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第48話 寝取られ子豚と婚約破棄(する側)

これにて4章完結となります

「サニー・ゴールドバーグ!貴様との婚約を破棄する!」


すげえ!俺今最高になろうに出てくる1万文字以内ぐらいでサクっとざまあされる用のバカ婚約者してる!まるで乙女ゲームの世界に入ったみたい!いや、乙女ゲームの世界に肥満児は存在できないのだが。ほら、美男美女しか描けないイラストレータさんたちはその、画力が、ね?


少女漫画にありがちなブス(可愛い)、シワだけ不自然に書き足されたジジババ、親子もののBL漫画でどっちが父親でどっちが息子なのかまるで区別がつかない表紙などなど、『美しいものしか出ちゃダメ』な世界にホーク・ゴルドの居場所はないのだ。


もしここが少女漫画の世界だったならば、ホーク・ゴルドはチビで小太りの金髪子豚(ただし髪はサラサラだし顔立ちもイケメン)という、設定だけのチンチクリンのブスめいた外見をしていたことだろう。だが鏡に映る俺の姿は洋画に登場する食い意地の張った頭の悪そうなデブガキ。


ほら、キャンディとかチョコレートしゃぶりながら、主人公が子供ならイジメたり大人なら嫌味を言ったりしつつヘイトを集め、最後は怪物とか悪人に襲われるなりなんなりして『わあー!?パパ!ママー!助けてー!』とか棒読みで叫びながら逃げていく感じの、いかにもなクソガキって感じのぽっちゃりデブ。


「貴様のような貧乏男爵家の冴えない何の取り柄もない平凡で泥臭いブスは美しい僕ちんには不釣り合いなんでしゅ!だからお前なんかとは結婚してやんないブヒ!!」


学院のお昼休み。大学部から初等部まで大勢の生徒たちが食事をしている大食堂で、存在感を消すための闇の魔道具もつけずに大声でこんな話をしているせいで、周囲からの注目はどえらいことになっている。


裏事情を知っているローザやピクルス王子なんかも、あまりの俺の熱演っぷりに顔を引き攣らせていた。あれだな、共感性羞恥心とか抱いてる系の人には見ていて非常に辛い場面になってるんだろうな今。


さて、一体どうしてこうなったのか。話は前回、学院の正門前でサニーに待ち伏せされていたところまで遡る。


ザックリ言うと、サニーはシルバーバック男爵家の次男坊、チェリオ・シルバーバックのことを好きになってしまったから婚約を解消したいそうだ。なんでも俺との関係に苦悩している時に園芸部で出会って仲よくなった彼に色々なことを相談しているうちに、いい仲になったらしい。


あれだな。『あたしの彼、最近なんだか冷たいの』と男友達に相談しているうちに『俺なら君を悲しませたりはしないのに...なんてな』とかなんとか軽いノリでベッドインしちゃって、『あんな奴より優しくてあたしの気持ちわかってくれる彼の方が』となる女子大生みたいな展開があったわけだな。


別段それ自体は問題ない。釣った魚に餌をやらなきゃ餓死する。相手は生きた人間で、いつまでも自分に振り向かない男よりも、自分に優しくしてくれた男を好きになるのは当然の権利だ。その点に関して、俺に文句を言う資格はない。


でだ。問題は俺たちの婚約が政略結婚であるということだ。財政難で傾きかけの男爵家は俺を婿に迎える代わりにゴルド商会から多額の融資を受け取っている。それが肝心要の娘の『お父様!わたくし真実の愛に目覚めましたわ!』で一方的にご破算にしたら、そりゃ金返せって話になるだろう。


個人的には凄く応援してやりたい。むしろ、超絶大賛成している。


12歳というのはこの世界における少女期の終わりのようなものだ。貴族の女性は大体中等部を卒業後13歳になったらさっさと結婚してしまうのが一般的だし、平民の間でもまあ13歳から16歳ぐらいまでが結婚適齢期扱いされている世界だ。


