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第424話 二日酔いにご用心

「飲みすぎちゃってえ、頭痛くなっちゃってえ、気持ち悪くなっちゃってえ」


「やれやれ。大丈夫ですかホークくん」


「知ってるかクソガキ。酒は体に悪いんだよ」


「酒は飲んでも呑まれるな。まだまだ修行が足りませんぞ主殿」


 調子に乗って毎日バカバカとデザートワインや甘ったるいカクテルを飲みまくっていたら、胃もたれと体重の増加と二日酔いに見舞われ悲鳴を上げてしまった俺は、オークウッド博士に泣き付いて二日酔いによく効く薬を調合してもらった。飲めば一発で二日酔いと胃もたれを治してくれる優れモノだ。その分代償というか結構重めの副作用があるのだが、無視できるレベルなので問題ない。さっすが天災博士、いざって時は頼りになるう!


 お酒はね、本当にね。毎日飲みすぎるのはやめようね。少量舐める程度に楽しむならいいけど、ガバガバ飲みすぎると肝臓や胃や血管に負担がかかりすぎるからね。それに糖質が過分に含まれてるからメチャクチャ太る。肥満児だった俺の比じゃないぐらい体重が軽々と増加していく恐怖よ。さすがに自重しようと思ったね。


「フフ。甘いお酒が好きなら次は我輩の大好物、蜂蜜酒(ミード)なんてどうですか。そのまま飲んでよし、牛乳や炭酸水で割ってよし、アイスにかけてよしの万能の飲み物ですよ」


「蜂蜜のお酒なんてあるんだ。梅酒に蜂蜜入ってるぐらいのもんかと思ってたけど」


「蜂蜜酒はブドウ酒よりも歴史があるんですよ」


 博士いわく、雨の日に水たまりに落ちた蜂の巣が原因でできたのが人類最古の蜂蜜酒の起源であるとかなんとか。蜂蜜大好き熊さんのオークウッド博士だから、そりゃあ蜂蜜のお酒があれば好んで飲むよね。俺も蜂蜜は好きだけど、蜂蜜のお酒は知らなかった。蜂蜜酒のお湯割りを片手に微笑む博士に一口味見させてもらう。うん、甘くて美味い。けど蜂蜜なだけあってムチャクチャ太りそうな味。こいつはワイン以上に飲みすぎ厳禁ですわ。パパが今度は世界中から蜂蜜酒を買い集めたら我が家が酒蔵になっちゃう。というか、俺のための酒蔵を建てるとか言い出しかねないもん。マイブームってのは一過性の熱が冷めた後に途方に暮れるのがお約束だからね。末永く楽しむためには相応の節度が必要じゃい。


「それにしても、まさかテメエが酒を飲むようになる日が来るとは。歳は取りたくねえな」


「あれからもう10年ぐらい経つんですもんね」


 下町の隠れ家的地下酒場。女神教の支部長であるガメツの爺さんがコッソリ通っている秘密の店で高級ウイスキーをロックで飲みながら、下品なゲップを響かせる。かつて学生時代、幾度となくガメツの爺さんとはこの酒場で密会して大っぴらにできないような内容の密談を交わしたものだ。今となっては何もかも皆懐かしい。


「とりあえず、二日酔いによく効く血中アルコール濃度や血糖値の上昇を抑える薬を2週間分用意しました。ですが、だからといって飲みすぎは禁物ですよ? ホークくん。ゴーツク様の仰るように、お酒は体に悪いですから。コロコロと珠のようなホークくんは可愛らしいですが、肥満体は糖尿病や肝臓病と隣り合わせですので」


「はい。身に沁みてよくわかりました。自重します」


「おい、俺にもその薬を寄越せ」


「はいはい。次からは有料ですからね」


 俺はお酒はさすがにやめて、氷水を。博士は蜂蜜酒のお湯割りのおかわりを。ガメツの爺さんはブランデーのロックを。俺の護衛として来ているカガチヒコ先生は凍らせて削ったフローズンジャパゾン酒をそれぞれ飲みながら、香辛料たっぷりのうま辛肉料理に舌鼓を打つ。夏はスパイシーな料理が食べたくなるけど、辛いもの食べた後にお酒飲むと味が変わっちゃうから俺はあんま辛いものとお酒の組み合わせは好きじゃないのだ。年波のせいか、最近老眼鏡をかけるようになった博士は酩酊状態でニコニコ笑顔。


「ホーク! 大きくなったな! 前後左右に!」


「うわ!?」


 椅子に座っていたのにいきなり背後から両脇の下に手を入れて抱き上げられ、俺は悲鳴を上げてしまった。誰かと思えばハインツ師匠だ。身長3メートルの師匠からすれば、身長1メートルきっかりだった俺も男の子大好き女神の永遠に可愛い男のままでいての祝福(じゅばく)から解放されて180センチになった俺もあまり変わらないのだろう。


「あんなに小さかったそなたがこんなにも大きくなって! じいじは嬉しいぞ!」


「お願いですからおろしてくださいよ!」


「そなたの体積は増えれば増えるほどお得だからな!」


「誰が得するんですか!?」


 子供形態ならともかく大人状態で持ち上げられるとさすがに恥ずかしい。だが巨躯の巨漢の黄金竜人相手に敵うはずもなく、俺は諦めてポン! と音を立てて子供形態に変化した。子供形態なら抱き上げられていても違和感ないからね。急激に体積が減って手の中から滑り落ちそうになった俺を師匠は冷静にキャッチする。


「大人だろうがガキだろうが中身が一緒なら恥ずかしいことには変わりはねえんじゃねえのか?」


「そこは気分の問題ですから!」


 ガメツの爺さんにからかわれながら、椅子におろされた俺は氷水のグラスに手を伸ばすハインツ師匠は全然気にしていないようだが、俺が気にするんですよ!


「それにしても、なんで師匠までこの店に?」


「ここは酒も料理も美味いからな。静かで落ち着いたいい店だから、よく来るのだ」


 どうやら俺の知らん間に師匠や博士、ガメツの爺さんは常連同士飲み仲間になっていたらしい。なんとも加齢臭漂う面子だが、師匠や博士が話題豊富なお喋りなので会話が弾むのだろう。ガメツの爺さんはうるさいのを嫌うが、相手が相手なだけに仲よくしておいて損はないと打算的な気持ちもあるのかもしれない。


「休肝日も重要ではあるが、我とも酌み交わしてくれるのであろう?」


「そりゃあ、師匠にそう言われたら弟子は喜んでお付き合いしますよ」


「うむうむ。よき弟子を持って我は幸せだ」


 こうして次々と飲み会の約束が増えていく。嬉しい悲鳴ではあるのだけれど。しばらく俺からの贈答品はワインになりそうだ。学園長とかピクルス様夫妻とか、付き合いのある相手はいくらでもいる。美味しいものは人にお裾分けしたくなるからね。自分が見付けた美味しいものを独占したくなるのも、みんなに教えたくなるのも、どちらも人間らしい振る舞いだ。とはいえそれもいつまで長続きするかはわからない。マイブームというのはいつか終わるものだ。とはいえ終わったら二度と飲まなくなるわけじゃない。熱が冷めても趣味は残る。そんな風に多くのまだ知らなかった世界の扉を開き、新たな知識を得て、周囲の仲間と一緒にそれを楽しむ。そんな風にして沢山の楽しみに出会えたらいいなと、俺は思うのだ。

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