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第411話 大人ホークちゃん参上!

「や、お待たせみんな」


「いっ!? 坊ちゃん!? ですよね!?」


「その姿は一体……!」


「ダハハハハ! スゲエ肥えやがったなオイ!」


 まだまだ夜通し続くであろう卒業パーティーを一足先に抜け出し、王立学院の駐車場に停められた馬車で待つみんなの元に戻ってきた俺は、バージル、オリーヴ、クレソンの3人から奇異の目で見られる羽目になった。


 驚きを露わにしながらも俺であると見抜くバージル。基本ホークちゃん全肯定マンである彼にしては珍しく絶句しているオリーヴ。ひたすら爆笑しているクレソン。女神の呪いが解け、身長180cmちょい、体重100kgオーバーの巨漢デブに成長した俺を見た3人が3人ともいいリアクションをしてくれるのは助かるね。


「高校卒業をきっかけに女神の呪いが解けて、これまで抑圧されていた成長が一気に来たみたい。バージルよりも背が高くなっちゃったね」


「ははあ、こいつはまた随分と」


 バージルの身長が170ぐらい。オリーヴが180前後、クレソンが240ちょいだ。今の俺はオリーヴと同じぐらいの背丈になったのだが、横幅の広さは彼の倍ぐらいある。お腹に限ればもっとかもしれない。相対的に前後2倍左右2倍で4倍ぐらいか。いやさすがにそこまで酷くはないが!


 サンタクロース顔負けのむちむちまん丸お腹はヴァスコーダガマ王国に行けばそのまま絶世の美男子になって傾国の男になれるに違いない。うぬぼれではなく冗談抜きで。


「坊ちゃんにはいつまでも小さいままでいてほしかった俺の心境はともかく、よかった、と言うべきなのだろうな。おめでとう坊ちゃん」


「素直な発言をありがとう、でいいのかなその反応。変化が急すぎて自分でも反応に困るのは確かなんだけどね」


 今まで見上げていたバージルとオリーヴが同じかやや下ぐらいにいる違和感。クレソンに関してはもう首の角度を真上に向けずに済むので首には間違いなく優しい。


「今のこの状態で帰宅しても俺だって信じてもらえるか怪しかったからさ。ここは一足先にみんなに間違いなく俺だって認めてもらって証明してもらおうと思って」


「魔法で子供に変身すれば済むだけの話では?」


「折角大人になれたんだから、しばらくは大人の体を満喫したいじゃん? 子供に戻るのはいつでもできるし」


 みんなの前でクルクル回って見せる。父さん譲りのデブにあるまじき、父さん譲りの華麗なステップ。子供の頃に比べて体重がドカンと増加したためか、微妙に体が重い。父さんあの巨体でよくあれだけ身軽に動けるよな。やっぱり父さんはすげーや。さすがだよほんと。


「ま、何はともあれよかったんじゃねーの?」


「そ。ホーク・ゴルド30歳! 外見は未だ10歳児のまんまでーす! みたいな状況に陥らずに済んでホっとしたよ。小動物めいたデブ〇ョタ由来の可愛さは大分落ちちゃったけど、その分かっこよさは上がった感じしない?」


「いや、別に。さすがにちょっと無理がありやすぜ? ローガン様ならともかく、図々しさも程々にしないと」


「ヴァスコーダガマ王国基準で物事を考えすぎだな。ま、俺はどんな坊ちゃんでも可愛いと思うが」


「そのなりでカワイコぶりっ子されると妙に腹立つな。今まで通りに甘えてえ時はちゃんとガキの姿に戻れよ?」


「なんでさ!?」


 シュルシュルシュル、とみんなの目の前で俺の体が子供のそれに縮んでいく。見慣れたいつもの可愛いホークちゃんだ。


「お、可愛くなったな」


「伸びるも縮むも自由自在なのか」


「悪かったって。冗談だ、冗談」


「傷付くわあ」


 ポワワワワーン、と子供だった俺の体が膨張して、大人の、といっても18歳相応のそれに戻った。魔法で老いたり若返ったりできるのは便利だけど、あんま多用するもんじゃないなコレ。ただでさえ失って初めて気付く若さ並びにチヤホヤ甘やかされる快感は甘美な毒なんだから。特に俺みたいにどっぷり甘やかされまくって甘やかされることに慣れきってしまった人間には。


「ああ坊ちゃん! なんと立派になられて!」


「見違えるようだ。実際見違えたのだが」


「そう拗ねるなよ。オメエはオメエなんだから」


「今更遅ーい!」


 コントやってる場合じゃないが、ちょっと安心した。やいやい騒ぎながら、3人と共に屋敷に帰る。


「お帰りなさいま」


 せ、とローリエの顎が落ちる。珍しいものを見たな。普段はクールな彼女が絶句してしまうぐらい衝撃だったってことか。ま、無理もない。信じて送り出した可愛い坊ちゃまが可愛さ大幅ダウンの巨漢デブになって戻ってきたのだから。


