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20.貴族になる意味

 今回の『ちょこっと遠征』は、俺たちのパーティーの実力を内外に示してしまった。


 日帰りで、最恐ダンジョンを5階まで攻略して、全員無傷で帰って来たのだ。

 長期の遠征になれば、戦闘力以外の諸々の問題点が噴出して崩壊するパーティーもよくある。

 日帰りでは純粋な戦闘力だけしか評価できないものの、少なくとも規格外の戦闘力を持っていることを示した訳だ。


 次の遠征は、しっかり準備して(でも一週間以内に)出発し、地下32階以上を目指すことを強く要望された。

 出来れば第2王子の安否含めて『プリンス・プディング』の捜索にも力を入れて欲しいと、各方面からの要請が入った。

 ハッキリ言って、戻ってからの一日目は次々とやって来る面会希望の貴族たちの相手をするだけで、終わってしまった。




「それでは、必要なものを買い揃えて、体調を整えて、色々な準備をして、5日後に出発しましょう」


「「「オオーッ」」」

 またイノリが決めて、俺以外の3人が賛成して出発日が決まってしまった。

 ハーレムパーティだったせいで男の意見が通らないと言っていたが、訂正する。

 どんなパーティーにいても、そのパーティーのリーダーをしていても、俺の意見は通らない。

 まあ、俺に強い意見が無いのが原因だが。


「色々な準備って、何をするんだ?」

 疑問に思った俺は、聞いてみた。


「ブクさんの収納庫に入れる金庫の選定と、32階層までの情報を姫様からレクチャしていただいたり、それと遠征中のロバさんの食事や寝床をどうするか決めるのと、あと……」


「最初のやつ以外は、俺がいなくても大丈夫だよね。

 俺、チョット用事があるから明後日別行動をとりたい」

 こういう細かいことは、俺達が口を出すよりイノリに全部任せておいた方が上手くいく。


「構いませんけど、日程に余裕がありませんから、あんまり羽目を外さないで下さいね」


「いや、遊びに行くんじゃないから大丈夫」


「ブクちゃんはエッチだから、あやしいなー」

 ソラの言葉に、ロバート君が反応する。

「えっ、ブクロー先輩、エッチなんすか?

 こんなキレイな人が一杯のパーティーにいたら、他の女性の所に遊びに行く必要ないでしょう」


「そんな、会いに行く他の女性なんかいないから」


「それは心配していませんが、出発までの時間は有効に使わないと後悔しますわよ」

 イノリに、たしなめられた。


「そうだよ、お兄。

 しばらく会えなくなるんだから、兄妹水入らずでの遠征激励会も、しなきゃいけないんだからね」


「えっ? 兄妹水入らず? アタイ達も混ぜてくれよー。

 激励会なんか、何度も開けないんだからさー」

 リサが絡んでくる。


「まあ、どうせここでやるんだから、みんな参加することになるさ。

 いいよな、プラム」


「エエーッ、兄妹水入らずが良かったのになー。

 まあっか。このメンバーだったら」

 いつの間にか、ロバート君がプラムにまで認められている。

 あっそうか、彼の面接にはプラムも同席していたんだ。




 自由にして良いという許可が出たので、その日はルシア姫の所へ行く。


 しかし、俺がリーダーなのになぜ許可が必要なのだろう。

 それは置いておいて、今日は俺のために30分ほど時間を取るように、ルシアさんに頼んでおいたのだ。


 ルシアさんに言われた私室に行く。

 沢山の検問を越えて、やっとたどり着く。

 簡単にあいさつを済ませる。


「ブク様。今日は30分だけとは、どのようなご用件なのでしょうか?」


「いえあの、以前下町で姫様たちに危害を加えようとしていた男たちがいましたよね。

 彼らに会って話をしたいのですが、お願いできませんか?」


「あんな者たちに会って、どうするのですか?」


「どうしても、俺の収納魔法の行き先の様子を知りたくて。

 今まで、言葉の通じる人間を送り込んだのは、彼らの時だけなんですよ」


「言葉の通じる人間なら、騎士団の精鋭部隊を編成して送り込んでみてはいかがかしら?

