31.越えられない障壁
「て、敵は出てこないな」
言葉にして、安心した俺は出口の扉を開けて階段を降りていく。
左から2番目の扉を通って、さっきまでキャンプを張っていたフロアに戻ってしまった。
間もなく、あとの3人も左から3番目の扉から出てきた。
「どうやら、35階の入り口の扉には近付くことも許されないみたいだな」
「何か仕掛けがあると思うよ。
このダンジョンの最後のラスボスを倒さないと、絶対に通れない仕掛けかも知れないけど」
ソラが遠慮がちに言う。
「こういう時にイノリがいないのは、ホントに痛いな」
リサもしみじみ言う。
「でも、今回は2人と3人に分かれたよね。
もしかしたら、引っ付いている人は同じフロアに転送されるのかも知れない。
そうだとしたら、大きな手掛かりになるナリー」
「おっ、確かにそうだな。
確かに最初アタイとロバは背中を預け合って、引っ付いていた。
アタイ達二人だけ、転送先で一人ずつじゃ無かったもんな」
「おっ、二人ともでかした。
よく気付いたな。もしかしたら、ここを抜け出す大きな手掛かりになるかも知れないぞ」
「でしょ、でしょ。褒めて、褒めてー」
俺は、ソラの頭をナデナデしてやる。
「あっ、ズルいぞ。アタイも褒めてくれ」
リサの方が身長が高いので、少しかがんだリサの頭もナデナデしてやる。
「あっ、自分はいいっす」
「ロバ、お前は何も活躍してないんだから、当たり前だ」
「リサ先輩、厳しいっす」
未だ一人で歩けないとはいえ、ロバート君も随分回復したみたいだ。
この様子なら、命に別状はないだろう。
俺たちは、34階に戻るために色々なことを試した。
まず、全員引っ付いて35階のフロアを突っ切る。
全員、多分地下36階に転送された。
次は、また2人と3人だが、俺とソラが離れてヒモを持った状態で行く。
つながっていれば一緒かと思ったが、やはり俺とイノリは36階、残り3人は37階に転送された。
この辺りで、俺は35階から38階までで転送が行われて、フロアボスのいた階は39階だと確信した。
それぞれの階の天井は高いし、階段の感じからしても同じ位置に重なるような配置になっている。
後は、35階に戻る時に時間差をおいたら、順番に36階に転送されることが分かったり、色々なパターンは分かった。
だが、どうしても34階に戻る方法は分からない。
「ブク、次は40階なんだったら、やっぱり下に進んだ方が良いんじゃないか?」
リサが提案する。
「そうだな。いざとなれば、収納してしまえば良いし。
ここの所、結局上級悪魔ばかりだから、ソラの雷魔法で乗り切れる可能性が高いもんな」
王子のパーティーも、かなり試行錯誤したはずだ。
それでも諦めている。
せっかくその情報があるんだから、サッサとあきらめようと思った。
階段の上り下りに疲れたことも、あると思う。
40階の扉の前で、イノリを寝かせる。
自力で動けないので戦えないが、ロバート君に見張っておいてもらう。
見ているだけになってしまうが。
そして、リサは左手に盾を縛り付けて、前衛を担う。
攻撃手段は無いので、あくまで囮にしかならない。
攻撃はソラに任せて、万一の時は敵を収納する。
3人で、ボスフロアに乗り込む。
40階のフロアボスは、大型のスライムだった。
緑色の半透明のゼリー状のモンスターだ。
31階から34階に出てきたスライムは、大きくても直径1メートル、高さ50センチまでだった。
ところが、ここに現れたスライムは直径3メートル、高さも2メートル以上ある。
「氷魔法、超氷結」
ソラの魔法でも、スライムの前面が凍るだけだ。
「オラーッ」
リサは果敢だ。
その凍った場所に、自分の体重も乗せて盾を思いっきりぶつける。
シールドバッシュという攻撃だ。
ガイーン、パキパキ
凍った場所にヒビが入る。
「ヨシッ」
リサが満足そうな声を上げた瞬間だった。
ヒビの入った割れ目から、触手のようなものがミューンと伸びる。
リサは、盾ごと吹っ飛ばされた。
俺は、ふっ飛ばされたリサの所に駆け寄る。
「ハアハア。まだ、脱がされるほどピンチじゃないからな」
「そんな冗談が言えるなら、本当に大丈夫かな?」
俺は、リサを助け起こす。
だが、その隙にスライムはソラに迫る。
「氷魔法、超氷結」
ヒビの入った場所はもう一度凍らせたが、ソラは壁際にジリジリと追い詰められていく。
ドンッ、ドンッ
俺は、リサとソラの中間あたりで盾を構えて、銃眼からファイアワンドの火の玉攻撃を食らわせる。
効かないのは分かっているが、スライムの注意がこっちに逸れた。
ソラ側は凍らされているが、俺は凍っていない側面に攻撃をした。
そこからまた、触手が伸びてくる。
「氷魔法、超氷結」
伸びた触手が凍らされて、俺の盾まで届かなかった。
リサと違って、俺はあんなのを食らったら大けがしそうだ。
当たらなくて良かった。
ガイーン
その凍った触手に、リサがシールドバッシュを繰り出した。
触手は、バラバラに崩れて落ちた。
ブモーン
泣き声なのだろうか、スライムが小刻みに振動する。
かなりのダメージのようだ。
だが、ゆっくりと動くスライムが、ここでジャンプした。
触手を破壊して、勢い余って転んでいるリサに圧し掛かろうとしたのだ。
「格納、俺のデカいスライム」
俺が早口で詠唱すると、リサを踏み潰す直前でスライムは視界から消えた。
「フーッ、粘液を飛ばしてくるかと思ったら、圧し掛かって来ようとするなんて、危なかった」
「ここのスライムは、粘液は飛ばさなかったね。
その代わりに強力な触手で攻撃してきたから、ボクとブクちゃんだけで来ていたら、やられてたかも知れないよ」
ソラも一息ついて、安堵の言葉を漏らした。
「確かに凍らせるだけでは、ダメージにならないみたいだからな。
リサがいなかったら、全く攻撃出来なかったかもしれない。
それに、あの触手攻撃で大けがせずに済んだのは、リサだからだしな」
「そうだろう。アタイは、やっぱりブクパーティーの主力メンバーだな」
リサがすごく嬉しそうだ。




