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第413話 続・みんなに会いに行ってみた

「誰だテメエ」


「やだなあ、俺ですよ俺」


「知るかボケ。あまりの暑苦しさに飯が不味くなるからとっとと失せやがれってんだ」


「本気で判らないってことはないですよね?」


「解りたくねえんだよ!」


「よかった。遂にボケ始めたのかと」


「ぶっ飛ばすぞクソガキ! いやクソデブ!」


 ガメツの爺さんは愛想が悪くなった感じがする。あれか? 子供相手だから態度が丸かったけど、一気に大人になってしまったから硬化したのか? ゼト様が大人の美女だけでなく子犬や美少女の姿を状況に応じて使い分けているあたり、やっぱり見た目がいたいけな子供だってのは色んな意味で強いのかもしれないね。


「つれないなあ」


「釣られてたまるか」


 シュルシュルシュル、と目の前で縮んで見せても、露骨に顰められた顔は元には戻らない。


「はい、いつもの可愛いホークちゃんですよ」


「ほざきやがれ」


「相変わらず口が悪いなあ」


「誰のせいだ、誰の」


 ホワワワワーン、と再び大人に戻って、テーブルを挟んで彼の対面の椅子に座る。


「ま、あなたに面白リアクションは期待してなかったからいいんですけどね別に」


「そうかよ。気が済んだのならとっとと帰りやがれ。むさ苦しいデブを見ながら飯を食うと不味くなるだろうが」


「むさ苦しいデブの爺さんにそんなこと言われてもなあ。あ、同族嫌悪って奴?」


 うーん、塩対応である。でもやっつけ感の漂ういつもの塩梅が今は逆に心地よい。濃い面子に会ってきた後だから特に。


「……おい」


「なんですか?」


「……よかったじゃねえか、元に戻れてよ」


 そっぽを向きながらタコの唐揚げをかじりつつ、悪態を吐くガメツの爺さん。皮肉なのかそうでないのか。そういうところだぞ!



「というわけで、体が実年齢相応になりました」


「それはそれは。よかったのう」


「はい。ようやく万年おチビちゃん状態から解放されましたよ」


 入学式も終わり、新入生たちの初々しい賑々しさがそこかしこで響き渡る王立学院、学院長室。俺の行きつけのお店の新作マカロン(売り切れ続出の大人気限定商品だ)を手土産に遊びに来た俺を、学院長はコッソリ学院長室に招き入れてくれた。涙涙の卒業式からまだ1か月程度しか経ってないのに、あまりにも早すぎるOBの襲来である。


「あの姿もあれはあれで可愛かっただけに、惜しいのう」


「まあ、戻ろうと思えばいつでも戻れるんですが」


「とはいえ、やりすぎると危険じゃぞ? ただでさえそなたは子供の体に閉じ込められていた期間が長い故、その影響か精神面でも未だに幼い面が見受けられるからのう」


「解ってますよ、俺が甘ったれのガキだってことぐらい。今後のことを思えば、少しずつでもいいからはよ大人になっていかないといけませんからね」


「うむ、その通りじゃ。じゃが、それを寂しいと感じてしまうのもまた事実。特にそなたは子豚部のマスコットじゃったからのう。ピクルス様やローザ様も、さぞ驚くじゃろうて」


 学院内では王族も貴族もなく皆平等に学徒扱いだが、卒業してしまったからにはもうあのふたりも王子様とその婚約者様である。テーブルの上に並べられた色取り取りのマカロン。普通のマカロンと違って間に果肉たっぷりのジャムも挟んであるそれは、真っ赤なラズベリーに紫のブルーベリー、緑のメロン、黄色はマンゴーなど、いずれも美味しくて俺のお気に入りの逸品だ。


「そういやあのおふたりの結婚式にはあなたも招待されていたんでしたね」


「フフ。成長したそなたを見て驚くあのふたりの顔は見物じゃわい」


「相変わらず茶目っ気たっぷりですねあなたは。そこがいいところでもありますが」


「ホッホ、そうじゃろそうじゃろ?」


 学院長が淹れてくれたお茶を飲みながら、俺は学院長室の窓から吹き込む初夏の風を楽しむ。ちょうど休み時間になったためか、チャイムが鳴り終わると同時に外からは青春を謳歌する学生たちの賑やかな声が聞こえてきた。ああ平和だ。この平和がいつまでも続けばよいのだが。