そんな世界でもしズルズルと結婚を先延ばしにされた挙げ句十代後半にもなってから婚約破棄されたら行き遅れとか傷物とかメチャクチャ噂されるだろうし、そうでなくとも爵位を金で売り飛ばしたと悪評の広まったゴールドバーグ男爵家の娘である彼女には俺以外の結婚相手なんて望むべくもない。


俺は好きでもない女と結婚しなくて済むし、ふたりは好き合った者同士で結婚できるし、シルバーバック男爵家は最悪、次男を勘当してしまえば被害は及ばない。


問題はシルバーバック男爵家から切り捨てられた場合、ゴールドバーグ男爵家はゴルド商会への返金と損害賠償で破産待ったなしなわけだが、その辺りどう考えてるんかね?


『彼女は僕が幸せにします。もし互いの家が障害になるというのなら、駆け落ちして、何者でもないただのチェリオとサニーになって、ふたりだけでどこか遠い場所でふたりだけで生きていきます』


なんというか、若いなあ。世間知らずのボンボンが恋に浮かれて自分に酔ってる感が強いぞ。サニーもなんか『チェリオ様!』とかトゥンクしちゃってる感じだし。世間知らずの貴族のお子様方は、金の重みというものをまるで理解なさっていらっしゃらない。それを稼ぐことの大変さもだ。できるんか?お前たちに接客業や肉体労働が。前世軽い気持ちでコンビニでバイトしようとして地獄を味わわされた俺が言えた義理じゃないが、金を稼ぐってのはクッソ大変なことなんだぞ??


正直、この手の恋愛感情を免罪符にさえすれば何をやっても許されると勘違いしている脳味噌スイーツ一色な恋愛脳のバカどもには嫌悪感しか湧かない俺だが、冷静に考えればこれは好きでもない婚約者を押しつけてしたくもない結婚から逃げる絶好の大チャンス。逃すわけにはいかない。


最悪借金踏み倒して逃げ出すつもりのクソガキバカップルどもは後々生活苦に陥った時に『あいつは彼女を奪われた逆恨みでわざと僕たちを苦しめているんだ!酷い!許せない!それでも人間か!』などと言い出しかねないので、キッチリ誓約書を書かせておいた。


ほら、女神教のお偉いさんのガメツ爺さんに使ったのと同じ奴。誓約により今後このふたりは、もし俺やゴルド商会に刃を向けようとしたらその瞬間、脳味噌がパーンと破裂するようになっている。後はワープ魔法で自動的に転送されてきた死体から臓器をばらしてそれを借金返済にあてるわけだ。


最初はふたり揃ってゴネていたが、貴族の子供としてケジメを付けろクソガキどもと少し威圧したら渋々納得したようだ。なんというかあれだね、金持ちになって初めてどっかのエンペラブな会社の会長さんのお気持ちが理解できるね。


金を借りておきながら返せないからって逆恨みしたり、踏み倒して逃げようとしたり、自分たちは被害者でこっちが加害者だって決めつけて可哀想な自分たちによって自己を正当化するような連中は、クソだね。


このふたりがそうだと決めつけるわけではないが、真実の愛(笑)のためならどれだけ他人に迷惑をかけてもいいと思ってる男女は死んでいいと思うの僕。ゴルド商会にも、ゴールドバーグ家にも、シルバーバック家にも、そこで生きる全ての人たちに大迷惑をかけてでもふたりが結婚したいと言い張るのなら。それ相応の、誠意は見せて然るべきだ。


「今日から僕ちんとお前は赤の他人でしゅ!二度とその辛気臭い陰気な面僕ちんの前に出すんじゃないブヒよ!ブヒョヒョヒョヒョ!」


さて、劇団ゴルドによる即興芝居もこれにておしまいだ。初等部から大学部まで大勢の生徒たちが見ている前で行われた白昼の婚約破棄は、速攻で王国中に広まるだろう。


一応、男爵家の側には何の落ち度もないゴルド家側からの一方的な婚約破棄ということにしつつ、パパとゴールドバーグ男爵、シルバーバック男爵の間では既にキッチリ話が付いているため、お金に関しては問題ない。


