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28.初見殺しの罠


「よし、それじゃ行くぞ!」


「「「「オーッ!」」」」


 俺たちは勢いよく扉を開けて、飛び込んでいった。

 前衛のリサたちは、すごい勢いで闘技場のような場所の中心に向かって進んでいく。


「あれ? 敵がいない?」

 リサが拍子抜けしたように言う。

 俺も追いかけて、部屋の中心まで歩いて行く。


 その瞬間、リサとロバート君の姿が音もなく消える。

「えっ、何だ? 何が起こったんだ?」


「その反応は、前のボスフロアで使い魔を消されたときの悪魔の反応ナ……」

 言葉の途中で、ソラも消える。


 と、イノリも消えている。

 えっ? この広いフロアに俺一人?


 目の前に、いつの間にか無言で上級悪魔ハイデーモンが立っている。


格納インプット、俺の上級悪魔ハイデーモンその4」

 俺は、考えるより先に詠唱した。

 だって、あんな強そうなやつと戦えないもん。

 上級悪魔ハイデーモンは、姿を消した。


 部屋の中を調べる。

 入って来た入り口の扉は開かない。

 出口らしい扉も開かない。


 壁に何か仕掛けが無いか調べてみる。

 収納した悪魔を出してみようかとも思うが、やめておく。

 俺が、敵うはずが無い。

 色々試してみるが、何も起こらない。


「おーい、リサー、ロバートくーん、ソラー、イノリー」

 大声で呼んでみるが、返事はない。


 そうこうしていると、ペンダントが声を出す。

「ピコーン、レベルアップしました」

 お、俺のレベルがまた上がった。

 蟲毒の威力か、団体の魔物に葬られたか。

 とにかく、上級悪魔ハイデーモンを倒したようだ。


 調べてみると、今俺はレベル40だ。

 しかし、まともに敵と戦わずにレベル40までいった冒険者は、俺だけだろうな。



 そんなことを考えながら、出口の扉をけてみる。開く。

 入り口の扉もひらいてみる。こちらは開かない。


 よく分からないが、進むことは出来るようだ。

 『地下35階で戻ることが出来ないので、仕方なく前に進む』という言葉が頭に浮かんだが、一人になってしまうなんて、想像のはるか斜め上だ。

 俺一人で、こんなダンジョン突破できるわけが無い。

 戻ることも、一人では不可能だろう。


 どうするか迷った末に、出口の扉を通って階段を降りて行った。

 今までのボスフロアを抜けた後の階段よりずいぶん長い。

 階段を下まで降りると、また似たような扉があった。

 すこし迷った後、開ける。

 誰もいない。


 ここも35階のボスフロアと似たような造りだ。

 円形の闘技場のような部屋に、ポツンと俺一人だ。

 ただ、入り口の扉が4つある。


 俺が通った以外の扉を押したり引いたりしてみるが、ビクともしない。

 反対側の壁にある出口とおぼしき扉も、開かない。

 たった一人で、こんな閉鎖空間に閉じ込められてしまった。


 どうすれば良いのか、本当に全く分からない。

 どうしてこうなったのかも、分からない。


 昨日の夜、あれほど一体感を感じた仲間を全員失ってしまったかも。

 そう考えると、泣きたくなってくる。



 しばらくすると、4つの入り口のうち俺が通ったのと違う扉が、ズズズズと静かな音を立てて開く。

 消えた仲間か、それとも新たな敵か?

 俺は身構えて、扉の方を注視する。


「あれ、ブクちゃん」

 ソラだった。

 ちょっと、ホッとした。


「ソラ、一体どこに消えてたんだ?」


「分からないけど。

 パッと景色が変わって、そこに悪魔が現れたので、雷魔法でやっつけたナリ」


「そうか、じゃあ残りの3人も悪魔を倒せばここから出てくるという事か」


「じゃあ、ブクちゃんも悪魔を倒したんだね。

 でも、3人で扉は2つ。どういう組み合わせかによっては、危ないかも」


「確かに、イノリ一人だったら危ないな」

 俺は、イノリはリサかロバート君と一緒に転送されていることを祈った。


 だが、世界は冷酷だ。

 もう一つの扉が開いて、リサとロバート君が現れた。

 しかも、リサは怪我をしているようだ。

 ロバート君に肩を借りて歩いてきた。

 利き腕の右手が垂れ下がったままだ。

「骨までイカれた感じだ。イノリに治療してもらおう」


「いや、そのイノリが、多分一人で悪魔を相手にしている」

 しかも、うちの前衛二人を相手にして、リサの右腕をやっちまえる悪魔だ。

 ロバート君の方も、リサほどでは無いが、あちこちケガをしている。


「それは、ヤバイな。

 オーイ、オーイ、イノリー、聞こえるかー」

 リサが、残った一つの扉をドンドン叩いて、開けようとするがビクともしない。


「チクショー、なんでイノリが一人なんだよー」

 リサが吐き捨てるように言うが、何も変わらない。



 時々、扉のロックが解除されていないかと確かめてみるが、変化はない。

 リサの右手は、着替えの服とかを破って作った簡単なギブスで固定して、首から吊った。

 重苦しい雰囲気のまま、4人でボーッと待つ。

 誰も一言も発しないまま、時間だけが過ぎていく。


 ふと、何かを感じたのかロバート君が扉を押してみると、動く。開いた。

「良かったー、イノリのやつ心配させやがって」

 リサが目に涙を溜めながら言う。

 だが、イノリは現れない。


 俺は、扉の向こうに行って、階段を登る。

 みんなついて来ようとするが、けが人のリサとロバート君には残るように言って、ソラと一緒に無傷の二人で階段を登る。

 登りきると、また扉だ。

 その扉を開けると、霧だ。

 35階と同じような闘技場に、毒の霧が充満している。

「イノリー、イノリー、何処だー」

 呼べど叫べど、答えが無い。


 よく見ると、床に人が倒れている。イノリだ。

 俺は抱き起して、イノリの口の辺りに耳を近付ける。

 息をしている。大急ぎでイノリを担ぐと、扉の外へ運び出した。

 扉を閉めると、部屋の外は普通の空気だ。助かった。

 俺は、イノリをその場に寝かせる。


「イノリ、イノリ、大丈夫か?」

 頬を軽く叩いてみる。

 目を開ける。


「あっ、ブクローさん。私、やり……ましたよ」

 話すのも辛そうで、起き上がることも出来ない様子だ。


 とにかく、俺とソラの二人でイノリを両脇から抱えて階段を降りる。


 ドドーン


 階段を降り切って、扉を開けると戦いの真っ最中だ。戦いの音が聞こえる。

 しまった。ケガ人二人を残してきたんだ。

 俺は、急いで状況を確認する。


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