14.闘魂注入
翌日、朝からお客さんが訪ねてきた。
「おーい、ブクーッ。いるかー?」
この声は、リサだな。
窓を開けて、文句を言う。
「おい、リサ。
お前、もう大丈夫なのか?」
「おう、一日中ゆっくり寝たら、すっかり元気になったぞ」
「あの、ここでは何ですから、中にお入りください」
「何だよ、そのかしこまった言い方。
今日はお姫様いないぞ」
リサの大声は、近所迷惑だしな。
なんかデジャブを感じるな。
リビングに通す。
「あれ、リサさん。病気になったんじゃ?」
プラムが驚いている。そりゃそうだろうな。
「ああ、プラムちゃん、心配かけちゃってごめん。
それで、なんか美味しそうなフルーツが一杯カゴに飾ってあるな」
リサが物欲しそうに眺めている。
「今日それを持って、お前のお見舞いに行く予定だったんだよ」
「えっ、じゃあこれアタイの?
ヤッター」
いきなりバナナの皮をむいて、一本パクついている。
「その様子だと、大丈夫みたいね。
心配したんだからあ」
プラムが、すごく嬉しそうに笑う。
「それで、わざわざ無事なことを報告しに来てくれたのか?
すまなかったな」
「いや、違うぞ」
「じゃあ、何しに来たんだ?」
「ああ、アタイも『底辺カケル高さ』とかいうパーティーに入れてもらおうと思って」
「天駆ける雨傘? なんだそりゃ」
「いや、ブクのパーティー、そんな名前だったじゃん」
「いや、ぜんっぜん違うし。
パーティーの名前も、勝手につけられてたから、変えたいんだよ」
「名前は何でも良いけど、入れてくれよ。
もし、今のパーティーをクビになったら、入れてくれるって約束したよな」
「えっ? そんな約束したっけ?」
「お兄、リサさん困ってるんだから、入れてあげなよ。
それに、リサさんが一緒なら、お兄が無事に帰ってくる可能性が上がりそうで、私もうれしいし」
「ほらほら、プラムちゃんもこう言ってるし。
今からギルドに行こうぜ」
「ええっ? 今から?
俺まだ、朝飯も食ってないんだけど」
「そうか、じゃあこれをやるよ」
いきなり、口に食べかけのバナナを突っ込まれた。
俺は、念のためにキンタ君とキンコちゃんを収納した。
「フゴフゴ、インプッホ、ほれの~」
ちゃんと言えていないのに、両方収納できた。
言ったイメージが大切なのかな。
リサに手を引かれて、ギルドの前までやって来る。
「そんなに焦らなくても、ギルドは逃げないぞ」
というか、嫌な予感がするから、ギルドに近寄りたくなかったんだけどな。
「ダメだよ。サッサと手続きしないと、邪魔が入るだろ」
邪魔? 嫌な予感の正体はこれか?
あきらめた俺は、仕方なくギルドの扉を開けた。
「ほらー、やっぱり来たナリー」
えっ、ソラがいる?
「ブクローさん、リサさん。ちゃんと説明して下さい」
口を真一文字に結んだ、イノリもいる。
「元気娘のリサが、ちょっとやそっとの弱体化の魔法で虚弱体質になるはずないんだからあ。
絶対仮病だと思ってたナリ」
ソラの指摘をリサが否定する。
「いや、仮病じゃ無いぞ。
本当に昨日は死にそうだったんだ」
「昨日死にそうだった人が、どうしてそんなに元気なんですか?」
イノリが責める。
「一日寝てたら、回復したんだって」
「ペロッ、うそつきの味がするナリー」
「ソラ、お前そんなスキル持ってたのか?
ズルいぞ」
「ほら、やっぱりウソだったナリよ」
ギルドの受付のお姉さんたちの視線が痛い。
「ゴホン。とにかくリサさん。
抜け駆けは、ズルいですわよ」
静かだが、有無を言わせぬ迫力でイノリがすごむ。
「だから、急がなきゃいけなかったのになー」
「リサさん。あなたの考えはお見通しですわよ。
私とソラさんは、ギルドの開店と同時にここにいましたから」
こいつらは、一体何を揉めているんだ?
さっぱり話が見えないんだが。
「俺は、リサがパーティーをクビになったと聞いたから、俺のパーティーに加入申請しに来ただけだぞ」
「だから、それが抜け駆けだと言っているんです」
イノリが怖い顔だ。美人の怒った顔は、倍怖い。
「だったら、アンタ達もクビにしてもらったらいいじゃんか」
リサが、なんか煽るように言う。
「ヘッヘーン。ボクたちも脱退申請してきたからね」
ソラが何故かどや顔だ。
「えっ、お前らみんな抜けたら、モーソイが困るだろ?」
「騎士団から精鋭をもらうとか言ってましたわよ。
ちょっと調子が悪いくらいで、ブクローさんもリサさんもクビにするなんて。
私たちも、何かあったらクビにされそうだから辞めますって言って、辞めてきたんです」
イノリが解説してくれた。
「だから、3人とも立場は同じなのだ。
残念だったね。リサクーン」
ソラに煽られて、リサが言い返す。
「でも、アタイとブクは、パンツを触らせてやった仲だから」
また、それかよー。
「じゃあ、こうするナリー」
いきなりソラが俺の手をつかんで、自分のお尻に誘導する。
スカートをたくし上げて、見えているパンツに触らせる。
ちょっ、おまっ……
ああ、柔らかい。し・あ・わ・せ。
「これで、ボクの一歩リードナリー」
「待ちなさい!
ブクローさん、公衆の面前で不潔ですっ!」
バチーン
いきなり、イノリの顔面平手打ちを食らった。
ええっ? なんで俺が怒られるの?




