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第59話 デウス・エクス・マキナ

(ホークくん...ホークくん...聞こえますか...?今、あなたの脳内に直接語り掛けています...いえ、特に脳内に語り掛ける意味はなくて、普通に喋ればいいんですけど...こっちの方が神様っぽいかなって...どうですか...?)


「とても神様っぽいと思いますよ」


「ほんと?よかったあ!」


虹色に輝くサイケデリックな謎空間。たぶん、精神世界だろうと思しきその場所に、いかにも神様っぽい白い衣に身を包んだ白髪の美少女が天地逆さまにひょいと降ってくる。いや、ここには上も下もない。マジで不思議空間だ。


「えーと、何からお話ししましょうか?」


「まず、俺は元の世界に戻れるんですか?元の世界ってのは日本じゃなくて、ホーク・ゴルドとして8年間生きてきたあの世界に、です」


「もちろん!ここまでやって戻れないとか、読者さんも視聴者さんもみんな激怒しちゃうもの!これ以上View数が減ったら、私の女神としての力にも影響出ちゃいますし!」


「あ、やっぱり神様転生だったんですね。読者ってことはなろうですか?それともラノベアニメ?」


「ごめんね、秘密なの!君にそれ言っちゃうとつまんなくなっちゃうからダメって決まりがあって。だから、教えても大丈夫な範囲で教えてあげるね!」


女神の話によれば、だ。前世で俺が死んだのは、別に神様の手違いとかでもなんでもなく、ほんとにただの交通事故だった。俺を撥ねたスマホ見ながら車運転してたババアが実は女神の化身とか差し金とかそういうのではなく。


で、女神様は、たまたまその日に死んだ魂の中から、適当に俺を選んで異世界転生させた。転生させるなら底辺社畜かいじめられっ子か平凡な男子高校生がよい、という風潮によるもの、だそうだ。


転生させた理由は、日本人を異世界転生させてそれを物語として鑑賞するという遊びが神様の間で流行っていて、色んな異世界転生ものを観ているうちに、自分もやってみたくなったから、らしい。


その辺に関しては、別に恨むところもない。普通に死んであの世に行くはずだった俺に、異世界でちょっとしたボーナスゲームをする猶予をくれたのだ。むしろ、感謝している。


それこそこの世界線みたいに、いきなりどうしようもない詰み状況に放り込むことだってできたはずだ。でも、女神はそれをしなかった。ちゃんと5歳という、更生の余地がある年代に押し込んでくれた。


「君の歩んできた人生の物語、結構評判いいんだよ。ほんとは人気作品みたいにモテモテ美少女ハーレム作ってくれたらいいなぐらいに思ってたのに、君がまさかの女の子嫌いだとは思わないから最初焦っちゃって。でも、ちょっと意外なぐらい人気が出て、ビックリしちゃったもんあたし」


転生ホーク・ゴルドの人生という名の物語を多くの神様たちが観ていて、その評価(View数と呼ぶらしい)によっては女神様の力にボーナスポイントが入ったり、臨時ボーナスが出たりするそうだ。


だから小遣い稼ぎも兼ねて、神様たちは日夜日本人を転生させているのだとかなんとか。


「でもまさか、こんな形で勝手にIFの世界、というか、君を転生させなかった世界線に飛び出してっちゃった時は焦ったなあ。すぐに助けてあげたかったんだけど、ほら、この世界にはあたしが布いたルールがあるからね。そのルールをあたし自身が破っちゃうわけにはいかなかったの」


女神は、ヴァンが11人の少女たち+女神教の実状を知るあの緑髪の幼女全員と恋愛関係になった上で、全員が力を合わせ降臨の儀式をすることでしかこの世界に顕現できないのだという。最後にヴァンたちが協力して俺を止めるために女神を呼び出したアレだ。


