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第389話 夜食以上殺人未満の罪

 明日使える今日のデブ知識。バーベキューソースを塗ったパンにチェダーチーズを乗せて焼くとそれだけで超美味い。まあ、パンになんか塗って焼けば大体何塗っても美味いんだけどね。甘いものだけでなく、たとえばケチャップとか焼き肉のタレとかスパゲティソースとかさ。そこにチーズが加わればなお最強だ。あまり褒められた話じゃないが、夜食に食うとまた美味いんだこれが。罪の味ってなんでこんなに美味しいんだろう。みんながついついかじってしまうのも分かる気がする。


「緑のロングスカートをはくだけでよいのであれば、部外者に協力を要請せずともわたくしでよろしかったのでは?」


「ローリエは見た目が若すぎるからダメ。ちゃんと顔と体型が若干のたるみやくたびれを感じさせる熟女のそれじゃないと」


「ローリエ殿は40になっても今と変わらぬ若々しき美しさを保ったままでいるような気もするが」


「それはそう。だからこそ愛好家が求める熟女にはなり得ない。一口に熟女と言っても美魔女からいかにもなオバチャンみたいなのまで好みは幅広いけれども、それにしたって年齢相応のよさってのは確かにあるわけだからね。カガチヒコ先生がお爺ちゃん感の全然ない若作りの猿だったら俺もガッカリだし」


 あの捕り物があった夜から数日後。時刻は夜の10時頃。夕食の後、そのまま食堂に残った俺とカガチヒコ先生と実体化したシェリーは、ローリエを交えて4人で最近国内で流行り始めたボードゲームを楽しんでいた。パストラミ社以外にも目新しい玩具を作り出して名を上げよう、みたいな企業は多く、それで新たな娯楽が充実してくれるのなら俺としても大歓迎である。


 そんなわけでしばらく4人で楽しんでいたものの、時間も時間だしそろそろお開きにしようか、とゲーム盤を片付けながら、夜食に焼いてもらったチーズBBQトーストをかじりつつラムレーズン風味のホットミルクを頂戴する。夕飯の後に夜食を!? と驚かれるかもしれないが、デブの胃袋は宇宙なのだ。どれだけ食べても胃もたれとも胸焼けとも無縁の若い体って素晴らしいね!


「おふたりとも、お世辞で誤魔化そうとしておりません?」


「別にお世辞じゃないよ。ねー?」


「ねー」


「ホッホッホ。歳を取る毎に増していく美しさもあれば、歳を取っても変わらぬ美しさもある、ということですな。これぞまさしく人類の神秘と言えましょう」


「シェリー様まで」


 俺とカガチヒコ先生と囮役の女将で捕まえた例の貴族のドラ息子が警察に逮捕され、取り調べがようやく終わったらしく、新聞や週刊誌などには熟女の足首ばかりを狙った変態チックな辻斬り事件の真相が大々的に報じられていた。さすがのお貴族様も現行犯で逮捕されてしまっては庇いきれなかったようだ。


 世間では犯人一味を返り討ちにしたのは一体何者なのか、という話題と、犯人が何故そのような倒錯的な凶行に走ったのか、という話題で賑わっているようだが、俺たちが注目すべきは圧倒的後者である。


 今回の事件の首謀者はある貴族のドラ息子。彼は幼い頃にあまり性格のよろしくない母親にこっ酷く捨てられたことがきっかけで、緑のスカートをはいた女性の足首にある種の狂気めいた執着を抱くようになってしまったらしい。


 なんでも足元に泣いて縋り付く幼い息子を母親は足蹴にして突き放し、暴言を吐いて出て行ったのだとか。それで、彼は緑のスカートをはいた女性の足首に執着するようになり、また同時に、自分を捨てた母親への恨みから、母親に似た面影を持つ女性への逆恨みすぎる憎悪を抱くようになったと。


 そんな歪みを抱えながら成長して剣術を学び、タチの悪い不良仲間と付き合うようになってからは、夜な夜な夜の街に繰り出しての悪い遊びを覚えてしまった。だがそれでも彼の心は満たされず、生きていれば今頃は何十歳ぐらいだろう、とあたりを付けた母親と同年代の娼婦を買ってはクソみたいな暴力事件を起こし、都度都度父親に揉み消してもらっていたらしい。


 それがエスカレートして、しまいには緑のスカートをはいた、母親似の熟女の足首を斬り取って自宅に持ち帰るようなやばい系の異常者になってしまったのだという。切断した足首を何に使ったのかは不明だが、正直想像したくもないな。


「どんな理由があったにせよ、無関係な赤の他人を巻き込んだ時点で同情の余地はありませんね。大義のため、お国のため、などと教育されて育ち、便利な殺人の道具として使われるだけの人生を送ってきたわたくしが言えた義理ではありませんが」


