第390話 電撃ハイジャッカー
なんと電撃オンライン様の方でコミカライズ版・萌え豚転生の紹介記事を載せて頂きました!
皆さんもよければ読んでみてくださいね! なおタイトルは偶然かぶっただけの模様
今年の女神降誕祭はヴァスコーダガマ王国で暖かく過ごそうか、という話が持ち上がり、母さんと付き添いのローリエたちは一足先にゴルド商会所有の飛空艇であちらに飛んだ。その後年末年始の長期休みに備えて早めの仕事納めを済ませた父さんとその護衛当番に当たったオリーヴ、それから俺と俺の護衛のバージルの4人は、12月の雪降る空港から民間の飛空艇に乗ってブランストン王国を後にする。大雪で欠航にならなくてよかった。
「今年ももう残り10日足らずか。早いものだな」
「そうだね。なんだかあっという間だ」
「ホークちゃんももう18歳。本来であれば来年の3月に王立学院を卒業してそこからゴルド商会に入社する筈だったのだと思うと、改めてホークちゃんの神童っぷりにパパ涙が出ちゃいそう」
「喜びの涙なら幾らでも流して頂戴な」
8席しか枠のないファーストクラスを4席分。洗練された食事は上等。空の長旅を楽しむのに十分なフカフカシートを倒し、ダラダラと寝転がる。転移魔法を使えば金も時間もかからず一瞬で瞬間移動できるが、長旅には長旅ならではのよさがあるのだ。飛空艇の窓の外から見える雪雲を眺めながら、熱々のコンソメスープを飲む。飛空艇で飲むスープって妙に美味しく感じるよね。
「全員動くな! 動けばこの女をぶっ殺すぞ!」
「助けて! お願い助けて!」
「ギャーギャー喚くなこのアマ! 静かにしろ!」
「死にたくない! お願い殺さないで!」
そんな快適な空の旅をぶち壊しにするハイジャック犯登場。覆面を被った男が2人、スチュワーデスもといフライトアテンダントの女性の頭に銃を突き付けながら、彼女を盾にしつつ扉を蹴破って乗り込んでくる。即座に反応したのはオリーヴだ。
「ぐえ!?」
「なっ!? 貴様! ぐわっ!?」
フライトアテンダントの女性を人質に取っている方のハイジャック犯の額に銃弾を1発。それから慌てて応戦しようとする相方のハイジャック犯の額にも1発。見事にど真ん中だ。
「キャアアア!?」
「お静かに。殺してはいません。麻酔銃です」
見た目は普通の拳銃だが、中身はオークウッド博士特製の麻酔銃である。ちょっとチクっとさせるだけで即座にグッスリ。投与しすぎると死ぬが週に1度撃ち込むぐらいならば人体に目立った影響はない。俺が見ている前で脳漿やはらわたをぶちまけさせるわけにはいかないという優しい心遣いの賜物である。
「大丈夫でしたか? レディ」
「え、ええ!」
立ち上がったオリーヴが、突然の出来事に固まってしまったまま呆然としているフライトアテンダント女性の手を取る。映画だったら恋が芽生える場面だろうが、うちの忠犬はやらんぞ。
「一体何事かね!?」
「何!? 何があったの!?」
「この飛空艇はどうなってるんだ!」
「まだ分かりません。のでお静かに願います」
俺たち以外のファーストクラス利用客4人が座席シートから立ち上がって叫ぶ。オリーヴは油断なく銃を構えながら、蹴破られた扉の向こうを警戒しながら窺った。その間にバージルが立ち上がって、芝居がかった仕草でファーストクラスの乗客4人を見回す。
「どうも皆さん。こちらはかの名高きゴルド商会の会長さん、イーグル・ゴルド氏並びにそのご子息のホーク・ゴルド氏です。私と彼はその護衛の者で。皆さんの安全は我々がお守りしますんで、どうかお静かに願います。おとなしく座って、酒でも飲みながらお待ち頂けると手間が省けて助かりますんで」
「オホン! 諸君、安心して頂きたい。うちの護衛は非常に優秀であるからな。ハイジャック犯ごときに遅れは取らんよ」
