12.戻ってくれと言われても、まだ早い
次の日は、朝からプラムを連れてギルドに行った。
昨日の夜はリサを家に送り届けたりしたので、今日報告に来たのだ。
一晩寝て、リサも少しは回復したかな?
受付で冒険者の証を預けて、確認してもらう。
「ただいま、攻略報酬増額キャンペーン中ですので、今回の報酬はこちらの額になります」
ひえー、これはすごい。
しばらく遊んで暮らせるな。
基本的に攻略報酬額は、冒険者の証に記録されたポイントで計算される。
冒険者の証は、モンスターが倒されたときに吐き出すエネルギーを感知してカウントしているらしい。
当然、強い敵を倒せば沢山のポイントが入ることになる。
ただ、倒れた敵からの距離で検知されるエネルギー量が変わる。
別の人がモンスターを倒しても、近くにいればポイントが入るのだ。
今までの俺は、戦いの場からは離れていたので、冒険者の証に入るポイントは微々たるものだった。
ただ、クエストの達成やダンジョン踏破などは、これとは別報酬になる。
持ち帰った宝物や、価値のあるモンスターの部位も換金可能だ。
これまで俺は、この別報酬の分配金で生活していた。
「すごいよ、お兄。大金持ちだね」
「ハッハッハッハ
プラム君、おじさんが何でも欲しいものを買ってあげようか?」
そんな軽口を叩きながら、俺たちは魔法具店に立ち寄った。
今日の俺の目的は2つ。
一つ目は、俺が戦うための武器。
二つ目は、魔法の金庫だ。
一つ目の武器は、あの地下墓地みたいなところで出てくる不死の者を倒せて、一般の敵にも威力が無いといけない。
そして、俺には力が無い。
必然的に魔法石を埋め込んだ魔法杖になる。
これなら魔力のない俺でも、攻撃魔法が使える。
不死の者は火に弱い。
まず、火の玉を撃てるファイアワンドで決まりだな。
二つ目の金庫は、俺の収納魔法を復活させるアイデアの一つだ。
俺の収納魔法でしまったものは、もれなくすごい臭気で使い物にならなくなる。
だが、密閉された容器の中に収めてから収納したらどうだろう。
俺の収納魔法は液体を扱えないのに、容器に入ったポーション類は扱えていた。
今、俺の魔法の収納庫の状態は分からないが、気密性があって頑丈で魔法にも耐える金庫なら何とかなるんじゃないか。
収納庫の中で激しい戦闘が繰り広げられているみたいだから、保証は無いけどな。
「お兄、私はこの魔法のお守りにする」
「まあ! 守護魔法がかかっていて、上等な宝石付き。
それでいて派手過ぎず落ち着いたデザインで、お上品。
でも、お高いんでしょう?
はい、通常ならこれだけのお値段の所、杖と金庫との3点セットで、なんとこのお値段。
今なら、魔法のポーションもお付けいたします」
「お兄、何興奮しているの?」
「いや、すまない。
なぜか、頭に浮かんだんだ。
オヤジ、この杖とアミュレット、あと金庫が欲しいんだけど、この店で一番頑丈な金庫はどれかな?」
「頑丈な金庫は、お高いんですよー」
くそ、このオヤジ、さっきの俺たちの会話を聞いてやがったな。
いくつか見せてもらったが、本当に大きくて頑丈な金庫は建物に設置するやつなので、建具屋に行かないといけないらしい。
ただ、テストしてみないと使えるかどうか分からない。。
まずは、頑丈そうな手提げ金庫を2個買ってみた。
両手に手提げ金庫を持って、俺たちは店を出た。
「ありがとう、お兄。
一生大切にするよ」
プラムがこんなに喜んでくれるなんて。
アミュレットはちょっと高かったけど、十分その値打ちはあったな。
パカッパカッ
馬が1頭俺たちに近付いてくる。
「ブクローッ、こんな所にいたのか!」
馬に乗っているのは、モーソイだ。
なんだか興奮しているな。
もうリサの事を聞いたのかな。
「お前ってやつは、何てことをしてくれるんだ」
これは、やっぱりリサの件だな。
「いくら平民相手とはいえ、お兄はS級冒険者ですよ。
馬の上からは、失礼じゃないですか?
お貴族様」
プラムが嫌みったらしく言う。
こいつは、モーソイのことをずっと嫌っていたからな。
でも、モーソイが俺をパーティーに誘ったのは、幼なじみだったり、収納魔法を持ってたりってこともあるけど、妹とお近づきになりたかったからじゃないかという、疑いもあるんだよな。
モーソイは渋々馬から降りてくる。
「ちょっと話をしたいから、そこのサロンまで付き合ってくれ」
貴族のサロンに入るのは初めてだ。
4人掛けのテーブルに3人で座る。
何も言わなくても、お茶うけのお菓子と一緒に紅茶が3つ出てきた。
「お前、いきなり『悪魔の母』に挑戦したらしいな」
モーソイは、いきなり切り出してきた。
「ああ。パーティー登録したら、俺がS級冒険者だからってS級にされちゃったんだ。
S級パーティーは、8カ月以内に挑戦するのが義務だって言われて、仕方なくな」
「ブクロー。お前、俺のパーティーにいた時は力を隠していたのか?」
「ええっ? そんな訳無いだろう。
俺の収納魔法で、お前も結構恩恵を感じていたはずだぞ」
「そんな話をしているんじゃない。
お前、ソロで潜ってグールを百匹以上退治したらしいじゃないか。
どういうことなんだ?
勇者の俺でも、そんなこと出来ないぞ」
情報が早いな。さすが、情報収集で成り上がった男爵家の息子だ。
プラムが、自分の事のようにヘヘーンというドヤ顔をしている。
「いや、たまたまだよ。
たまたま、モンスターが大量死する現場に居合わせたんだ」
あの転がる石で、大量死したんだけどな。
「どうしてそんなに隠したがるんだ?
まあいい、お前『ティーヘイン・ショック』に帰ってくる気は無いか?」
「いや、俺はクビにされたんだけど」
「収納魔法のスペシャリストとしては、もう使い物にならないから辞めてもらった。
新たに、主要戦闘メンバーとして加入し直してくれ」
うーん、今さら帰って来いと言われても、俺は新しいパーティを組んで楽しくやってるから、もう遅い。
と言いたい所だけど、新しいパーティーと言っても、お姫様とか言われてて仲間とは言い難いよな。
別に、すぐにでも解散できるような浅い関係だしな。
悩んでいると、プラムが怒った声で言い出した。
「いくら何でも、お兄をなめすぎじゃない?」
「えっ、どうしてですか? プラムさん」
あっ、こいつ。プラムに対する態度が、俺相手と全然違う。
「だってそうでしょう。
『ティーヘイン・ショック』は、お兄がずっと裏方で支えてきたからこそ、S級まで上がれたんじゃない。
それなのに、ちょっとリサさん達がお兄とばっかり仲良くするからって、クビにしちゃうなんてあんまりだよ」
プラムは、そんな風に思ってたのか。
なんだか、ツッコミどころ満載だな。
「プラムさんの考えは、分かった。
それで、ブクローはどう考えているんだ?」
「今の気持ちを言葉にすると、そうだな。
今さら戻ってくれと言われても、まだ早い。かな?」