「ただいまローリエ。どう? 似合う?」


「それは新たな変装でしょうか?」


「違う違う。女神の呪いが解けて大人になったの」


「おっかえりー! ホ・オ・ク・ちゃあああああ!?」


「危ない父さん!」


 俺の帰宅を聞き付けて飛び出してきたイーグルパパも、驚きのあまり階段から足を踏み外して豪快に転げ落ちそうになったのを空中で静止させて風船のようにフワフワ浮かべながらゆっくりと床に下ろす。危ない危ない。今度は父さんが頭を打って前世の記憶に目覚めたりしたら大変だよ。


「え!? 嘘!? ホークちゃん、だよね!?」


「うん」


「すごーい! パパそっくりの男前だ! 身長もこんなに伸びちゃってまあ! すごいすごい! 今夜はお赤飯だね!」


 身長160cm弱のイーグルパパが俺の周りをウロチョロしながらハイテンションで飛び跳ねる。本当に身軽だなオイ。子供が成長してくれる、というのはやはり、親にとっては嬉しいものなのかもしれない。ひとしきりはしゃいだ父さんを、俺は包み込むように両手で抱き締める。


「どう? 今までは父さんに抱き締めてもらうばかりだったけれど、今なら父さんを抱き締めることだってできるんだよ」


「ホークちゃんすごい! 立派! カッコいい!」


 自画自賛するみたいに大絶賛するイーグルパパを、俺はぎゅっと抱き締めた。今まで何度も何度も。俺は父さんのハグに救われてきたのだ。万感の想いを込めて、今度は俺から父さんを抱き締める。父さんも俺の背中に腕を回し、ぎゅっと抱き締めてくれた。ああ、大人になってよかったことの一つだ。


「お帰りなさい、って、あら?」


「どちらさんだべ?」


「俺だよ俺。ホークだよ」


「なーんだ、坊ちゃんだべか。……って、坊ちゃんだべか!?」


「なんと。驚天動地にござる」


 いつまでも父さんが戻ってこないから様子を見に来たであろう母さんと、通りすがりのオレガノ。後からカガチヒコ先生もやってきて、玄関ホールでの大騒ぎは続く。


「あらあらまあまあ! ホークなの!? 随分と立派になって!」


「男子三日会わずばとは言うが、たった一日でコレとは」


「すんげえなあ! オイラよりでっかくなったべ!」


「あはは、ちょっと照れくさいね」


 ひとしきり騒ぎが落ち着いたところで、俺は未だにポカーンとしているローリエを見る。身長170cm強の彼女よりも背が高くなったため、初めて見下ろす形になった。


「どう? ローリエ。俺、いい男になったと思わない?」


「……ええ、そうですね。大変お似合いです」


 何がだ。制服がか。大人になったからビリビリに破れて素っ裸、なんてことにはならずにきちんと俺のサイズの制服を着せてってくれた女神ミツカには感謝しないとね。


「ローリエ」


「はい」


――


『結婚しよう』


『喜んで』


――


 いや待て。なんだ今の。俺の脳内に何かが混線したぞ。危く口からそのまま世迷い事が飛び出てしまうところだった。危ない危ない。悪霊退散悪霊退散!


「坊ちゃま?」


「いや、なんでもない。ローリエ。すまないが父さんの服の中から俺でも着られそうなものがないか見繕ってもらうようメイドたちに言ってくれないか」


「うーん、パパは背が低いからホークちゃんぐらいの長身になると丈が足りないかもね。そうだ! 今からホークちゃんのおニューのお洋服を仕立てに行こうよ! パパ張りきってホークちゃんに似合いそうなのを何着でもオーダーしちゃう!」


「この時間じゃ店はとっくに閉まってるよ父さん」


「大丈夫! 店主を叩き起こせばいいだけさ! ホークちゃんのためなら金でビンタするのも辞さないよパパは!」


「さすがにそれは迷惑だし、オーダーメイドだとできあがるまでに時間がかかるから、既製品ショッピングは明日にしよう」


「分かった! それじゃあ明日はパパとお買い物デートだね! おっきくなったホークちゃんと初めてのお出かけ、楽しみだなあブーヒョヒョヒョヒョ!」


 この体になっても父さんは平然と俺を抱き締めて頬ずりしてくるあたり、筋金入りの親バカなんだろうな、うちのイーグルパパは。でも、そこが父さんのいいところだと思う。いくつになっても親にとって子供は子供、ということか。これじゃあ俺の甘ったれ癖もいつまでも抜けないかもな、なーんて。人のせいにしちゃうホークちゃんなのでした。

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