第75話 ドキドキ!放課後は危険がいっぱい!
「殿方の...殿方の生殖器など、水のやりすぎで根腐れした植物のように腐り落ちてしまえばよいのですわ!」
「随分と荒れているな、サニー」
「これが!荒れずに!いられまして!?チェリオ様の、チェリオ様のバカァー!!」
数年ぶりに再会した元婚約者は、やさぐれていた。
「チェリオくん、次はどれを運ぶの?」
「あ、こ、こっちの株を植え替えるんだ!これからの季節は、日当たりの角度が変わるからね」
「そうなんだ!チェリオくんッてすっごく博識だね!」
「そんなことないよ!ほら、園芸部員としては持ってて当たり前の知識だから」
「当たり前に知ってるべきことをちゃんと知ってるってすごいことなんだよ?あたし、孤児院にいた頃は世間のこと、なーんにも知らなかったもん!だから、普通っていうのは普通にすごいってことだと思うな!」
「そ、そうかい?ありがとう、イースさん」
「もう!メアリでいいって言ってるでしょ!」
「じゃ、じゃあその、メアリ」
なるほど、これはやり手だ。男爵家の次男坊であるため色々とコンプレックスを持ち、なおかつ借金持ちの地味な婚約者との真実の愛()に男気を見せたはいいものの、2年も経てばさすがに熱々バカップルぶりも冷めてきた近頃。
急速にとびっきりの美人で明るい元気な平民の女の子が、自分の悩みやコンプレックスなんて吹き飛ばしてしまいそうなぐらいの明るさで優しく親身に接してくれるわけだからな。そりゃ、14歳程度の浮かれポンチボーイにはさぞ劇薬だろう。
「おーいメアリ!ちょっといいか!」
「あ、アルくーん!うん、いいよ!ごめんねチェリオくん!あたし、行かないと!」
「う、うん!忙しいのに手伝ってくれてありがとう、その...メアリ。ま、また手伝いをお願いしちゃってもいいかな?」
「もちろんだよ!チェリオくんのためだったらあたし、頑張っちゃうんだから!」
そう言いつつも、ワイルド系っぽい赤髪の騎士団長息子のところへ駆けていくストロベリーブロンド。いけませんね、これはいけません。サニーの背中からサニーレタスのような色彩のオーラが立ちのぼっております。
「メアリ!あいつと何話してたんだ?」
「園芸部のお手伝いしてただけだよ!」
「そうなのか?最近やけにあいつと仲がよさそうじゃないか。あいつ、婚約者いるんだぜ?」
「知ってるよ?サニーちゃんでしょ?あたし、サニーちゃんとも仲よくなりたいし、3人で一緒に作業しようよって誘ったんだけど、サニーちゃん、ポークくんと楽しそうにお話ししてたから、ふたりで頑張ってたの!」
「そうなのか、まあ、あの地味女、結構陰険なとこあるしな。それにしてもポークか...」
「ポークくんのこと、何か知ってるの?それなら教えてくれたら嬉しいな!メアリ、ポークくんとも仲よくなってあげたいんだ!彼、クラスでなんだか浮いちゃってて、いっつも独りぼっちだし!」
ノーセンキューなんですがそれは。魔道具を使い、ふたりの後を尾行していく。あの赤髪の騎士団長の息子、どこかで見たことあるなと思ったらあれか、昔俺に因縁付けてきやがったけど泣かされて逃げてったあの時のガキか。
14歳になったらますます乙女ゲーの攻略対象みたいなわんこ系イケメンになってやがるな。野郎の顔の造形なんざどうでもいいけど。
「優しいんだな、メアリは!でもごめんな、俺、力になれそうもねえや。あいつ、ただのソックリさんみたいだし」
「ソックリさんって、誰の?」
「ホークだよ。ホーク・ゴルドって奴。今は飛び級で大学に行っちまったんだかなんだかしんねえけどよ、平民のくせに生意気で、チビで、デブで、ほんっと思い出したくもない不愉快な奴だったぜ!あんな奴に係わっちゃダメだぞメアリ!」
「そっかあ。でも、そのホークくんって子のこと、もうちょっと聞かせてくれない?」
「え?そ、それは」
「ダメ?お願い、アルくんだけが頼りなの!お願いお願いお願いッ!」
おねだり攻撃+顔近づけての急接近か。貴族の倅ってことはまだ童貞ってことはさすがにないだろうが、美少女に迫られてドギマギしているのが丸わかりな赤髪野郎は自分の恥ずかしい過去か目の前の女の好感度かどちらを取るかで揺れてる感じ?
「メアリさん。淑女がそのように男性に顔を近づけるものではありませんよ」
「あ、リンくん!ごめんね、あたしったらつい夢中になっちゃって!」
「チッ!余計なこと言うんじゃねえよクソ眼鏡!せっかくいいムードだったのに!」
「僕はただ学生として恥ずべきことのない振る舞いをするよう指摘しただけだ」
リン・ダージ。この国の宮廷魔術師長の息子であり、騎士団長息子のアルとは幼い頃から何かと張り合い続けている水と油の関係、らしい。BL漫画だったら絶対くっついてるな、って思われるような正反対の熱血騎士とクール魔術師が、バチバチと露骨に恋の鞘当てをしている。
なおメアリはふたりの隣でキョトンとしたよくわからなそうな顔をしているが、さすがに無理があるだろ。俺でも演技ってわかるぞ。わかってないのは当人たちふたりだけだろう。恋は盲目とはまさにこのことか。
しかし、なんだな。ほんと笑っちゃうぐらい典型的な乙女ゲームのヒロインちゃんゴッコしてやがんなあいつ。何を考えてあんな真似してるのかはわからんが、確実に何か面倒なことが起きそうなのは確かだ。