15.おしりとお城の違い。
「ここにいる3人の『テイヘン・ショク』への加入を申請いたします」
イノリが、取り仕切る。
このメンバーの中で、ちゃんと事務仕事が出来るのはイノリだけだろうな。
パーティー名変更も申請したかったけど、俺の顔を見て、ヒソヒソ話をしている窓口の人たちには言い出しにくい。
イノリの闘魂注入は、すごい威力だった。
ホッペが、ジンジン痛い。
イノリは、まだ怒っているのか、俺とは口もきいてくれない。
そして、聞こえてくる陰口も痛い。
「ブクローさん。真面目な人だと思っていたのに、ソラさんのおしりを触って、イノリさんにひっぱたかれたらしいわよ」
「ええっ? サイテー」
俺の好感度を返してくれー!
しばらくして、イノリが3人分のメンバー証を受け取っている。
イノリに手招きされて、窓口に行く。
俺がパーティーのリーダーだから、何かまだ手続きしないといけないのかな?
「S級パーティー『テイヘン・ショク』の皆様に、登城要請が来ています。
直ちに登城するようお願いいたします。
あなた方が、お城に向かって出発したと連絡を入れてもよろしいでしょうか?」
すさまじく強引だな。
俺の嫌な予感の正体は、これか。
「はい、直ちに登城いたします」
イノリが、勝手に答えている。
「おい。何か言い訳して、引き伸ばした方が良いんじゃないか?」
小声で言ってみる。
「おしりへの誘いには直ぐ応えるのに、おしろへの誘いは断るんですか?」
イノリが、プイッとそっぽを向いた。
ハアーッ、お城での嫌な予感とで、ダブルパンチだよ。
そういう訳で、俺たちは全くの猶予も与えられずに登城した。
謁見の間に通された俺たちは、勝手に顔を上げることも許されない。
俺達平民が、許しも無く王族の顔を見たら、下手したら死刑だ。
だだっ広い謁見の間の赤い絨毯の上で、4人で片ひざをついてお言葉を待つ。
「S級パーティー『テイヘン・ショク』の皆様、急な要請によくお応えくださいました。
感謝いたします」
あれ? どこかで聞いた声のような気がするな。
シーン
いてっ。イノリが後ろから、俺の尻をつねってくる。
人には尻を触ったことを責めておいて、自分は良いのかよ。
「ありがたき幸せにございます」
イノリが答える。
あっ、本当はリーダーの俺が答えなきゃいけなかったのか。
「本日お越しいただいたのは、緊急事態ゆえのお願いをするためでございます。
S級パーティー『テイヘン・ショク』リーダー、ブクロー・チューテ。
面をあげよ」
「ははーっ」
顔を上げる。あれ? ルシアさんだ。
思わず声を上げそうになる。
王座というんだろうか?
すごいイスに座ったルシアさんが、言葉を続ける。
「そなたたちを呼んだのは、最難関ダンジョン『悪魔の母』攻略と、行方不明のS級パーティー『プリンス・プディング』の捜索を正式に依頼するためじゃ。
何か質問はあるか?
出来る限りお答えしよう」
やはり、こう来たか。
モーソイたちを送りだしたら、残ったS級パーティーは、俺たちだけだもんな。
リサたちが加入してくれてて、よかった。
そうじゃ無かったら、あんなダンジョン2階層すら攻略できない。
どうやら、イノリが手を上げたようだ。
「イノリ・ミスティーク。面をあげよ」
「はい、一つ質問させていただきます。
もう一つのS級パーティー『ティーヘイン・ショック』は、『アバドンのボレロ』攻略の命を受けております。
ここで我々に『悪魔の母』攻略を命ぜられるのは、何故なのでしょうか?
この二つのダンジョンに、何か攻略を優先する理由があるのでしょうか?」
「少し長くなりますが、お答えしましょう。
最近急にダンジョンが大量発生している原因は、地底から湧き出てくる魔力、いわゆる地獄の瘴気というものが影響しているようです。
地獄の瘴気は、100年に1度の割合で強くなり、来年がそのピークになります。
最高難度のS級ダンジョンは、来年まで放置すると最深部で魔王が誕生してしまいます。
だから期限は8カ月なのです。
6人の魔王が誕生すると、その中でも最強の魔王が大魔王に進化し、地上に大きな厄災をもたらします。
最強ダンジョンを攻略できれば、それだけで大魔王の発生は防ぐことが出来ますが、その他のダンジョンだと、残り5個中3個攻略しなければ、大魔王の発生を防げません。
閉鎖空間のダンジョンに、大量の兵力を投入しても効果はありません。
ですから、2つのS級パーティーに、最高難易度と最低難易度を振り分けて、同時に攻略を狙っているのです」
「では、なぜ我々が最高難易度なのでしょうか?
『ティーヘイン・ショック』には、『深紅の誓い』の生き残りと王立騎士団の精鋭の支援を付けて、最低難易度。
我々は、単独で最高難易度。
これでは、我々が当て馬のように思えてしまいます」
「いいえ。私は、あなた達こそが人類の希望だと考えています。
行方不明になっている『プリンス・プディング』は、考えうる限り最高で最強の布陣で攻略を開始しました。
それでも、一度目の挑戦で32階層で戦力が半減して引き返し、2度目は何処まで行けたのかも不明のまま音信不通です。
考えが及ぶ強さでは、『悪魔の母』攻略は、不可能なのです。
あなた達のように、強さの底が見えない方たちだけが、希望なのです。
考えうる最強の布陣は、最低難易度から3個のダンジョン攻略に差し向けます。
これが、私たちが取りうる最善の方法だと信じています」
強さの底が見えない?
一緒にダンジョンに潜って、わずか2階層であの体たらくを見せたのに、どういうことなんだろう。
イノリが言うように、本当に当て馬なんだろうか?




