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第84話 事情聴取は続くよどこまでも

「おお陛下、何やら大変な騒ぎになってしまいましたな」


「全くです。僕たちも迂闊に出歩かないよう釘を刺されてしまいましたよ。お陰で退屈で仕方がありません」


「こりゃバカモノ!人が死んでおるというのになんと不謹慎な!」


「言われてますよ陛下!」


「うむ、実に耳が痛い!」


宝石商のドワーフ、バイソングラスさんとその秘書であるレモンバームさんたちの宿泊している部屋は3号車にあった。


「そういえば、侯爵夫人の指輪が盗まれたそうですよ。スターガーネットとかいう珍しい宝石らしいですけど」


「ほほお?スターガーネット!よもやそのような珍しい石に出会い損ねるとは、ワシャ哀しいぞい!スタールビーやスターサファイアならばいくつか所有しておるのじゃが」


「それって、殺人の動機になり得ます?」


「宝石の質や大きさ、保存状態にもよるが、安く見積もっても金貨1000枚程度の価値はあるじゃろうからなあ。そんなものをこれ見よがしに見せ付けていては、強盗に目を付けられるのも無理からぬ話ではあるが...ワシではないぞ?」


「どうだか?あなたなら宝石のための殺人のひとつやふたつ、平然と働きかねませんと僕は思いますけど?」


「たわけ!殺人は最後の手段じゃ!まずは買い取り交渉!それでも駄目なら脅迫!脅迫に応じぬようなら人を雇っての嫌がらせ、人質、武力行使と、悪事にも段階というものがじゃな!」


「陛下、この人やばくないですか?」


「うむ!実にやばい男よ!だからこそ、この20年俺は助けられもしたのだがな!」


異世界の倫理観怖いなー。


「でも、そんな宝石盗んで隠し持ってたら、鉄道警察が来た時に調べられたらすぐにばれてしまうのでは?」


「欲に目が眩んで衝動的に夫人を刺してしまったのならば、そんなことを考えられるほど知恵も回らんのであろうな。あるいは次の駅で警察が来る前に協力者に引き渡すか、あるいは列車から投げ捨てるか、だ。あらかじめ決まったポイントで協力者を待機させておけば済む」


「指輪を狙った計画的な犯行か、あるいは衝動的な強盗か、あるいは何らかの怨恨による殺人で、指輪は動機を隠すためのカモフラージュ?」


「そもそも指輪の行方なぞ、そなたの魔法で見つけてしまえばよかろう?何故やらぬのだ!」


「言われてみれば確かに...探偵と魔法が結びつかなかったもので、頭から抜けてましたが、そういえば俺は魔法使いでした」


失せ物捜しの魔法か。なんだ?占いでもすればいいのか?それとも召喚魔法か?


「バイソングラスさん、水晶玉とか持ってませんか?」


「水晶玉はないが、水晶の指輪ならばあるぞい」


「指輪かあ。ちょっと覗き込むには小さすぎますが、まあ、試すだけ試してみましょうか」


テーブルの上に水晶の指輪をリングスタンドに立てて置いてもらい、俺は両手をかざす。陛下とバイソングラス氏は興味深そうに、レモンバーム氏は胡散臭そうにそれを見ている。


「水晶よ水晶よ水晶さん、侯爵夫人の指輪は今どこに?」


なんだよ水晶よ水晶よ水晶さんって。それなら鏡でやった方が確実だったのでは??と我に返ってしまった俺はしかし、イメージを損ねてしまわないために真剣に糖衣錠1粒ほどの大きさの水晶を覗き込む。


やがて透明な水晶の中で水が渦巻くように何かがうねり始め、そして映し出されたのは...


「ワシ?」


バイソングラスさんの顔だった。


「いやいやいやいや!冤罪じゃ冤罪!ワシは殺しも盗みもまだ働いとらん!」


「語るに落ちましたね社長。ああ、僕は悲しい。社長が犯人ならその秘書である僕がきっと濡れ衣を着せられてトカゲの尻尾切りされてしまうんだ。全ては秘書が勝手にやったことで私には関係のないことですとかなんとか言って」


「ちっがーう!!そもそもそなた、ずっとワシと一緒におったじゃろうが!!ワシの完璧なアリバイを証言すべきそなたが嘘の証言をしてどうする!」


「いや、別にバイソングラスさんが殺人犯とは言ってませんよ。ただひょっとしたら、死んでる夫人に気づいて誰も見ていないのをいいことに、その指から宝石だけ盗み取っただけ、とか」


「ええい!そんなに疑うのであればワシの体や荷物を検査してみるがよいわ!ワシは逃げも隠れも隠し立てもせんぞ!」


そんなことを言い出したので、それじゃあ、と彼の体とこの部屋を調べてみることにした。結果。


「ありましたね、指輪」


「うむ、決定的な証拠という奴だな」


「有罪確定ですね。平民による貴族殺し、家宝の盗難未遂。まあ、死刑でしょう。さようなら社長」


「何故じゃ!?何故こんなことに!?」


なんと、レモンバームさんの使っているベッドの枕の下から指輪が出てきたのである。


「そもそもそなたの枕の下にあったのだからそなたの方が怪しいのではないかのう!?」


「でも水晶に映し出されたのは社長の顔ですし」


「ただの共犯という線もあるぞ?とぼけたふりをして、ふたりで芝居を打っているだけやもしれぬ」


「その理屈で言うと俺たち、この後口封じに殺される展開が待っていそうで嫌なんですけど??」


だが、これで確信できたこともある。


「誰かが裏工作してますね」


「うむ、宝石狂いの宝石商が、よもや盗んだ貴重な宝石を剥き出しのまま枕の下に隠すなどあり得んだろう!」


「そうですじゃ!こんなともすれば潰れて破損してしまいかねぬような杜撰な扱い、断固として許し難き!」


「社長の無駄にデカくて重たいハゲ頭だったら砕けていたかもしれませんね!あっはっは!」


「貴様ァ!!」


問題はいつ、誰が、どうやってこの指輪をこのふたりの部屋に隠しにきたか、だ。客室の鍵には防犯魔法がかけられているため、生半可な魔法の腕ではそれを突破することは難しい。ならば純粋な鍵開けの技術か?この世界、冒険者ギルドに盗賊職が登録してる世界だから、普通に鍵開けスキル持ってる人間が珍しくないんだよね。何とも、謎は深まる一方だなこりゃ。

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