「結構焦ったわよ。ハインツとか、君のパパとか。どうせ美少女じゃないサブキャラなんか死んだって誰も気にしないだろうなーと思ってたのに、予想外に反響があってね?しかも、ストレスフリーな主人公最強ものの俺TUEEE無双に慣れてる神様たちは、結構な数離れてっちゃって」


それはわかる。俺も、主人公が苦戦したり手こずったり失敗したりする展開は、正直好きじゃないからだ。ストレス解消や現実逃避のために頭空っぽにしてエンタメ作品を楽しみたいのに、そこでまで都合の悪い現実なんて見せられたくない。


主人公が敵に勝てなくて仲間がひとり主人公を庇って犠牲になって死にました。はークソザコすぎ。感動ポルノ乙。キャラの死でしか感動を表現できないバカのひとつ覚えのワンパ作者はマジクソ(個人の感想です)。


こんなストレス溜まる展開ならなろうのチーレム作品の方が100倍マシだわ、って思っちゃう感情は、さほど珍しいものじゃないと思う。


可愛がっていた子猫を面白半分に靴で踏み潰されて殺された少女が後々主人公に敵討ちをしてもらう王道の少年漫画的な話と、可愛がっている子猫を面白半分に靴で踏み潰されて殺されそうになったところに颯爽と主人公が現れて子猫の命と少女の心を救ってくれる都合のいい話。


どっちが読みたい?って言われたら、俺だったら後者を選ぶね。


カタルシスを得るために必要なストレス。仲間の仇を取った瞬間のスカっと感のために、仲間をひとり犠牲にして主人公が泣き叫び慟哭し、敵が大笑いするというムカつく展開を強いられるぐらいならば。最初っから敵に勝って仲間の命を救ってくれる物語の方が、ずっとマシなのだと。


都合がよくて、誰もが主人公に優しくて、みんなが主人公のこと大好きで、全能感に浸れて、嫌な奴はボロクソざまあして、スカっとして、何の努力も苦労もなく最強の大金持ちになって、チヤホヤされて、何もかもが自分の思うがままになって。


そんな都合のいい現実逃避を楽しむための物語に、ストレスなんてあってはならない。リアリティとか、現実的に考えてどうこうなんてものは、現実だけで十分だ。都合の悪い現実をしばし忘れるために現実逃避しに来ているのだから、そこで供されるものはご都合主義上等なわけだ。


「まあ、意外なことに、そんな君が苦悩したり思い悩んだりしながら成長していく姿がいいって言ってくれる神様たちも結構な数いてね?だから君には、早いところ元の世界に戻ってもらいたかった、っていうのはほんと」


次第に世界の色彩が揺らぎ始め、サイケデリックだった虹色の輝きが、徐々に古いセル画アニメのように色褪せていく。どうやら、元の世界に戻る時が近づいているらしい。


「女神様、ひとつだけ訊いていいですか?」


「なあに?」


「戦争は、本当に起こるんでしょうか?王国と帝国の間で」


「ごめんね、それは私にもわかりません。私が設定したのはあくまで『ヴァンくんたちが卒業するまで』のことだけなの。そこから先何が起こるかまでは、私にも予測がつかないから」


「それはつまり、未来までは定められていない?」


「そうね。少なくとも、ヴァンくんたちが卒業するまでの流れは大まかに定まっているけれど、でも、あなたというイレギュラーがそれを変えてしまった。バタフライエフェクトどころの騒ぎじゃないわ。『未来は既に変わっている』」


女神様が、ぎゅっと俺にハグをした。


「頑張ってね!ホークくん!これでも私、君のこと結構応援してるんだから!元の世界ではハインツが生きているからあたしはもう世界観の設定的に降臨できないだろうけど、それでもあなたの物語をずっと見守って、応援してる!」


「そういえば、結構師匠に酷い仕打ちしたんでしたねあなた」


「それは誤解です!!あたし別に、あの子たちを絶滅させるつもりなんてなかったですよ?ただ命懸けで襲ってくるから、しょうがなく仕事をするために撃退してるうちに、勝手に数を減らしていっただけで。...なんで神風特攻してくるのかわからなくて、勝手に死んでいくから理解できなくて本当に怖かったわ...」


