第39話 出会いと別れはいつだって突然に
3章で綺麗にオチがついた感あるのでそこで終わっときゃよかったのに感がなくもないですが、ボチボチ4章始めていきまっしょい
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「あー、結婚したくねえな。結婚したくねえ」
「坊ちゃん、そいつァ贅沢ってもんですぜ」
その日は朝から雨だった。本当は大学に行く予定だったのだが、雷雨があまりにも強かったので、サボることにしたのだ。サボりは学生の特権である。父上は雷雨なぞなんのそのの精神で出勤していった。労働者になんかなりたくなーい!!
そんなわけで予定を変更して、俺はバージルと煎餅をかじりながら将棋に興じていた。この世界、醤油も煎餅もあるし、焼いた煎餅とカブキ揚げもある。というか、カブキ揚げって名前があるってことは歌舞伎もあるのか??と思ったら、単にカブキというシェフが考案した煎餅であるらしい。紛らわしいというかこじつけくせえというか。
「だってしたくないものはしたくないんだもん。結婚は人生の墓場だぞ?お袋の金玉袋だぞ?」
「いや、意味がわかんねェ」
公爵家のお家騒動事件という名の実質王妃暗殺一歩手前事件から少しの時が経ち、12歳になった俺はそこそこ充実した生活を送っていたのだが、結婚はいつにするのかという父様と義父である男爵からの催促にせっつかれてちょっとウンザリ気味だった。
「あんな可愛らしいお嬢さんで、しかも男爵の地位までついてくるんですよ?全ての低級冒険者の夢じゃあないですか。一体何が不満なんです?」
「何もかもがだよ。そもそも俺には結婚願望なんてないし、別に彼女にはこれっぽっちも恋愛感情抱いてないし、まして世継ぎまで作らなくちゃいけないんだぞ?責任重大すぎてダレるわ。俺は一生優雅で気ままな独身貴族を貫きたいわけ。そんなわけで、なんかこう、いい方法ない?」
16歳で結婚して子供作れとか、前世日本人である俺にはあまりにも辛すぎるぞこの世界観。具体的には結婚しないで爵位を授かる方法とかさ。前に調べたけどどれもこれも無理だったんだよね。
「そんな方法があるなら俺がとっくのとうに実践してますよ坊ちゃん。戦争で多大な手柄を立てるとか、飛空艇に匹敵するレベルの大発明をするとか、あるいは邪竜でも討伐すりゃあ、ひょっとしたらもらえるかもしれませんがねェ」
「邪竜?邪竜なんていたのこの世界?」
「ご存知ねェんで?人間を生きたまま黄金像に変えちまうってェおっそろしい邪竜でさァ黄金像に変えられちまった人間は自分じゃあ死ぬことも老いることもできず、一生身動き取れねェまんま半死半生状態で邪竜のオモチャにされるってェもっぱらの評判でやすよ」
「それはなんというか、かなりえぐいな...」
リアル考えることをやめた系はかなりえげつないぞそれ。話を聞いてるだけであまりのおぞましさにちょっと背筋が冷やっとした。
「まあ、邪竜なんざS級冒険者が束になってもとてもじゃねえが太刀打ちできねェ神様みたいな存在でやすからねェ」
「そんなに強いんだ」
「そりゃあ、かつては創世の女神ミツカとこの世界の覇権を賭けて争ったなんて伝説が残ってるぐらいですぜ?それこそ神様レベルの力を持っていてもおかしかねェや」
「へー」
なんじゃそりゃ、チートにも程があるじゃないか。おかしいぞこの世界。転生者の俺が大したチートも持ってないのに、学院長の爺さんとか邪竜とか、俺よりチートな連中がゴロゴロいるぞ。なろうは主人公が最強なのが当たり前なんじゃないのか??
マンボウよりもはるかにストレスに弱い最近の若いオタクくんたちは主人公がいついかなる時でもオールウェイズ最強じゃないとアレルギー反応発症したりしない??大丈夫??って心配になっちゃうけど、残念ながら俺が最強になるためにはあまりにも障害が高すぎる上に多すぎるんだよなこの世界。
俺は椅子から立ち上がると、窓を開けようとして、暴風雨があまりにも強すぎるためやめた。窓ガラスがガソリンスタンドの洗車機の中みたいになってるんだもん。
「何をしていらっしゃるんで?」
「いや、窓を開けて大声で理不尽に対する嘆きを叫ぼうかと思ったんだけど、雨風強いから閉めたままやることにしたわ」
「はあ、それじゃあ、ご自由にどうぞ」
「では遠慮なく。邪竜のバッカヤロー!!」
せめて俺より弱くあれよ!いやそこまでの贅沢は求めないから、せめてヴァンの無属性魔法で軽く蹴散らせる程度のチートモンスターであってほしかった。
ざっと俺の知る限りこの世界のドラゴンの知識を述べるなら、鱗は魔法で強化されずとも既にロボットアニメに出てくる特殊な超合金ばりに硬く、体は飛行機よりも大きく、あと火を吹いて空を飛んだり竜巻や落雷を引き起こしたりといった天災を操ることもできるらしい。
いくら魔法やブレスを無力化できたところで巨大な尻尾の一撃や鯨よりも巨大な生物の噛みつき攻撃なんかを受けたらひとたまりもないだろう。いくら防御魔法をかけたところで女神と戦えたってレベルの神話生物相手に人間の魔法がどこまで通じるのかって話だ。
「いいアイデアだと思ったんだけどなードラゴン退治。まさか爵位欲しさに戦争引き起こし死の商人になるわけにもいかないし、俺のよろしくない頭じゃ天才的発明なんかできないし」
「無属性魔法の研究や呪文刻印があるじゃねェですか」
「どっちも表沙汰になった時点で国王から即暗殺者が仕向けられるレベルの厄ネタだから認められないんだなこれが...うん?」
その時のことを思い出すと、最初に感じたのは隕石が落ちてきたのかな?という疑問だった。
「あぶねェ坊ちゃん!!」
「うわ!?」
突然窓の外が黄金に光り輝き、それからバージルが凄く焦った顔で俺を抱き寄せ、自分の体を盾にして俺を抱きしめた直後、凄まじい轟音と共に屋敷の壁が瓦解し、暴風が室内に吹き込んできた。
「どぅわれがバカですってェ!?」
「バージル!おい!大丈夫か!」
俺を庇った拍子に衝撃波に吹き飛ばされ、気絶してしまったバージルの巨体が倒れ込んできて、慌てて受け止める。どうやら衝撃で気絶しているだけのようだ。頭を打ったり飛んできた瓦礫がぶつかったりはしていないようでまずは一安心だが、問題は竜だ。
「おいおいなんだなんだァ!?無事かご主人!?生きてっか!?」
「クレソン!オリーヴも!ちょ!?助けてー!?」
「坊ちゃん!」
黄金に輝くドラゴンが、ぶっ壊された壁の穴から憤怒の形相を覗かせ、そして、伸びてきた手が俺を鷲掴みにする。何事かと駆けつけてきたふたりも、ドアを開けたらドラゴンの顔のドアップがあった!なんて異常事態に呆然としてしまっている。無理もない。冷蔵庫を開けたら中からゾウの鼻が伸びてきたようなもんだからな。さすがにビビるわ。
「わあああァ!?ちょ、ヘルプミィー!?」
「坊ちゃーん!!」
そうして俺は、ドラゴンの手の平に鷲掴みにされ、そのまま意識を失った。