どうせ払えもしない相手に賠償金を請求したところでにっちもさっちもいかなくなって首でも括られるのがオチだ。だったら返せない金額を押しつけて破産されるよりも、ギリギリ返せる金額をきっちり回収した方が結果的にこちらが得るものは多くなる。


そんなわけで俺の一存により特別に温情を見せたということで賠償金はなしで、結納金のみ返済。今後の両家への融資・援助は一切しないものとし、ゴールドバーグ男爵家がゴルド商会から借りている多額の借金はシルバーバック男爵家と共同で返済することになったわけだ。


これにより両男爵家は賠償金をチャラにしてもらったという恩義と、それでもまだ借金が残っているという引け目と、これ以上醜聞を世間にさらすわけにはいかないという弱みをまとめて俺に握られることになったわけで、結果として男爵家ひとつに婿入りするよりもはるかに多くの見返りを得られたわけで、これはこれでなかなか悪くない結果だと思う。


しかし息子想いのお父さんを持って幸せ者だね?チェリオくん。正直、今回の取引で一番大損こいたのがシルバーバック男爵家だからな。莫大な借金を抱えた女を次男が嫁にもらってくるとか、個人的には可哀想にとしか言えないが、息子の監督不行き届きということで、甘やかしたツケと思い頑張って頂きたい。


「本当にこれでよかったのかい?ホークちゃん」


「うん。ごめんねパパ。自分が貴族になれないなら、僕を貴族にしたいってパパの夢、台なしにしちゃって」


ガラガラと馬車に揺られ、夕暮れの王都を俺たち親子が行く。今回一番瑕がついたのは俺の名誉だが、そんなものは最初っから地に落ちているどころか半分泥に埋まっているようなものなので何ら問題はない。


だから、今回の婚約破棄で息子を貴族に!という夢が破れる形になってしまった父上には、申し訳ない気持ちで一杯だ。


「いいんだよ、パパはね、ホークちゃんの幸せを一番に願ってるんだから!ホークちゃんが貴族になりたくないって言うならならなくていいし、結婚したくないって言うなら一生しなくたっていいんだよ!」


それにね、と父上は馬車の窓から差し込む夕日に照らされ、ギラギラと脂ぎった黒豚のような顔に笑顔を浮かべ俺の肩を抱き寄せる。


「ホークちゃんのお陰で、うちは公爵家とか王家とか、そういったこの国の天辺に居座ってる連中の御用達になったでしょ?それに比べれば男爵家なんてあまりにもちっぽけなものだって、最近気づいたんだ」


何この綺麗なイーグル・ゴルド。大丈夫?パパも頭でも打って前世の記憶に目覚めたりでもした?と疑いたくなるような変貌ぶりだ。七年前とは比べものにならないが、それはパパに限った話じゃないか。誰も彼もがこの七年という歳月の中で変わったのだ。俺もそうだ。


「不思議だよね。男爵家でもいいからせめて!ってあんなに見上げて欲しがってたはずのものなのに、今は足元に転がってるそれには全然興味がないんだもん。ありがとうホークちゃん!ホークちゃんはやっぱり、パパの一番の、自慢の宝物さ!」


抱き締められ、その体温の高さとどぎつい香水の香りにしかし、知らず涙がこぼれる。前世、俺は父さんにも母さんにも何ひとつ親孝行も恩返しもできないままに、高校生の身空で死んでしまった。


ふたりは、元気にやっているだろうか。息子を亡くして、立ち直れただろうか。ああ、ごめん。ふたりを遺して先に死んじゃって、ごめん。ボロボロ涙をこぼし始めた俺を、今生の父が強く抱き締めてくれる。俺はこの人に、一体何を返せるだろう?


いいや、きっと、きっと。返されることなど期待せず、望まず。ただ父親として惜しみない愛情を息子に注ぐこの人に、俺は恩返しを、親孝行をしてやりたいと、そう思った。

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