第396話 来るなら恋/行くなら逢
「はい、これで万事オッケー。折角のプレゼントなのに、すみませんねローガン様。代わりにそっくりな宝石を持参してきましたから、代わりにこれをはめてください」
ローガン様が俺にくれようとしていた記念品の置き時計にはめられていた、一際目立つ太陽光色の美しい宝石を力ずくで外した未来の俺は、懐からそれと色も形もよく似た宝石を取り出し、ポッカリ空いた部分にそれをカチっとはめた。
「構わないよ。むしろ、迷惑をかけてしまってすまなかったね。両想いの末結ばれたのであればともかく、ホークくんとゼト様が望まぬ結婚を余儀なくされてしまうというのは僕も望むところではないから、君にはお礼を言うべきかな」
「さすがはオッサンズ一の紳士。この歳になって思うとこのクソボケにぶちん坊やのためにそこまで言ってもらえるのは改めて申し訳なさすら覚えますよ」
「おい」
「はは。否定はできんぞ。なんせお前は俺だからな!」
「ああ、それでも構わないよ。これは僕の独りよがりなエゴみたいなものだからね。あちらの僕はどうかは知らないが、少なくとも僕のそれは見返りを求めてのものじゃない。今はまだ」
「ほんと、返す返すも重ね重ね、いつもありがとうございます。お世話になりますよ? たぶんこれからも末永くね」
「ああ、それは……望むところだね?」
俺を置き去りにしてふたりだけで謎に通じ合わないで頂きたい。一体なんだってのさ全く。
「それ、どうするつもりなんです?」
「未来に持って帰る。大丈夫、悪いようにはしない」
「1ミクロンも信用できないあたり、普段の俺って周囲からこんな風に見えてたのね」
「人のふり見て我がふり直せって言うだろ? 勉強になったな、チビスケ」
ああ言えばこう言う。ほんと、自分との口喧嘩ほど不毛なものはないな。たぶんあっちも同じこと思ってそうだし。
「そんじゃ俺、そろそろ未来に戻るわ。ああ、そうそう。こっちじゃ今は正月だったんだっけ。あけましておめでとさん」
俺の頭をポンポン撫でて、それからグリグリかいぐる俺。
「うわあほんっとーにサラサラだなお前。俺もケアは入念にしてもらってるけど、さすがに髪も肌も子供の天然物には敵わんよなあ。若返りに執着するジジババの気持ちがちょっとだけ解ったかもしれん」
「未来の俺は随分美容に熱心だなおい。改宗でもした?」
「お前も若さを喪ってみれば実感できるようになるよ。といっても俺もまだ……いや、何歳かは言わずにおくか」
未来の俺がきちんと成長しているということはつまり、いつかは俺もこのいやがおうにも慣れ親しんでしまった身長きっかり1mから1mmも存在せずにいるチンチクリンの姿から脱却できるということだ。それは嬉しくもあり、ちょっぴり寂しくもあり。
「そんじゃローガン様、この度はお騒がせしました! 過去の俺も、頑張れよ! これから色々めんどい事が待ってるだろうけど、その先で俺も待ってるからな!」
未来の俺は転移魔法でよく使われる、空間転移門によく似た時間転移門を開き、その向こうへ消えていった。後に残されたのは静寂と、遠くからかすかに聞こえてくるニューイヤーパーティーの賑やかさと花火の音と、俺とローガン様と置き時計だけ。
「なんだかお正月から驚きの連続でしたね」
「そうだね。とはいえ、僕も慣れたものだよ。未来から君が来たぐらいじゃあ、もう驚きもしないさ」
ローガン様はそう言うと、机の上に残された置き時計を手に取り、それを俺にくれた。
「色々あったけど、あけましておめでとうホークくん。これから先も、君と同じ時間を刻んでいけたら嬉しく思う」
「ありがとうございます。俺も同じ気持ちですよ」
厳密には。"全く同じ"気持ちではないのだろう。だがローガン様はそれを承知の上で、嬉しそうにニッコリ笑った。カチカチと置き時計が時を刻む。とはいえいつまでもそれを両手で握り締めているわけにもいかないので、俺は一旦それを彼の机の上に置いた。未来の俺に先に開封されちゃった包装紙やリボンともども、明日は忘れずに持って帰らないとね。
「さてと。初日の出まで残り2時間程度か。どうする? 仮眠でも取るかい?」
「いえ、色々あって目が冴えちゃって、とてもじゃないけど眠れそうにないです」
「であれば、パーティー会場に戻ろうか?」
「それもちょっと勘弁ですね。考え事もしたいんで、一旦気持ちをサッパリさせるためにお風呂をお借りしても?」
「いいとも。夜明けまでに湯浴みを済ませ、綺麗な体で初日の出を拝むとしよう」
朝風呂かあ。お正月らしいと言えばらしいかもしれないね。未来の俺の言ってたこと、体の成長のこと、これからのこと。ヴァンくんたちが王立学院を卒業するまで残り3か月。そこがひとつの区切りになるのは間違いないだろう。未来から来た俺も露骨に匂わせてたし。
「折角だ。最上級のヘアケア用品とスキンケア用品を用意してもらおう」
「未来の俺に負けないように、ですね」
「美は1日にしてならずだからね。若さに胡坐を掻いて手入れを怠ると、あっという間に輝きを失ってしまうのだ、とゼト様が力説していたことの受け売りだが、確かに道理だ」
談笑しながらローガン様の部屋を後にする。朝風呂に入って初日の出を見て、明日はお年玉をもらってなんか美味いもん食おう。今年もいいこといっぱいあるといいな、と願いながら俺は、今年も頑張ろう、と決意を新たにするのだった。





