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第77話 ビリビリ!一目惚れは落雷みたいに!

「お帰りなさいませ、坊ちゃま」


「ああ、ただいまローリエ...どうした?」


「少々お耳に入れたきことが」


留学生ということで、現在俺の拠点は中等部の学生寮だ。本来ならばふたり部屋になるはずなのだが、学院長の配慮によりひとり部屋をもらっている。といっても、ほとんど使うことはない。部屋に入るなり、ワープ魔法で実家に帰るからだ。


「不法侵入者?」


「ええ。坊ちゃんのおかけになられた結界に弾かれ退散していったようですが、結界が発動した痕跡が」


「戻ったぞ。ああ、お帰りなさい坊ちゃん。ちょうどいい、聞いてもらえるか」


ふたりの話をまとめると、こうだ。夕方、ローリエが洗濯物を取り込もうとしたところ、何者かが屋敷に侵入しようとしたことで防御結界が反応し、屋敷内に防犯アラームが鳴り響いた。


急ぎ反応のあった塀のところまで駆けつけたが既にそこには誰もおらず、人間よりも鼻の利く山犬獣人のオリーヴが僅かな痕跡を頼りに追跡をかけたのだが、途中で川にでも飛び込んで逃げたのか、橋の上でプッツリと臭いが途切れてしまったらしい。


「坊ちゃん印の攻性防壁に触れてまだ生きているということは、ただの泥棒や強盗ということはないだろう」


「おそらくはある程度の装備を整えられる者たちが、何らかの意図をもって、計画的にこの屋敷に侵入しようとしていたものと思われます」


そうだね、塀を乗り越えて侵入しようとする奴なんて碌なもんじゃないだろうから、結界は敵を弾くとか追い返すとかではなく、侵入者を高圧電流で消し炭にするタイプのものだから。まだ生きてるってだけで事前にそれだけの防具で身を固めていた可能性が高いわけだ。


「犯人に心当たりがありすぎるんだよな」


「あらホーク、お帰りなさい」


「お帰りなさいませ、お兄様!」


話をしていると、母とマリーがやってきた。帝国でのクーデターから一時的に避難させるという名目でパパがこの家に連れてきてから、なんだかんだで今もここにいるのだ。


ローリエとオリーヴには、後で続きを話そうと目配せし、俺はそのままふたりに向き合う。


最初のうちこそ父はどのような態度を取ればよいのかわからずギクシャクしていたが、母が率先して父に会話を振っていくうちに徐々に慣れ始め、今ではぎこちないながらもなんとはなしに付きあい立ての距離感のちょっと遠いカップルのようなやり取りをしている。


逆にマリーは自分が不義の子ではなく実子であることが判明してからは目に見えて明るくなり、お父様!お兄様!と前よりも積極的に関わってくるようになった。メンタル強いな?長年虐げられてきたことへの恨みや憎しみよりも、ようやく家族と認められたという喜びが勝っているようだ。


いい子、で済ませてよい範疇なのか判断に困るが、本人がそれでいいのならそれでいいのだろう。学校にも通わせてもらえていない彼女だが、13歳になる来年からは中等部1年に遅ればせながら編入する形で学校に行けるようになったということで、かなり楽しみにしている。


「ただいま戻りました。ところでマリー、少し訊きたいことがあるのだが」


「なんでしょう?」


「メアリ・イースという名に聞き覚えは?」


「いえ、ありませんが」


「そうか。ならいい」


マリーのためにも、無駄に不穏な要素は排除しなくてはならないな。ストロベリーブロンドのヒロインちゃん中心にドロドロの思春期男女の愛憎劇が繰り広げられているような学校に通うとか、俺だったら絶対に嫌だし。


「お前たち、その、夕食の時間だ」


「はーい、今行くわよ。さ、早く荷物を置いてらっしゃいホーク」


「わかったよママ」


階段の上からパパが声をかけてくる。これだけでもかなり進歩した方なのだ。一時期は本当に酷かったからな。母やマリーを見かける度に、ビクっとして踵を返そうとしていたのも記憶に新しい。


ふたりが過去の遺恨は水に流して、もう一度家族としてやり直しましょう、と手を差し伸べてくれたのだから、どんなに心苦しくともふたりの望むようにしてあげることこそが、パパの贖罪なのだろう。


「今日は学校でどんなことがあったのかしら?」


「なんてことはない、いつも通りの日常ですよ。園芸部員のクラスメイトのお手伝いをしたぐらいです」


「そう、お花を植え替えたりしたのかしら?」


「そうですね、植え替えられそうな植木鉢を眺めたりなど、まあそれなりに意義のある時間でした」


「わたくしも、お花は大好きです!入学したら、園芸部を見学してみようかしら!」


「やめておいた方がいい。お花を育てるために、土弄りをしたりして泥で汚れたり虫がでたり草で手を切ったりもするからな」


「確かにその、わたくしお花は大好きですけれど、虫さんとかはちょっと...」


なんでもないような雑談さえも、母は嬉しそうに聞く。父がいて、母がいて、俺がいて、妹がいて。ローリエらメイドたちが料理を運んできて、護衛の三人は別室で食事中。家族水入らずの団欒を邪魔するわけにはいかないだろうとのことだ。


この家には14年間もなかった、普通の光景。その普通が、何より尊いものであることを、ここにいる全員が知っている。当たり前に家族全員で食事をして、他愛もない話をして、笑いあう。たったそれだけのことに、14年もかかってしまったわけだしな。


一度バラバラになった家族がもう一度組み上がろうとしている今、それを害するような輩は、徹底的に根絶しないといけないなと、俺は新鮮なレモンの輪切りが載ったタルトを齧りながら、その甘酸っぱさと決意を共に噛み締めた。

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