10.戦慄の地下墓地
「ヨシッ、じゃあドンドン行こうか」
リサは、絶好調みたいだ。
しかし、俺はさっきの戦いで一つ不安点があった。
このダンジョンのモンスターは、悪魔系の奴が多いみたいだ。
ダンジョンの名前も『悪魔の母』だしな。
当然、さっきの悪魔のように攻撃魔法を使ってくる。
それに対して、俺たちは戦士とか忍者とか、物理攻撃するメンバーばかりだ。
本当にこのダンジョンの攻略を目指すなら、魔法使いとかを雇い入れた方が良いんじゃないだろうか?
まあ、こんな危ない所の攻略を目指さなければ良いんだけどね。
俺の心配は杞憂なのだろうか?
リサの剣は、いとも容易く悪魔たちを切り裂き、忍者の二人は敵の急所をバッチリ突いて倒していく。
俺とルシアさんは、見守っている感じだ。
いいんだろうか?
そうこうするうちに、リサが下の階に降りる階段を見つけた。
「ヨシッ、降りよう」
「ちょ、ま……」
止める間もなく、リサが階段を降りていく。
ルシアさん達3人組も、続いて降りていく。
俺が、強くないとダメ的なことを言ったからか、彼女たちも強さを示そうとリサと張り合ってズンズン進んでいくんだよね。
地下2階は、地下墓地のようだ。
通路に沿って、お墓が並んでいる。
すごく不気味だ。
「ヨシッ、今日は充分進んだな。
そろそろ引き返すとしようか」
俺が提案してみたが、リリィさんが口に人差し指を当てる。
静かにしろのサインだ。
チリーン
鈴の音がする。
チリーン
鈴の音が近付いてくる。
俺たちは、それぞれ墓標の陰に隠れた。
チリーン
真っ黒なフードをかぶった修道士のような人が、何か唱えながらハンドベルを持って、一定間隔で鳴らしながら歩いてくるのだ。
墓の影からジッと見ていると、修道士がこっちを向く。
あっ、顔が無い。骸骨だ。
目が合おうにも、目も無い。
でも、見つかったようだ。
「我らが聖地を荒らす者たちよ。
罰を受けるが良かろう」
修道士は、声を上げると鐘を3回鳴らした。
チリーン、チリーン、チリーン
突然、墓のフタがズズズと音を立てて動き出す。
墓の中から、次々とゾンビや骸骨が起き上がり始める。
「おっ、ブク、やっちまったな」
リサは、嬉しそうに言うと、剣を振り回し始める。
ブーン、ドカッ、バキッ
ゾンビは、体を切り裂かれるとその場に崩れるが、骸骨たちはバラバラになっても、またくっついて動き出す。
リサや二人の忍者が斬っても、切り裂いてもきりがない。
そして、黒いフードの修道士が、青い火の玉を撃ってくる。
いつの間にか、黒いフードの修道士が二人、三人と増えていく。
青い火の玉が一発、リサの脚に当たった。
リサは、ガクッとひざを着く。
「あっ、ヤバいかも。
この青い火の玉に当たると、力が……抜ける」
想定外の事態だ。
動けないリサを狙って、2発目、3発目と食らわしてくる。
リサは、剣を落としてその場に倒れてしまった。
俺は、走って行ってリサを背負った。
忍者の二人が手裏剣を投げて、敵を後退させてくれている。
ルシアさんが、リサの剣と俺のタワーシールドを拾ってくれた。
リサは金属製の鎧を着こんでいるので、背中が痛いくらい硬い。
そして、重い。
「す、すまない」
申し訳なさそうに謝るリサを見るのは、初めてだ。
こういう風にしおらしくしていると、結構ドキッとするな。
俺たちは、迷宮の中を走って逃げる。
リリィさんとルルさんが、左右から支えてくれるお陰で、走りやすい。
というより、さすがウサギの獣人だ。
俺が普通に走る時の倍以上の速度が出ている。
この地下2階は、まさに地下迷宮というに相応しい構造だ。
通路は折れ曲がって、太くなったり細くなったりしている。
広い道は囲まれるので、狭い道に逃げ込むが、行き止まりが多い。
「不死なる者よ。土に帰りなさい。
聖魔法、ターンアンデッド」
辺りが明るい光に包まれる。
追いかけてくるゾンビや骸骨たちが、霧のように消えていく。
ルシアさんのお陰で、追撃が緩む。
行き止まりの通路の脇にあった木の扉を開けて、中に入る。
中は、小部屋になっていた。
その床にリサを寝かせる。
リリィさんとルルさんが、閉めた木の扉の両脇に待機して警戒する。
「ハア、ハア
さすがS級ダンジョンは厳しいな。
これでもまだ、地下2階層目なんだからな。
こんなのが何十層も続くなら、そりゃ中々攻略できないよな」
俺は、息を整えながら感想を述べた。
「大丈夫です。
ブク様と私がいれば、どんな困難でもへっちゃらです」
確かに聖女がいれば、アンデッド系モンスターの多い地下墓地型ダンジョンには強い。
でも、火力が足りない気もする。
何か、すすり泣く声が聞こえる。
幽霊系のモンスターに警戒する。
「グスッ。ブク、ゴメンね」
声の方を見ると、リサが泣いている。
あの青い火の玉は、体だけでなく心まで弱らせるようだ。
「どうしたんだ? リサらしくもない」
「ずっと思ってたんだよ。
アタイが、あのダンジョンで罠にかからなかったら、ブクは収納魔法が使えなくならなかったよね。
そしたら、パーティーをクビにならなかったと思うし」
本当にリサらしくない。
ポロポロ涙をこぼしている。
「リサのせいじゃ無いよ。
ダンジョン攻略を生業にしているくせに、戦えない俺が原因なんだから」
「アタイ、アタイね。
ブクが一人でこのダンジョンの攻略を始めたって聞いて、嬉しかったんだ。
少しでも先に進むのに協力したくって、無理やり連れてきちゃったんだけど。
結局、またアタイが先走ったせいで、こんなピンチになっちゃって」
「こんなのピンチのうちに入らないぜ。
まあ、俺たちはちょっと強すぎるからな。
これ位ハンディを付けてやって、やっと冒険らしくなったって所だな。
戦ってない俺が言っても、説得力ないけどな」
俺は、精一杯虚勢を張る。
「ブクは、本当に優しいよ。
アタイ、実はね、ブクのことがね、……」
ドーン、ドーン、ドーン
木の扉をたたく音がする。
ノックじゃない。突き破ろうとブッ叩いている音だ。
「奴ら、来ましたピョン。
じきに扉を破られますピョン。
備えて下さい!」
ルルさんが、叫ぶ。
うう、俺のことが何なんだ?
すごく気になる。
ルルさんのピョンも気になる。




