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第393話 よき年末を場

今年も萌え豚転生をお楽しみ頂きありがとうございました。

今年はコミックス2巻と3巻が連続発売され、無事完結。

私の作家人生の中でも特に忘れられない濃厚な年になりました。

皆様にありったけの感謝を込めて。よいお年を。

来年もホークたち一同をよろしくお願い致します。

 クリスマスとお正月を一緒くたに歌った曲は前世じゃ年末の定番だったけれど、過ぎ去ってみるとあっという間だったなあと実感するね。


 俺とマリー、それからディルくんへの降誕祭プレゼントが大きな降誕祭ツリーの下に山積みになった25日の朝。恐縮しきりの彼に『うちに婿入りするつもりなら今のうちに慣れといた方が気が楽だよ』と耳打ちしたり、俺へのプレゼントが軒並みアレな品物ばかりで顔が引き攣りかける羽目になったり。みんな自分の欲望に素直すぎるだろ。


 25日の朝から夜中までぶっ続けで行われた宮殿での大変華やかかつ煌びやかなパーティーに出席して、今年はどんな大事件が起こるのだろう、と身構えていたのに特に事件らしい事件もなく平和に過ぎ去ったため安堵するよりもむしろ拍子抜けしてしまったりもしたな。まあ、平和なのはよいことだ。要らん事件など起きない方が絶対イイに決まってる。


「マリーの方は恋愛結婚も視野に入れてるみたいだけど、ディルくんの方は実際どうなんだい? 気兼ねなく正直に吐露してみたまえ」


 12月末の夕暮れ時なのに、ちっとも寒くない砂漠の国の田舎ののどかな景色。養鶏場の屋根の上に並んで座って、足をブラブラさせながら、俺はディルくんの青春の悩みを受け止める、理解ある義兄くんとして振る舞っている。


「そりゃあ、俺だってマリーとの交際は真剣だけどさ。でも結婚となると、どうしてもアレコレ考えちゃうんだよな。うちはそんなに儲かってるわけじゃないから、マリーみたいな大金持ちのお嬢さんをお嫁にもらったりしたら苦労だってさせちゃうだろうし、周りから変な目で見られたりもするかもしれない。だからってそちらに婿入りしたら、残された家族が心配だ」


「養鶏場を売却して移住してもらうってのはどう?」


「それは……あんまりにもそちらにおんぶにだっこじゃないかな。奥さんの実家のお金をあてにして、養ってもらうだなんて。たぶん、うちの家族には耐えられないよ。俺だって今はまだ分からないけれど、ずっとそういう生活をしていたら惨めになるかもしれない」


 ヴァスコーダガマ王国の辺境の田舎にあるディルくんの実家。うちの両親が一言挨拶に、と言い出したのを『まだ気が早い』と止め、年末は実家で過ごすというディルくんを俺とバージルが転移魔法で送ってきたのだ。


 王都から独りで帰らせるのは心配だったし、まだ自動車なんて存在を知らない田舎に高級車数台で乗り付けたらディルくんのご家族もご近所の皆さんもビックリしてしまうだろうからね。


 なおバージルは初対面のディルくんのご家族ともすっかり打ち解けて、お茶をご馳走になりながらファーマーあるある話で盛り上がっているようだった。誰とでもすぐに打ち解けて仲よくなれるのは彼の才能だろう。うちの一癖も二癖もある野郎どもの中で、一番地味に凄いのは実はバージルなのかもしれない。


「ビックリするぐらい高価なプレゼントをあんなに沢山頂いちゃって、申し訳ないやら畏れ多いやらで大変だったんだからね? 全員に頂いたものと同等の価値のものをお返しすることになったら、俺は破産だよ義兄ちゃん」


「はは。誰もお返しなんか要求しないよ。大人から子供への贈り物は、ありがたく受け取って笑顔でお礼を言えばそれだけでいいのさ。それでもまだお金持ちの世界に引け目を感じるというのなら、腹を括って開き直るとか、養鶏場を大きくするとか」


「うちを、大きく?」


「そう。別の場所に土地を買って、建物を建てて、そっちに移り住んでさ。鶏卵や鶏肉はゴルド商会と独占契約結んでブランド化して、ブランストン王国でも有名な飲食店に卸すとか。勿論最初は借金になるけど、それでも働きながら返済していく分には良心も痛まないだろう?」


「なんか、話の規模が急に大きくなりすぎて反応に困るよ義兄ちゃん。うちの家族だっていきなり外国に引っ越すなんて言われても、はいそうですか分かりましたとはならないと思うし。それに、住み慣れた土地を離れるっていうのは、どうしてもね」


「なあに、今すぐ決めろと言ってるんじゃないんだ。融資の話を受けるにせよ断るにせよ、きちんと家族と相談して、将来のことを真剣に話し合えるような男になってくれって期待してるだけだよ。これから卒業まであと1年あるだろう? 少しずつ勉強して、将来のことを考えていけばいい。勿論それがプレッシャーだってんならマリーと別れれば済むだけの話だし」


「別れる……マリーと……。義兄ちゃんは怒らないの? 大事な妹をなんだと思ってるんだって」


「高校生の妹が彼氏に振られたからってマジギレしたりはしないよ大人げない。そもそも高校生の恋愛なんて、大学生なり社会人になったりしたら大半が自然消滅するようなしょうもない代物だろ? その程度で目くじら立てたりしません」


