19.フロアボスを瞬殺?
という訳で、地下5階まで行くことになった。
しかし、ダブル聖女の威力はすさまじい。
イノリとルシアさんが聖魔法を使うと、アンデッドモンスターは道に転がっている石ころのようだ。
何の障害にもならない。
「結局地下5階まで、何の苦労もなく来てしまいましたね」
イノリが淡々と述べる。
階段を降りて、すぐにある扉をリサが躊躇なく開ける。
暗闇に、巨大な黒いフードの修道士が浮かび上がる。
全く同じ姿かたちだが、サイズが違うので迫力も違う。
ハンドベルを持っている所まで一緒だが、身長5メートル位の大きさだ。
ゴーンンンン
ハンドベルの音も大音響で、頭に響く。
これが音響攻撃というやつか。
そして、あの青い火の玉も地下墓地にいた修道士の奴の3倍くらいの大きさだ。
何発も放ってくるが、リサが剣で受ける。
しかし、また一発食らう。
今回は、魔法防御が効いている。
リサの体に当たった瞬間、青い火の玉が煙のようになって消える。
「おお、あんまり効いて無いぞ」
リサが感激したような声を上げているが、少しでも効いているのかよ。
当たらないように気を付けないとヤバイな。
ここで、ダブル聖女が前に出る。
「聖魔法、上級ターンアンデッド」
「聖魔法、絞りこんだターンアンデッド」
聖魔法を受けると一瞬動作が止まるが、効いていないようだ。
片手にハンドベル、もう片手には大きな鎌を持っている。
鎌を横なぎに振ってくる。
ブーーーン
イノリとルシアさんが飛び退く。
「二人とも後ろに下がれ!」
リサが、ロバート君を従えて前にでる。
だが、大きな修道士は高く舞い上がると、リサたちを飛び越えて飛んでいく。
あっ、後方で何もしていない俺の方に来る。
こっちを先に攻めるなんて、どんな判断だ。
「格納、俺の大きくて黒い修道士」
シュンッ
フロアボスが、消えてしまった。
「フロアボスを瞬殺ですか?
本当に底が見えませんね」
ルシアさんが、呆れたように言う。
「でも、フロアボスはまだ倒されていないぞ。
こっちのドアは開かない」
リサが出口の扉を開けようとして開かなかったようだ。
今まで、結構な数のモンスターを収納したけど、フロアボスには敵わないんだろう。
しばらく待ったが、何も起こらない。
「これを収納してみて欲しいピョン」
ルルさんが、バックパックから瓶を10本ほど出した。
「これは何ですか?」
「教会でもらって来た聖水です。
前回、地下墓地で苦労したので念のために持ってきましたピョン」
「格納、ルルさんの聖水」
時間を空けて出してみる。
「搬出、ルルさんの聖水」
ガラスの破片が出てきた。
「格納、ルルさんの聖水」
「搬出、ルルさんの聖水」
…………
「格納、ルルさんの聖水」
「搬出、ルルさんの聖水」
10本全部割れたのを確認してから、フロアボスを出す。
「搬出、俺の大きくて黒い修道士」
地面の上に出てきた。
そういや出てくる時は、いつも地面の上だな。
聖水がかかった所だろう。
ジューッと音を立てて、煙が出ている。
ダブル聖女が、即座に反応する。
「聖魔法、上級ターンアンデッド」
「聖魔法、絞りこんだターンアンデッド」
効果は少ないが、動きが止まる。
さっきは浮いていたが、今は地面の上で動きが止まった。
リサとロバート君が、剣をぶっ刺す。
ぶち切る。斬って斬って斬りまくる。
二人とも魔法剣なので、物理攻撃が効かないであろうモンスターがグングン弱っていく。
二人の斬撃を10分くらい食らい続けて、フロアボスは絶命したようだ。
蒼い煙になって消えていく。
「ピコーン、レベルアップしました」
「ピコーン、レベルアップしました」
「ピコーン、レベルアップしました」
俺のレベルがいつの間にか30までいっている。
広いボスフロアの入り口と出口の両方の扉が開くようになった。
地下5階は、フロアボスの大部屋が一つあるだけだ。
フロアボスは、一度倒すと一ヵ月は復活しないらしい。
なので、次に来るのを一ヵ月以内にすれば、ここは素通りできることになる。
「ハアハア、さすがに、ハア、フロアボスは、ブクがいなかったら、危なかったな」
リサが、しみじみ言う。
俺は、あんな強いフロアボスを収納したせいで、キンタ君とキンコちゃんが無事なのかすごく心配だ。
「搬出、俺のキンタ君、キンコちゃん」
「えっ、キンタ……?」
イノリが怪訝な顔をしている。
さっきルルさんの聖水と言った時も、同じ表情をしていたが。
「オオーッ、金庫じゃん。
ブクちゃん、頭いいーッ。
これなら、収納魔法復活ナリー」
ソラが、はしゃいでいる。
リサも、キンコちゃんから出した体力回復ポーションを飲んで上機嫌だ。
「期待していなかったから、このタイミングでのエナジーポーションはすごく旨い。
ナイス、ブク」
ガッツポーズを決めている。
肩で息をしているロバート君にも飲ませてあげる。
350ミリリットルを一気飲みだ。
遠慮してたんだな。
「ありがとうございます。ブクロー先輩。
自分は、こんなに戦ったーって感じ、初めてっす。
本当に、このパーティーに入れてもらって、感謝しかないっす」
それは良かった。
イノリやルシアさんにも、魔力回復ポーションを飲んでもらって、俺たちは引き返した。
結局、地下5階まで日帰りできてしまった。




