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1.パーティーを解雇される

「おいブクロー。お前はクビだ。

 ただでさえお荷物だったんだが、頼りの収納魔法すら使えない以上、出て行ってもらうしかない」


 王立冒険ギルド所属のS級パーティー『ティーヘイン・ショック』のリーダー、モーソイが冷たく言い放つ。


 パーティーのホームで俺は、他のメンバーの顔を見渡す。

 俺たちは5人パーティーだった。


 先頭に立って敵と戦う勇者モーソイ、前衛でみんなの壁になる女戦士のリサ、主力になる攻撃魔法の使い手で魔法使いのソラ、支援魔法と回復魔法を担当する聖女イノリ、そして皆の荷物を管理して適切にアイテムを使用する俺ブクローの5人構成だった。


 俺よりも体格の良い女戦士のリサが、別にどうってことないという感じで言ってくる。

「まあ、ブクはずっと一人だけ戦ってなかったんだし、仕方ないんじゃね?」


 魔法使いのソラが、馬鹿にしている訳では無いのだろうが、笑いながら言う。

「でも、荷物持ちがお荷物になるなんて、なんだかシュール」


 聖女とも言われるイノリだけは、少し慰めるように言ってくれる。

「私、ブクローさんの妹ちゃんに、兄をよろしくと頼まれていたのに、なんのお役にも立てず申し訳ないです。

 こんな時も助けてあげられずに、ごめんなさいね」


 ううっ、最後の優しい言葉が一番心をえぐってくる。



 俺は、出来るだけダメージを受けていない振りをして、薄ら笑いを浮かべながら答える。

「ハ、ハ、ハハハ

 い、今まで楽しかったよ。

 また、どこかで会ったら、そん時はよろしくな」

 精一杯虚勢を張って、言ってみる。


「俺たちはS級パーティーになったから、年中ダンジョン探索をし続けることになる。

 お前もどこかの野良パーティーに拾ってもらうことになるだろうが、下級ダンジョンの探索になるだろう。

 ほとんど会うことは無くなってしまうと思うけどな。

 まあ、元気でやれや」

 モーソイに肩を叩かれて、涙が出そうになる。



 パーティーのホームを出て行くのに、荷物はほとんど無かった。

 俺は正面からモンスターと戦わない。

 防具とか重い武器は必要ない。

 というより、少しでも戦いから離れていられるように、ダンジョンに潜る時はいつも身軽にしていた。

 だから、ホームに置いてあるのも申し訳程度の荷物だけだった。


 俺の持っている袋も、実際に中に収納している訳では無い。

 収納魔法は収納場所をイメージしないと成功しない。

 だから、黒い綿コットンの袋をいつも持ち運んでいたんだ。

 黒い色なのは、目立たないようにという意味以外特になかった。


 後に、黒い袋を持った奇術師とか、黒いサンタクロースとかの異名を取るなんて、この頃は想像もしていなかった。




 家に帰ると、俺は涙をこらえて空元気を出した。

 「ただいまー」と家のドアを開けた。

 両親を早くに無くした俺たち兄妹は、二人で一軒家に住んでいる。


「おかえりー」

 これまた元気な声が返ってくる。


 妹のプラムだ。

「おにい、どうしたの?

 何か元気ない」

 おさげの髪型の下で、クリクリした目が鋭く光っている。

 俺は、少し挙動不審になりながら答える。


「い、いや、ちょっとな」

 パーティーをクビになったことを言おうかどうか迷ったが、いずれバレることだ。

 勇気を振り絞って、正直に言うことにした。

「実は、兄ちゃん冒険者パーティーをクビになっちゃって。

 は、ハハ」


「フーン、それで。退職金はいくらもらったの?」

 おお、我が妹よ。それは厳しい。


「ま、まあ、冒険者に退職金とかは、……ないかな?」


「もおーっ。まあ良いけどさ。

 私嫌いなんだよね。あのモーソイの奴。

 接点が無くなったんなら、私は良かったよ」


 しかし、パーティーをクビになったら明日から無職だ。

 次の仕事を探さないとな。

 プラムの奴が、また俺に気をつかって学校をやめて働くとか言い出しそうだからな。




 俺たちは、王立冒険者ギルドに所属するダンジョン探索を目的とするパーティーだった。

 王国の中に突然大量に発生した地下迷宮、通称ダンジョンを探索して、その秘密を探ることを目的として設立された王立冒険者ギルドに所属する。


 ダンジョンの発生と同じ時期に、人々にもスキルと呼ばれる特技が発現した。

 それを教会が管理して、スキルに合わせた称号を与えた。

 その称号が、戦闘職と言われるもので、幼なじみのモーソイは剣術や体力強化などの戦闘用のスキルを数々発現し、勇者の称号をもらった。

 俺は、収納魔法と収納袋への簡易な転移魔法が使えたので、サポーターの称号を得た。


 戦士のリサ、魔法使いのソラ、聖女のイノリを加えた5人パーティーは、モーソイのファミリーネームを取って、『ティーヘイン・ショック』と名付けた。



 バランスの良いパーティーだったこともあって、それなりに実績を上げて王立冒険者ギルドでも指折りのエース級パーティーとなった俺たちは、この間ついにS級パーティーに認定された。