 彼らなら、そう簡単に命を失ったりしないと思いますから」


「いえ、あの者たちは随分脅えていました。

 トラウマになるほどの場所なら、騎士団は止めておいた方が良いでしょう。

 今回、金庫に入れて沢山の物資を持って行くつもりですが、大丈夫なのか不安もありますし。

 俺としては、この確認は優先順位一位なんですよ。

 可能なら、今すぐ行きたいくらいです」


「わかりました。すぐ手配しましょう。

 リリィ、この手紙を監獄長に持って行って、大至急返事をもらって来て」


「ハッ、直ちに」

 リリィさんは、手紙を持ってダッシュで部屋を出て行った。


「あ、ありがとうございます。助かります」


「ところで、ブク様。

 私の予定は30分空けてあります。

 今、5分という所でしょうか。

 リリィは15分ほどで帰ってくると思いますが、もちろん時間ギリギリまでお話して行かれますよね」


 できたら、サッサと奴らに話を聞きに行って対策を考えたいんだが、そんなこと言ったら怒られそうな雰囲気だな。

 イノリもそうだが、どうして聖女職の人は皆、プレッシャーが強いんだろうか?


「えっと、何か話題があるという事ですか?」


「まあ、冷たいことをおっしゃるのね」


 ええっ? 俺、何かまずいことを言ったのか?

「い、いや、そう言えばイノリが地下32階までの情報をレクチャしてもらうって言っていました。

 ルシアさんが、教えてくれるんですか?」


「もちろんですわ。

 地下5階までは直接目で確かめておられますから、その先の情報をお教えします。

 明後日の夕方に時間を取っておりますから、皆さんで聞いて下さいね」


「いや、俺たちは色々準備もあるんで、一番頭のいいイノリに任せようって決めたんですよ」


「えっ? じゃあ、ブク様はその時におられないのですか?」


「そうなりますね。

 あ、何なら、今この時間で簡単に教えてもらえたら助かります」


「地下6階からは、物理攻撃主体の敵が5階層続きます。

 騎士団の精鋭を、もう何人か連れて行きますか?」


 さすが、キッチリしているな。

 前置きも無く情報をくれる。時間を節約したいんだな。

「いや、人数が増えると水や食料もたくさん必要になりますから、最小限の人数で行きます」


 収納魔法がまともなら、俺の容量ならそこそこの人数でも遠征できたはずなんだが。

 今の状況では、金庫の容量分しか持っていけないからな。

 イノリとソラクラスの聖女と魔法使いも付けてくれるなら、話に乗るんだが。


 などと、簡単な講義を受けていたら、確かに15分ほどでリリィさんが帰って来た。

 ちゃんと、面会許可書をもらって来てくれたみたいだ。

 奴らが捕えられている牢屋の位置などを聞いていると、丁度いい時間になった。


「ブク様、もう行ってしまわれるのですか?」


「はい、気になって仕方ないので」


「そうですか。では、ひとつだけ。

 イノリさん達には、絶対に黙っておいてくださいね。

 邪魔されないように」


「ええ、どんな話か分かりませんが、わざわざ話したりしませんよ」


「恐らく今回の遠征は、1月以上のものになるはずです。

 ブク様は、これから一か月後、つまり遠征から帰った瞬間に貴族になられます」


「ええっ? 俺が?

 どうして平民の俺が、急にそんなことになるんですか?」


「あなたは、あの者たちを懲らしめて、王族の危機を救ったからです。

 私が、王家への忠誠度、貢献度最大という報告書を出しておきましたので、間違いないでしょう。

 あなたが貴族になる。この意味は分かって下さいますよね」

 ルシアさんが、ずいっと近付いてくる。


「はい、もちろん」

 貴族になったら優雅に暮らせそうだ。ヤッター。

 ルシアさんもニッコリ笑ってこっちを見ている。良い人だ。

 あの時助けたお礼が出来ることを、こんなに喜んでくれるなんて。


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