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第400+2話 父親に冷遇されてる金髪妹

「ホークちゅわあああん! 大丈夫でちゅかあああ!? 可哀想に! こんなにも酷い目に遭わされて! お土産にホークちゅわんのどぅわい好きなケーキを買ってきまちたからねえええ!」


「階段から落ちて頭を打った子供にケーキを買ってくるのもどうかと思うけど、即物的な慰めは実際効果的だったからしょうがないね。お帰りパパ。その不器用な気持ちが嬉しいよ」


「ああ!? 可愛い可愛いホークちゃんがなんだかちょっと荒んだ感じに!? パパ大ショック! ひょっとして、ちょっと早めの反抗期!?」


「俺に反抗期はないから安心して。黒歴史はあるけど」


 脂ぎった中年親父に抱き締められて頬ずりされるなんて拷問以外の何物でもない、と当時は思ったけど、今は特に抵抗もない。俺は取り乱す父さんを窘め、お土産のケーキは後で食べるからと一旦退室してもらった。心配かけてごめん。


「もう出てきて構わないぞ」


「お兄様、その、ありがとうございます」


 さて、クローゼットの中からマリー登場。見舞いのタイミングも父さんが帰ってくるタイミングも完璧。言うてそこまで詳しく覚えちゃいないが。大まかにどんな感じに何があったかぐらいは思い出せる。いざとなりゃ魔法で自分の記憶にダイブして記憶の世界をほじくり返せばよい。


「お兄様が別人のように変わられたという噂は本当だったのですね」


「実際別人だったらどうする?」


「えっと、それは……その……ええと……」


「冗談だよ。俺は俺、正真正銘ホーク・ゴルドだ」


 マリーは随分と戸惑っているようだった。無理もあるまい。傍から見りゃ完璧に別人だからな。気が付かないのは父さんぐらい。いやあの目ざとい父さんのことだから、気付いてて何も言わなかった可能性もあるが。昔の話はあまりしないので、実際どうだったのかは定かではない。


「さすがに階段から突き落とされれば外面を取り繕う必要性の大事さぐらいは認識するって。だから君にも優しくしてあげるね。あんまり付け上がられると困るけど、常識的な範疇でいい子にしてくれる分には構わないからさ」


「は、はあ……」


 あとそうだ。屋敷のメイドたちの大半を一掃するんだった。現状屋敷にいるメイドたちの大半は父さんのお手付き。後はホークのセクハラ用に雇ったメイドばかりだったから、まともに仕事をしてる奴が少なすぎてメイド長のローリエたちまともに仕事してる組が内心半ギレだったんだよね確か。その節はご迷惑をおかけしました。


 そういやローリエもメイド長になるぐらいだから、潜入捜査のために父さんと寝たりしたんだろうか。いや、この手の話題は荒れるからよそう。


――


 少し時が飛んで数日後。物理的に飛べたらよかったんだけど、相変わらず時間流に干渉すると弾かれるので我慢しておとなしくしてた俺は、この日運命に出会う。さすがにちょっと大げさな表現だったかな? でもオリーヴとバージル+αを雇った日だから、大事な日ではあったね。


「諸君、本日はお日柄もよくよく集まってくれた。早速だが諸君らが俺の命を預けるに足るに相応しい護衛であるかどうかを見極めるべく、選抜試験を行わせてもらう予定だったがやめました。やっぱこういうのってライブ感とフィーリングが大事だと思うんだ。君と君とそれからそこの君、2次試験をするので残ってくれ。残りの皆さんは残念ながら不合格ということで、お帰りはあちら」


「おい! そっちの都合で来いっつったくせにいきなり帰れとか、何様のつもりだ!」


 柄の悪そうな男がいきなり凄んでくる。が、一睨みしてやるとすぐに黙った。


「ローリエ」


「はい」


「……ローリエ?」


 前回みたいに彼らを威圧して! とジェスチャーしたが、彼女が何をするでもなく集められた者たちはその大半が委縮していた。なるほどこれでは確かに名前を呼ばれてもその意図が汲めなくても無理もない。いや嘘。わざと知らんぷりしてるな。懐き度が足りないからか?


「皆様、お帰りはあちらでございます。我が主の機嫌が悪化する前に、どうぞ速やかにお逃げくださいませ」


「酷い言われよう!」


 こちらのローリエとの関係は現在最悪の一言に尽きる。俺がかけた魔法のせいで口止めされた彼女はU3に告げ口もできず、ひたすらお前は誰なんだ、いや何なんだと言わんばかりの視線を向けながらうちで働くことを余儀なくされているのだから、俺を嫌いになって当然だ。


 庭に残されたオリーヴ、バージル、ハイビスカスの3人は、そんな俺たちを不安そうに見つめていた。


「あの、なんで俺らが選ばれたんですかね?」


「そもそも、君に護衛が必要とも思えないのだが」


「アタイは別に、雇ってもらえるなら文句はないけどさ」


「この状況でそれが言える君たちだから選んだんだよ。あと君は妹の護衛にするから要らんこと吹き込まないようにヨロシコ」


 なんだかRTAでもやってる気分になる。今現在先の見通しが立たない状況で、とりあえず俺の記憶通りに話を進めているだけの状況だから非常に先行き不安だ。俺をこんな状況に陥れた奴は誰か。一体どうすれば元の状態に戻れるのか。それが分かるまでは、下手に歴史を変えてしまわない方が無難だろう。


(いや、既に手遅れか? 少なくとも誰かがこの世界の時間流や世界線を隔てる壁に干渉しようとしたことは師匠と学院長には勘付かれてるだろうし。下手すりゃ目を付けられてる可能性も十分にあり得るとしたら……)


 まあそれならそれで構わない。ふたりとも事情を話せばたぶん協力してくれるだろう。師匠は感情を理屈で制御できる論理的な人(竜)だし、学院長は現状維持、正確にはこの国の平和と秩序を維持することが主目的だから。それに、俺が別の世界線に飛ばされた際に協力してくれた実績もあるし。


(何はともあれ、ふたりの回収には成功したんだ。次はミント先生を家庭教師につけてもらって……)


 いや、慌てるな落ち着け。気が急きすぎて、バージルやオリーヴにまで嫌われたら困る。ただでさえローリエからの好感度はゼロどころかマイナスなのに、この上ふたりにまで冷たくされた日には癇癪を起こさない自信がない。


「とりあえず親睦を深めるために一緒にお昼ご飯でも食べながら雑談しようか」


「分かりやした」


「了解した」


「ああそうかい。食えってんならアタイは食うけどさ」


「君、減点-1ね。金持ちが嫌いなのは構わないけど、雇い主に対する最低限の言葉遣いや態度ぐらいはせめて社会人として弁えよ?」


「なっ!?」


「折角合格したんだから、初日でクビになりたくはなかんべ。大丈夫、俺は寛大な雇い主だから、多少の無礼には目を瞑ってあげる」


 ああ、前途多難。こんな時、オリーヴの尻尾をもふらせてもらえたら元気が出るのに。俺は全く揺れない毛並みの悪い尻尾を前に、涙を呑むしかできないのだった。可哀想な俺。

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