 S級パーティーとは、S級ダンジョンへの挑戦が許されたパーティーだ。

 ダンジョンは、難易度によって7段階に区分けされており、S級ダンジョンは最難関なのだ。

 そんな危ない所に入る許可は、そう簡単には降りない。


 俺たちのパーティーがS級に認証されたのは、王国内でもまだ3つ目くらいの希少さだった。

 そのパーティーのメンバーという事で、俺も結構ギルド内で一目置かれる存在になっていた。


 ただ、俺はパーティーで行動していた時のリサの言葉が胸に突き刺さっていた。

「戦闘職と言いながらサポーターって戦闘しないじゃん」


 勇者とか戦士とか魔法使いとか分かりやすい戦闘職で、実際に直接モンスター達と戦って、本当の意味で経験値を積み重ねて、ドンドン強くなっていく。

 それに比べて俺は、経験値とか積んでるんだろうかと不安になる。

 まあ、ある意味クビになって、よかったのかも知れない。



 -*-*-*-*-*-



 5日前のことだった。

 俺の収納魔法の便利さは、みんなのお気に入りだった。


 俺たちのパーティーはS級の認定を受けて、お城のすぐ近くに出現したS級ダンジョンを攻めるよう依頼されていた。

 出来るだけ早くとは言われていたが、期限は8カ月もある。


 王家直々の依頼でもあり、失敗は許されない。

 特に今回のダンジョンは、難易度もさることながら何十層進んでも終わりが見えないそうなのだ。

 俺たちの前に潜ったS級パーティーは、2度目のチャレンジからまだ帰ってきていないそうだ。

 もう一ヵ月も音沙汰が無いので、彼らの捜索も依頼事項の一つだ。


 それで、その前に少し遠出して前人未到の深い階層があると言われるB級ダンジョンの攻略に出かけたんだ。

 馬車を使って、片道丸半日の旅になった。


 連携の確認等を余裕でするために、自分達の力量より少し下のダンジョンを選択した。

 そのため、みんな油断していたんだと思う。


 俺の収納魔法で、みんなのテントや食料、着替えや替えの武器、防具、回復用のアイテムなど本当に色々な荷物を詰め込んで、少ない荷物で出発できた。

 かなり快適な旅をしてダンジョンの入り口にたどり着いた。

 そこまでは良かったんだ。


 事件は、地下5階で起きた。

 この階は、通路の形が妙に丸い。

 そして狭い。まるで土管の中みたいだ。

 並んでは歩きにくいので、縦一列に並んで歩く。


 俺は、列の最後尾にいた。

 少し前を歩いていた魔法使いのソラが、魔法使いらしいローブのフードを外して、話しかけてきた。

「ねえねえ、ブクちゃん。

 ボクの水筒出してよー。

 喉が渇いちゃったナリー」


「ああ、分かった。

 搬出アウトプット、ソラの水筒」


 ポワワーンと俺が地面に置いた袋の口の先に、ソラの水筒が現れる。

 ねこのキャラクターの描かれた可愛い水筒だ。


「ブクちゃん。ありがとうナリー」

 いきなりその場に腰を下ろして、水筒のキャップを開けて水を飲み始めた。


 ソラは、少しおどけた性格で、パーティーのムードメーカーだ。

 水色の髪の毛のショートカットで、可愛い外見と相まってパーティーのアイドル的存在だ。

 そして、最大のチャームポイントが、彼女がねこみみ少女だということだ。


 前を行く3人と少し距離が開いた。


 正直、前で何が起こったのか、その時は分からなかった。


 ガコーン


 大きな音がしたと思うと、大きな石の玉がゴロゴロとすごい音を立てて、ゆっくり転がってくる。


 うわっ、前の3人は無事なんだろうか?

 いや、それ以前に俺たち逃げ場がない!


 俺は、ソラを立たせて走って逃げようとするが、彼女は完全に休憩モードに入っていたようで、そんなに素早くは立ち上がれない。

「えっ? えっ? えっ?

 何? 何が起こったの?

 ボクたち、石につぶされて、ペッチャンコになっちゃうよー」

 ソラが泣き叫ぶが、どうしようもない。


 油断しすぎだ。

 俺たちは、こんな罠にかかって全滅してしまうのか?


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