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第85話 お宝返却大作戦

「見つかったのですか!?指輪が!?」


おう、どうしたメイドのミルキーさん。そんな絶対にありえないことが起きてしまった!みたいな顔をして。


バイソングラスさんたちから聞いた話をまとめると、時系列的にはこうだ。


まず朝の5時半頃、夫人の死体が4号車の通路で発見される。発見したのは食堂車から出てきた女性職員であり、彼女の悲鳴を聞きつけて何事かと騒ぎになった。


それから6時頃に1等客室にいた人間が全員食堂車に集められ、事情説明を受ける。大慌てで鉄道職員がキャロブさんたち陛下の従者に連絡してきたのもこの頃。そこから叩き起こされた陛下が俺を連れて探偵ゴッコを始めたのが6時半ぐらい。


その間、客たちは食堂車におり、また無用な混乱を避けるため、7号車より後ろの2等客以下には事件のことは隠しているそうだ。


食堂車から出してもらえなかったというバイソングラスさんによると、その間に抜け出せたのはショックを受けて倒れてしまった金持ちの老婦人と、彼女を部屋に運ぶために出ていったその金持ち旦那と運ぶのを手伝った鉄道職員。


それに真っ青な顔で震えていたラベンダーちゃんを自分が泊まっている2等客室まで連れていったきり戻ってこなかったミルキーさんだけだそうだ。


「うむ!実は4号車と3号車の間の連結通路の部分に落ちておったのだ!恐らくはだが、夫人が襲われた際に偶然指から抜け落ち、そのまま転がっていってしまったのであろうよ!」


レモンバームさんから借りてきた指輪を見せつつ、陛下が涼しい顔でのたまう。


「そうですか、では、わたくしの方から旦那様にお返ししておきます」


「そうはいかぬ!そなたを信用しておらぬわけではないが、何せフラー家の家宝にも匹敵するほどの宝石であるがゆえ、そんな大事なものであるならば、この俺が直々に侯爵に手渡しせねば無作法というもの!」


こういう時、俺様皇帝だと強引に我を通せるから話が楽でいいな。手っ取り早いってのはいいことだ。


「というわけで、部屋に行ってみたのだが返事が一向になくてな。一応、見つかったという言伝をそなたに託しに来たというわけだ」


「しかし」


「そなた、一介のメイドの分際で皇帝たるこの俺に指図する気か?ん?俺が指輪を盗むとでも?」


「いえ、大変失礼致しました。では、ご案内致します」


「え?案内?」


「いざという時のために、合鍵を預かっておりますので」


揺さぶりをかけに来たのだが、まさかの侯爵本人に指輪を持っていく流れになってしまった。ちなみに、まだ侯爵本人の部屋には行っていないため、嘘がばれたら...まあ、ノックに気づかなかった、ということで通せばいいか。


しかしアリバイ的に、何か工作ができたとしたら彼女が一番怪しいんだよな。倒れたという老婦人とその旦那という可能性もあるが、会って話を聞いてみた限りでは今回の事件にはあまり関係がなさそうだったし。


「旦那様、失礼致します...旦那様?」


合鍵を使って部屋に入ると、なんか、旦那の方も床に倒れていた。


「旦那様!?ご無事ですか!?旦那様!!...いやあああ!!」


ベッドに仰向けに寝かされたハスカップ夫人の亡骸に縋りつくかのような格好で、うつ伏せに倒れ、エスカロップ侯爵が死んでいた。まさかの連続殺人かと思いきや、外傷はない。


「キャロブ!車掌を呼んでこい!」


「かしこまりました!」


「ビルベリ!部屋を見張れ!」


「おう!」


「ホーク!」


「ええ!」


錯乱するミルキーさんを引き剥がし、『落ちつけ!』となだめすかす皇帝陛下が彼女の相手をしてくれているうちに、俺はコピー魔法を使い、侯爵と侯爵夫人の亡骸を複製する。コピー魔法では生きた人間や生物は複製出来ないのだが、死体になるとコピー可能になるのが不思議なところだ。もちろんいきなり死体が四つに増えてしまったら大混乱になってしまうので、複製した傍からワープ魔法でVIP車両に転移させておくことも忘れない。


「そんな、こんなことが...ああ、女神よ...何故ですか...」


盛大に取り乱していた彼女が、ぐったりと崩れ落ち、啜り泣きを始める。そっか、オーマイゴッドってこの世界だとオーマイゴッデスになるんだな。


「パパ!?パパなの!?」


「お嬢ちゃん!入っちゃダメだ!」


「イヤ!放してよ!パパに何があったの!?嘘よね?本当は何も起きていないんでしょう!?」


入口の方からラベンダーちゃんの声がする。はっとした顔で弾かれたように立ち上がったミルキーさんが、そちらへ駆けていったので俺もその後を追う。


「ミルキー!ねえ、お願い!嘘だと言って!本当はなんにもなくて、ただみんなで私をからかっているだけなんだって、そう言ってちょうだい!」


「お嬢様...旦那様が...亡くなられました」


「嘘よ!そんなの嘘!嘘嘘!どうしてパパが死んじゃうの!?あの女はもう死んでるのに!!わかんないわかんないわかんない!もういやあああ!」


絶叫、慟哭。室内に入らないよう羽交い絞めにしていた牛獣人ビルベリの腕の中で、発狂した幼女をミルキーさんが力尽くで奪い返し、抱き締める。


「違いますお嬢様!違います!あなた様のせいではありません!闇よ!ミルキーの名において命ずる!お嬢様に安眠を!悪夢も見ないほどの、深い眠りを!どうか...お願い!」


魔法により深い眠りに落とされたラベンダーがぐったりと意識を失い、髪を乱し息を荒げるミルキーが、そんな幼き主を抱きしめながら、号泣し始める。


「一体何があったのか、潔く話してくれるのであろうな?」


「はい...こうなってしまっては、致し方ありません。全てをお話致します」

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