バージルに視線を向けられ、イーグルパパが落ち着き払った態度で葉巻に火をつけながら鷹揚に頷く。こういう時、貫禄があると説得力があって便利でいいね。幸い4人はゴルド商会の名前を知っていたようで、浮足立っていたのが落ち着いてくれたみたいで助かる。パニックにでもなられたら堪ったもんじゃないからね。
「一体なんなのかしら?」
「だから、まだ分かりませんて。大丈夫、ハイジャック犯程度ならあいつがすぐに蹴散らしますよ。うちの警備部長は優秀ですから」
バージルの言う通りになった。蹴破られた扉の向こうにオリーヴが単身突撃していった後、数秒もしないうちに銃声と乗客らの悲鳴が上がる。程なくしてオリーヴはジャケットの襟を正しながら涼しい顔で戻ってきた。獣人向け高級ブランドの冬の新作で、結構いいお値段したらしいので傷がつかずに済んで何よりである。
「全員鎮圧しました。客室乗務員にはゴルド商会の名前を出して話を通してきましたので、あちらの空港に到着次第、連中は空港警察に引き渡されるでしょう」
「お疲れ様」
「お怪我はありませんか? 坊ちゃん」
「うん。君のお陰でなんともないよ」
心配性のオリーヴが俺の身体検査をすべく跪いた次の瞬間、バージルがすぐ傍にいたフライトアテンダントの女性……先程オリーヴに助けられてからずっとどうしてよいのか分からずオロオロした様子で立ち尽くしていた彼女の首筋に手刀を叩き込んだ。
「いや、まだ全員じゃねえな。レディ相手だからって、油断は禁物だぜ? 紳士さんよ」
バージルが気絶させたフライトアテンダントが前のめりに倒れそうになるのを腹に腕を回して抱きかかえると同時に、彼女の背中の後ろからポロリと銃が落ちる。客室乗務員に支給される制服には間違いなく含まれないであろう物騒な銃が。
「彼女も連中の仲間だったのか? よく気付いたな」
「まあな。こめかみに銃突きつけられて『死にたくなけりゃ静かにしてろ!』って言われてんのに、大袈裟に助けてだのなんだのと大声で喚いて周囲の注目を集めてりゃ流石に怪しすぎるわ」
それに、とバージルが肩を竦める。
「悲しいかな悪い女に騙されまくったお陰か、最近、嫌な臭いのする女にはすぐ気付けるようになっちまったんだよ。あ、こいつなんか臭うなって。案の定だったぜ」
「それはまた、ご愁傷様」
ドサリ、と連中の仲間だったフライトアテンダントの女を床に転がした彼の肩……には手が届かないので、背中……も届かないドチビなので、やむなく太ももの後ろをポンポンしてから倒れているハイジャック犯の覆面を取り、念のためそいつとフライトアテンダントの女の記憶を闇の魔法で読み取る。
俺はわりと平気で使ってるけど、本来魔法で他人の記憶を読み取る行為にはかなりの危険が伴うらしい。他人の人生を一時的にとはいえそいつの視点から追体験するわけだから、あまりのめり込みすぎると意識や記憶の混濁が起きて、どこまでが自分でどこからが相手なのか、自我の境界が曖昧になってしまうこともあるのだとか。線引きって大事だね、色んな意味で。
「うん、俺たちを狙ったわけじゃなくて、ただの思想犯みたい。ヴァスコーダガマ王国を拠点に活動するテロ集団の残党で、先月指導者が処刑された抗議運動のためにこの飛空艇をジャックしてヴァスコーダガマ王国の宮殿に突っ込む予定だったんだって」
俺たちこれからそこに行くんですけど!? よかったよローガン様とご飯食べてたら暴走した飛空艇が猛スピードで突っ込んでくるから止めなきゃいけないみたいなことにならなくて。
「き、君たちは一体何者なのかね!?」
「通りすがりの一般大富豪だ。気にするな」
サラっと話を締め括るイーグルパパの手元には、最近帝国で開発された最先端魔道具である魔導ビデオカメラの試作機が。どうやら『愛の家族旅行メモリアル 飛空艇に乗るホークちゃん編』を撮影している間に事件が起きたため、一部始終をそのまま記録したらしい。抜け目ないね。