「ヘイ、シェリー。女神の力はどうなってる?」


「何も変わりはありません。今まで通り女神スマホも繋がりますでしょう。が、これ以上機能が追加されることは、恐らくないかと」


「バージョンアップデート終了のお報せって奴か」


「はい。彼女は確かに上位存在たる女神ではありますが、万能ではありません。或いは故にこそ、独立した世界への干渉は今後極力控えるものかと」


 ようやく挨拶回りが終わったため、帰宅した俺は自宅のベッドに寝転がり、女神スマホの中のシェリーと駄弁っていた。マイクロマシンによる義体、画面内の3D/2D切り換え自在なアバターを操る彼は、最近Vtuberめいた2.5Dの姿を取る機会が増えていた。どこかで配信者デビューでもしたのだろうか。是非ともゴルド商会の宣伝を頼みたい所存である。


「しっかし神様ってのはどいつもこいつもみんな気まぐれだね。そのお陰で今ここにこうしていられる俺は文句を言えた義理じゃないけどさ。もしまた別の神様が余計な横槍入れてきたらどうすりゃいいんだか」


「フフ。ただびとの身でありながら神殺しに手が届くまでに己を鍛え上げ、みがき抜くのもまた人類の偉業の一環でございますよ、坊ちゃま」


「もっと強くなれ、と?」


「女神の寵児であったあなた様であれば、それも可能ではないかと愚考致します」


「であった、ね」


 あのショ〇コン女神には色々迷惑をかけられたり振り回されたりしたけれど、俺をこの世界に転生させてくれたのは紛れもなく彼女のお陰なので、今となってはあの鬱陶しさすら愛嬌に思えるから不思議。


「頑張りなさい、って言われたよ」


「それは、素敵な励ましのお言葉ですね」


「うん、そうだね」


 頑張れば頑張った分だけ結果が出る。努力が必ず報われる。今までの俺はそうだった。でも、これからはそうじゃなくなるのかもしれない。いつまでも女神の加護によるチート補正は長続きしないのかもしれない。


 それでも。いつかは壁にぶち当たる日が来るとしても、だからといって頑張ることをやめてしまったら、その壁にすら到達できないのだろう。


 それじゃあ、頑張れるとこまでは頑張ってみるか、という気持ちになるから不思議だ。俺ってこんなに前向きな人間だったっけ?


「失礼します」


「どうぞ」


 コンコン、と部屋のドアがノックされたので、俺は思考を中断して起き上がる。入ってきたのはローリエだった。そうか、そろそろお茶の時間か。淹れたてのハーブティーに、俺の好きなクルミがたっぷり入ったスコーン。料理長のMrs.ベイリーフお手製の世界一濃厚なクロテッドクリームはコッテリたっぷり大量の瓶詰状態だ。


「お疲れ様でございました」


「うん、楽しかったけど疲れたよ」


 ヴァスコーダガマ王国に行ったついでにマリーたちにも会ってきたり、その足でマーマイト帝国に立ち寄ったついでにパストラミ社にも顔を出して大騒ぎされたり。見えないところで色々あったのだ。そんな疲労感を吹き飛ばしてくれるインパクト抜群のハーブティーを一口すする。うーん不味い。この、何が美味しいのかまるで分からない変な酸味や芳香剤を鼻の穴に詰め込まれたかのような強烈な激臭こそが謎ハーブティーの醍醐味だよね。もちろん普通の美味しいハーブティーも好きだけど、全然美味しくない雑草めいた謎ハーブティーも好きだよ俺。


「君も座れば?」


「ですが」


「誰もいないし、平気平気」


「では、失礼して少しだけ」


 テーブルを挟んでローリエと向かい合う。自宅でのんびり3時のお茶を楽しむのは久しぶりだ。窓からは春の日差しが差し込み、大きな事件もなければ特段憂いもない。平和で穏やかな午後のひと時。うん、いいね。俺の日常はこうでなくちゃ。


「おっと」


「失礼しました」


「俺の方こそごめん」


 体の急成長に伴い、指の太さや長さが以前の倍以上になったため、今までとは勝手が異なる。スコーンを取るために伸ばした手が同じタイミングで手を伸ばしてきたローリエの手と重なってしまい、俺はスコーンを取る彼女の手を取る形になってしまった。以前は見上げるばかりの彼女であったが、成長した今となってはむしろ俺よりも低く痩せているためなんだか違和感があった。でも、その違和感もいずれ薄れていくのだろう。


「この体には、まだ慣れないね」


「わたくしも、まだ慣れません」


「はは。そのうち順応していくさ、お互いにね」


 人は変わりゆく生き物だ。人に限らずこの世の全ては諸行無常。未来永劫変わらないものなんてない。だからそうやってちょっとずつちょっとずつ、変わりゆく自分や周囲の環境に慣れていけばいい。そうして今この瞬間を懐かしむ日が来る時まで、俺は俺らしく生きていけたらいいなと思うのだ。

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