「それは拙者も同罪にござる。かつての主君とその家族、御家の名誉を守るため、拙者は罪なき者たちさえ躊躇うことなく斬った」


「まあまあふたりとも、そう暗い顔をしないで。キルスコアで言うなら俺が一番稼いでる可能性もあるし」


 僕らはみんな人殺し。死後地獄に落ちるであろう人でなしの集まりだ。……地獄の鬼や閻魔大王みたいなのって倒せたりするのかな。それとも悪魔とか堕天使みたいな西洋風なのがいるんだろうか、この世界の地獄って。そのうち何かのトラブルで生きたまま地獄巡り~なんてことにならなきゃいいけど。


「そんで? 結局犯人はどうなったの? やっぱり死刑?」


「恐らくは。当主は知らぬ存ぜぬを貫いたようですよ。狂気に染まった息子のことは、『数週間前から家にも帰らず失踪していたため当人の行動については何も知らなかった。我が家は事件とは無関係だ』と主張しているそうです。間違いなく見殺しでしょうね」


「損得勘定だけで考えるのであれば至極当然の対応でございましょう。真に息子を愛する父親であれば、そうなる前に止めるべきでしたでしょうに」


「それじゃあ、最強パパバトルは我が家の不戦勝かな」


「最強パパバトル?」


「なんでもないでーす。そんじゃ、いい感じに体もあったまってきたし、そろそろ寝るわ。おやすみー」


「おやすみなさいませ」


「おやすみなさいまし」


「よき夢を」


 夜食とボードゲームの片付けも終わり、ローリエは自室に、シェリーは俺の持つスマホの中に、それぞれ戻っていく。俺はカガチヒコ先生の部屋へ。先生の部屋は和洋折衷だ。絨毯の上に畳が何枚か敷かれており、そこには布団が敷いてある。洋風なお部屋に文机や行灯などの純和風というか純ジャパゾン風のインテリアが並べられ、さながらどこかの森みたいだな。


「そういえば、王立大学院の研究室に再生治療の研究依頼が来たらしいよ。被害者の女性たちの足の欠損を義足で補うんじゃなくて、生やす方向でなんとかできないかって」


「ふむ。それが実現すれば多くの者たちの希望となり得るでしょうな。悪化した患部を切り落として新たに生やす、といった手法で健康な肉体を取り戻せる患者も出てくるやもしれませぬ」


「オークウッド博士は海外出張中だから、研究そのものは博士抜きで大学院の方で始めるみたいだけどね。世のため人のためになる研究ならさぞやり甲斐もあるんじゃないの」


 オークウッド博士だけがマッドサイエンティストの代名詞みたいな扱いだけど、大学院(あそこ)や学者ギルドは博士抜きでもわりとマッド予備軍の巣窟だからなあ。間違いなく人体に要らんもん生やす研究に派生しそうな未来が見える見える。腕が4本になったりアレがああなってコレがこうなってどうのこうのみたいなろくでもない騒動が起こらないことを祈るばかりだ。


 ……話が妙な方向に逸れたが、なんにしたって平和が一番である。何事もなくみんなが笑って暮らせるのならそれが一番いい。誰が傷付くことも泣くことも苦しむことも悲しむこともなく、世界が平和であればいいとしみじみ思うよ。でも、世の中ってのはそうはならなくて、ままならなくて、時々ちょっぴり嫌になる時もあって。


 別に何も悪くないのに今回の事件で被害に遭ってしまったあのおばさんや同じ身の上の人たちが1日も早く失われた足と笑顔を取り戻せる日が来ることを願って、大学院に研究費の寄付でもしておくか。金なら幾らでもあるから、たまには税金対策も兼ねて慈善事業をしておくのも悪くない。学院の方にもたっぷり寄付を送り付けてやれば、学院長もニッコニコだろう。というか、そろそろ金でポーク分の出席日数を買うのが当たり前になってきたので、そろそろ学院長にも愛想を振り撒いておかないとまずいかも。


「そんじゃ、おやすみなさい先生」


「ああ、おやすみ主殿。子守歌は必要にござるか?」


「せんせのイイ声だったら確かにメッチャ安眠効果あるかもね」


 冬のもふもふは最高だ。というわけで、体温の高い子供の体で湯たんぽ代わりになることを条件に、俺も彼らの最高級毛布さえ凌駕する最高のもふもふ冬毛をお借りしている。いわゆるギブ&テイク、WIN-WINの関係って奴だ。これから冬が来て、冷え込みもより一層厳しくなって。嫌な事件が起きて、心が寒くなることもあるかもしれない。だけど我が家には無敵のもふもふがいる。信頼できる大事な仲間、家族がいる。だから、たとえどんなに寒い冬が来たとしても、ゴルド家はいつだって幸せポッカポカなのだ。

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