13.キンタ君とキンコちゃん
「今さら戻ってくれと言われても、まだ早いー?
『今さら』と『まだ早い』が、論理的に矛盾しているぞ。
ふざけてるのか?」
モーソイがムッとしている。
「いや、プラムの言葉じゃないけど、俺も俺なりに頑張って来たのにクビにされたんだから、『今さら』それを言うかって気持ちなんだよ。
それと、俺が少々戦えるようになったとしても、お前とリサのツートップと一緒に主要戦闘メンバーなんて、とても務まらないよ。
まだ早いって言ったけど、多分いつまで待っても俺がそこまで強くなることは無いだろうな」
「その心配は無いよ。リサもクビにした」
「えっ?」
黙って俺と一緒にダンジョンに潜ったからか?
「今朝パーティーメンバーに招集をかけたんだが、リサが来ないから様子を見に行ったんだ。
そしたらあいつ、お前と一緒に潜ったダンジョンで、しこたま弱体化の魔法を食らったんだってな。
こんなに虚弱になったんじゃもう戦えないとか、泣きごとを言うから辞めてもらった」
うっ、こいつ。そこまで知っていたのに、ここまで言わなかったのか。
「えっ? リサさん、そんなことになってたの?
大丈夫なの?」
プラムが、本当に心配そうだ。
モーソイが、姿勢を正して答える。
「あっ、それは大丈夫みたいです。
今日もベッドで寝ていましたが、ご飯は食べてましたし。
日常生活には支障は無いって、お母さんもおっしゃっていました」
おいおいモーソイさん、プラムに対しての態度が違い過ぎるだろ。
「それで、リサの代わりをしろって言うのか?
そんなの、絶対無理だぞ」
「いくらリサでも、『悪魔の母』でグール百匹は倒せないだろ。
お前は、リサ以上ってことだ」
いや、ウサ耳忍者コンビがいなかったら、間違いなくリサは倒してたぞ。
「そうやって、使えないと思ったらクビにするのはやめろよ。
メンバーが誰もいなくなるぞ」
「心配は無用だ。
お前も知っているだろ。
もう一つのS級パーティー『深紅の誓い』」
「ああ。元々、世界最強の冒険者たちって言われてたからな」
「彼らは、S級ダンジョンの中でも最も難易度が低いと言われる『アバドンのボレロ』で壊滅した。
俺たちは、『深紅の誓い』の生き残り3名を吸収して、引き続き『アバドンのボレロ』の攻略を命じられたんだ。
今日急遽メンバーを招集したのも、それが理由だ」
「でも、お兄も多分『ティーヘイン・ショック』には戻らないと思うよ。
だって、『アバドンのボレロ』ってすごく遠いでしょ?
S級ダンジョンの攻略なんか何カ月もかかるのに、お兄は私を置いて行ったりしないよ」
プラムが訴えかけるような目で俺を見る。
「いや、プラムさんはブクローについて来て下さって大丈夫です。
俺が責任をもって、面倒を見ます」
「責任をもって面倒見るって、お前もダンジョンに潜りっぱなしだろ?
見れるわけ無いじゃないか。
プラムが言う通り、俺はそんな遠くには行けない。
つまり、『ティーヘイン・ショック』には戻れない」
「そうか、こんなに頼んでもダメか」
「そうだな。リサにも同じように頼んで、戻ってもらえよ」
「そうだよ。お兄の復帰は無理なんだから。
リサさんの代わりになる人なんて、そうそういないよ」
「その点は大丈夫です。プラムさんの心配には及びません。
王国騎士団の若手から、何人か選抜して連れて行く許可をもらっていますから」
こいつ、ちゃっかりバックアッププランも、しっかりしてやがる。
サロンを出て、帰路につく。
プラムが心配そうに言ってくる。
「ねえお兄。リサさんは本当に大丈夫なの?
お見舞いとか行かなくて良いのかな?」
「そうだな。リサが寝込んでいるのは俺にも責任があるからな。
明日にでも、一緒にお見舞いに行こうか?」
「うん、じゃあ、お見舞いの品も買いに行こうよ」
プラムがまた、俺の腕にしがみついてくる。
プラムさん、あの、胸が当たっているんですが。
家に帰ったら、もう夕方になっていた。
リサはご飯は食べていたそうなので、フルーツを色々買って、手籠に詰めた。
「これを食べたら、きっとリサさん元気になるよ」
プラムのその笑顔で、俺は元気になるよ。
さて、やるべきことをやっておかないと。
買ってきた金庫の中に拾ってきた小石を入れて、収納する。
2つの金庫に名前を付ける。
キンタ君とキンコちゃんだ。
そして、魔法を詠唱する。
「格納、俺のキンコちゃん」
「搬出、俺のキンコちゃん」
キンコちゃんの中を確認する。
ちゃんと、小石が入っていた。
一応、小石の匂いも嗅いでおく。
クンクン
大丈夫だ。
同じ作業をキンタ君でもやってみる。
大丈夫だ。使えそうだ。
今、俺の収納庫の中はどうなっているんだろう。
わずかな時間だったが、キンタ君には小さな傷がいくつか付いていた。
キンタ君には小型ワンドを入れる。
キンコちゃんには、回復ポーションを満載だ。
あんまり入らないけど。
そして、冒険に行く直前に収納だな。
とにかく、これで準備はできた。
しかし、モーソイの奴大丈夫かな。
下心は感じたけど、幼なじみの俺を冒険に誘ってくれたし、何年間も一緒に冒険に行った仲間だ。
リサまでクビにしてしまうなんて、尋常じゃない。
のし上がりたくて、焦りがあるんだろうな。
助けてやりたいのは山々だけど、まともに戦えない俺が戻ってやったって、足手まといになるだけだからな。
あと気になるのが、『深紅の誓い』の壊滅だ。
『ティーヘイン・ショック』に、『悪魔の母』の攻略と行方不明の『プリンス・プディング』の捜索が依頼されていたはずだ。
この任務は、誰かが受け継ぐんだよな。
なんか、すごく嫌な予感がする。