 住む世界が違うふたりのロマンス。うん、いかにも盛り上がりそうな案件だ。うちに出入りするようになったら、当たり前のように王宮にだって顔を出すことになるだろうし、降誕祭のプレゼントなんて比じゃない金額のお金が飛び交う世界に身を投じることとなる。


 これは俺が前世日本人だからだと思うけど、たかだか17歳の子供に真剣に結婚について考えろってのも無理があると思うんだよね。でも、この世界じゃあ17歳どころか男女ともに15歳で結婚なんてのはザラで。むしろディルくんのような平民こそ、早ければ12、13歳で14歳の旦那の元へお嫁に嫁いでいったりもする。


 学園に通って卒業して、18歳で進路を決める、なんてのはむしろ、贅沢な方だ。貧しい平民は学校なんか行けずに12歳で家業を手伝いながら働いていたりするのが当たり前なのだから、むしろヴァスコーダガマ王立学園に通わせてもらっているディルくんは上澄みの方だろう。


「ま、卒業まで時間はあるんだ。じっくり考えていけばいい。俺も父さんもディルくんとマリーに後を継がせようだなんて考えちゃいないからさ。うちからの融資を受けながら田舎でのんびり養鶏業をしたって、誰も文句は言わないと思うよ」


「うん、ありがとう義兄ちゃん。そう言ってもらえると、なんだか少し肩の荷が軽くなった気がする」


 隣に座って沈みゆく夕日を眺めていたディルくんが、俺に肩を預けてくる。


「逃げるか立ち向かうか、或いは迎合するか諦めるか。悩めるのも青春のうちさ。恋愛なんていつだって未知なる恐怖との戦いでしかないし、結婚なんてなおさらだ。誰だって赤の他人と家族になろうとするには勇気がいる」


「義兄ちゃんは?」


「うん?」


「義兄ちゃんはどうなんだ? なんで赤の他人だった俺に、こんなにもよくしてくれるんだ? 俺はハンサムでもなければお金持ちでも、頭がいいわけでもない。義兄ちゃんみたいな美人さんに、そこまでよくしてもらえるだけの理由が何もない」


「そりゃあ、赤の他人だからだよ。恋愛脳の妹が留学先で彼氏作ったーなんて聞いた時はどんな金目当て・体目当ての顔だけクソ野郎かと思ったけど、君みたいな素直で可愛い純朴な田舎の芋青年……失礼、男の子が出てきたら、応援してやりたくもなるだろう? 少なくとも、変な男に引っかかってのぼせ上がった頭で小遣いを貢がれるよりはよっぽどマシ」


 都会の金持ち男が飾り気のない田舎娘と結婚する話はわりと定番だけど、まあ似たようなもんだ。都会の垢にまみれていない、素直で純真な男の子の義弟だったら、俺も大歓迎。


「学生同士の恋愛なんて、当事者からすれば真剣だろうけど、傍から見たらありふれた青春の1ページでしかないんだ。肩の力を抜いて、もっと気軽に楽しみたまえ」


 抜くのは肩の力だけにしておけよ、という下品なおじさんジョークがうっかり口から飛び出しそうになったので、何食わぬ顔で呑み込む。俺も精神年齢アラサーに近付いてきたから、段々おじさん臭くなってきたのかしらん。


「ありがとう、義兄ちゃん。俺、真剣に……今までよりももっとずっと真剣に、将来のこと考えてみるよ。マリーのことも、義兄ちゃんのことも」


 何故俺。いや、折角その気になってるのに水を差すのは野暮か。


「うんうん、頑張れ若人」


 俺は寄りかかってくるディルくんが転げないようするりと立ち上がって、伸びをした。子豚のくせに猫みてえな野郎だな、と昔誰かに言われたことがあったが、豚も豚なりに10年近くこの体で生きてきたのだ。そりゃあ体の使い方だって上手になるさ。


「今日はどうするんだ? うちに泊まってくか? なんなら俺の部屋で一緒に」


「いや、気持ちは嬉しいけど帰るよ。ローガン様との約束もあるし」


「……そっか、残念。またいつでも遊びに来てくれよな。義兄ちゃんだったらいつでも大歓迎だからさ!」


「ありがと。バージル!」


 俺がピューイ! と指笛を鳴らすと、それに気付いたバージルが歓談を切り上げて家の外に出てきた。少し遅れてその後ろから、ディルくんのご家族も続く。


「どうしましたー坊ちゃん!」


「そろそろお暇するよー!」


 とう! と鶏舎の屋根から飛び降りた俺に、ディルくんやバージルの後ろにいるディルくんのご家族からも悲鳴が上がる中、俺は皆の視線の先で重力制御の魔法を使い、自身の体重を限りなく軽くした。ヘリウムガスではなく二酸化炭素が詰まった風船ぐらい軽くなった俺の肥満体が、フワフワと空からタンポポの綿毛のように舞い降りてくるのを、駆け寄ってきたバージルが両手でキャッチした。


「ナイスキャッチ!」


「坊ちゃん、人前で危ない真似はせんでください。皆さん驚いちまってますよ」


「ごめんごめん。青春の光が眩しすぎてつい」


 屋根の上のディルくんにヒラヒラと手を振って、俺は無事を報せる。うん、ちょっと悪いことしちゃったかな。突発的な奇行は俺の奇行に慣れてる人たちの前でだけにしとかないと、確かに危ないかもね。


 そんな感じでヴァスコーダガマ王国で過ごす年末はとても平和に過ぎて行った。俺だっていつもいつもいつも厄介事や面倒事に巻き込まれてばかりいるわけじゃないのだ……と、最後まで言えればよかったんだけどね。その話はまた後で。

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