「では女神教というのは?」


「仕事が終わったあたしが世界を去った後で、残った人間たちが勝手に作り上げたものですから、あたしは完全ノータッチなんですよね...」


どうやら、ほんとにただ事務的に神様としてのお仕事をこの世界でしただけのようだ。嘘を吐いている可能性もあるが、それを見破る術は俺にはない。うっかり女神の心の中や記憶なんか覗いたら、とんでもないことになりそうだし。


「じゃあ、師匠にNDKはしなかったんです?」


「しませんって!いくらなんでも、そこまで悪趣味じゃないですよう!?」


『まあ、さすがに絶滅させるのは可哀想ですから、その卵に免じてあなたのことは見逃してあげましょう。ねえねえ、何も守れなかった挙げ句自分の孫娘を孕ませなければ竜が絶滅してしまうのってどんなお気持ち?ねえどんなお気持ち?』


が、実際には


『お願いだからあたしに神風特攻してこないでください!!え?何その卵!ひょっとしてそれをあたしにぶつけてあてつけがましく自殺するつもりなの!?ちょっとやめてくださいよ!!やめてってば!!あ、よかった去ってくれて。ほんと、竜ってなんでみんなあんな覚悟ガンギマリなの!?超怖いんですけど!』


だったわけだな。本当かどうかは定かではないが。師匠にも女神にもそれぞれに言い分がありそれぞれの受け取り方があって。かつて女神と竜はこの世界の支配権を賭けて争った。それに勝利した女神はこの世界を無事予定通りに設計し、仕事を終え去っていった。それだけは真実ってわけだ。


まあ、数千年も前の出来事だしな。当時の女神教の人間が何をどう綴ったものが伝わってきているのかは知らないが、数千年も経てば色々変化したり失伝したりしたものもあるのだろう。


「さようなら、ホークくん。ああそうだ、最後に」


チュ、っと女神様がほっぺにキスしてこようとしたので、すかさず彼女の唇と俺の頬の間に素早く手の平を差し込んで手の甲でブロック!


「ちょっとお!?なんで避けるんですかあ!?」


「いやだって、好きでもない異性からキスされたら嫌じゃないです?それに唇が触れた拍子に唾液とか付着しちゃったら気持ち悪くないですか?」


「そうでしたね、君はそういう子でしたね。はあ...男の子なら普通は照れたり、役得とか喜んでくれたりするものでしょうに」


「それは誤解です。ただしイケメンに限る、なんてのは童貞の気持ち悪い妄想でしかないんですよ?どんなイケメンだって、恋人でもない相手から一方的にキスされそうになったらただただ気持ち悪いだけですからね??」


「...あたし、実は男子高校生と間違えて女子高生の魂を選んじゃったりしてませんよね?大丈夫ですよね?」


例えば朝、電車の中でいきなり隣の席に座ってた綺麗なお姉さんがいきなり君の頬にキスしてきたとしよう。どうだ、嬉しいか男性諸君?俺は嬉しさよりも先に、え?いきなり何こいつ?怖いんですけど?って気持ち悪さを感じてしまうぞ?


「はあ、いえ、もういいです。君の女嫌いが筋金入りだってことはよおっくわかりましたから」


「まあでも、女神様のことは今回かなり見直しましたよ。前ほど嫌いじゃないですよ?あ、好きでもないですけど!」


若干引き攣った顔の女神様が、さっさと失せな!と言わんばかりにクイっと立てた親指で明後日の方向を指し示す。


「今のキスは、君をこの世界に転生させた時、何分初めてのことでしたからうっかり与えてあげるの忘れてたいわゆる転生特典のチートです。大事に使ってくださいね!あと、返してもらいたくなる前に早く行く!」


「サー!イエッサー!」


そうして夢から覚めるみたいに、俺の意識は浮上していく。

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