器も防具も身に着けていない。

 黒い袋を1つ背負っているだけだ。


「分かって無いわね。

 お兄は、あのS級パーティー『ティーヘイン・ショック』で、何年も強力なモンスター相手に戦ってきた人なのよ。

 ちょっと人間相手に戦えると思ってたら、大けがするわよ」


「S級パーティー『ティーヘイン・ショック』のメンバーだと?」

 おお、さすがS級パーティー。

 有名で、勇名も轟いてますな。


 明らかに、敵が俺を見る目が変わった。

 明らかに、悪い方に。

 すごく真剣な顔で全員スキの無い構えに変わり、間違いなく戦闘態勢に入ったことが、その緊張感からうかがえる。


「いやいや、みなさん。

 ここは穏便に済ませる気は、ありませんか?」

 本当にやめてー。ちびりそうなんだから。


 何か、3人組の女性のうち二人が俺の斜め後ろに位置して、フォーメーションみたいになっている。

 これ、俺が敵の主力を相手にして、この二人が後ろの方の敵にダメージを与える隊形じゃない?

 無理ですから。俺が敵の主力を引き付けたら、一瞬で殺されちゃいますから。

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