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第332話 シェリーvs四天王D

前々々々回までのあらすじ。大統領官邸の屋上に降下後、散会したホークたちを待ち受けていたのは、黒天狗党四天王を名乗る4人の剣士たちだった。なんでも人質に取られた政治家らが監禁されている最奥のジャパゾン国大統領執務室の扉を開けるには、黒天狗党四天王がそれぞれに持つ封印の鍵を4本揃えなければならないらしい。


正直人質とかどうでもいいから、さっさと黒天狗だけぶっ倒して帰ろうぜ、と露骨にローテンションになるアブラミ小僧であったが、生き残りが残党を率いて再び決起しても事後処理が面倒だからと、とりあえず全員ぶちのめすことに決定……したのだが。


相手は四天王。パラシュートで乗り込んできたのは4人。順当に言って次はホークが最後の四天王と戦う番であるのだが、ここでオリチャー発動! ナノマシン技術(チート)という禁じ手で実体化できるシェリーという5人目がいるのだから、残りのひとりはシェリーに任せて、ホークはギミックガン無視でさっさと黒天狗を倒しに行った方が早くない?


元より律義に大統領官邸内に散らばった四天王を倒すべく動き出した理由は、放置しておくと取り逃がした時に面倒だからというだけの理由である。そんなわけで、シェリーはホークの代わりに四天王Dと戦うべく、赤鬼のお面をかぶってすっかり無人になってしまった議席場へとやってきたのだった。


「あの! 初めましてこんにちは! あたし、黒天狗党四天王がひとり、刀のゲンブって言います!」


「これはこれはご丁寧にどうも。わたくし、解決アブラミ小僧様に執事としてお仕えさせて頂いております……ラードと申します」


「わあ、間の取り方がすっごく偽名っぽいですね! よろしくお願いします、ラードさん!」


黒天狗党四天王が最後のひとり、刀のゲンブ。彼女はまだ十代前半であろう、可憐なジャパゾン撫子であった。結い上げられた清潔な黒髪。桜色の袴。さぞや名のある名刀であろうことが窺える一振りの刀。


「あの、ラードさんの目的ってこの鍵ですよね? ごめんなさい、あたしにもどうしても譲れない事情というものがありまして! 本当に申し訳ないのですが、死んでください! 私、ほんとはあまり人を殺したくはないのですが、今日は頑張ってあなたを殺さなくちゃいけないんです!」


守ってあげたくなるような儚い美しさを漂わせる可憐な黒髪の美少女剣士は、とても悲しそうな表情を浮かべた。


「あの、あなたが死んでしまう前にお訊ねしたいのですが、どうして皆さんは黒天狗党の邪魔をするんですか? 黒天狗党は日夜悪い方向に進みつつあるこの国の未来を、少しでもよくしようと日々頑張っているんです! かくいう私も、黒天狗様に救われました!」


刀のゲンブのお涙頂戴必至の悲しい過去語り、からの自分語りは聞くだけやるせなくなるだけで損だから全部カットね、とこの場にいたのがホークであったならばバッサリそうしていただろうが、生憎ここへ彼の代理としてやってきたのはシェリーである。シェリーはジェントルメンな人工知能だった。人工知能ながらに下手な人間(ホーク)より人情味があった。


なので、彼女の悲しい過去を律義に全部聞いてあげたのだ。刀のゲンブことオチヨは、貧しい農村の産まれであった。幼い頃に流行り病で両親を亡くし、引き取られた先の意地悪な伯母夫婦の家では奴隷同然の酷い扱いを受けて育ったのだという。


やがて彼女は金のために遊郭に売り払われ、そこで禿 (カムロである。ハゲではない)として働き始めた。遊郭での暮らしは辛かったが、伯母夫婦の家で過ごす生活よりはずっとずっとマシであった。だがある年遊郭が大規模な火災に見舞われてしまい、焼け出された遊女たちは行き場を失った。オチヨ自身も燃え盛る建物に押し潰された友人を救おうとして背中に大火傷を負い、生死の境を彷徨ったという。


「その後はまともに働けるあてもなく、物乞いをしながら、男の人たちに襲われそうになりながら、逃げて逃げて逃げ続けて、どこかの町の路地裏で餓死しそうになっていたのを見付けてくださったのが、黒天狗様でした!」


「大変な苦労をなさったのですね」


「ええ! だからこそ私は誓いました! このご恩は、一生かけてでも必ず返す、と!」


黒天狗党は間違ったこの国の犠牲となった全ての民を救い、愚かな政治家たちの手によって腐り落ちていくこの国を必ずや更生させることを目標に同志を集め、ジャパゾン大統領官邸を襲撃できるだけの一大組織となった。


そして最初は非力な少女であったオチヨ自身も刀を習い、己を鍛え、先代ゲンブである大鉈のゲンブを破り、刀のゲンブの称号を得たのだそうだ。なるほど女神教の時もそうであったが、上層部はともかく黒天狗党に救われた末端の人間たちは党が掲げるお題目を信じ、真面目に革命のために尽くしているパターンもあるのだろう。


「黒天狗様はカヲルコお嬢様を愛しておられました。が、黒天狗様にとっては黒天狗党に集う全ての党員たちが我が子である、と、カヲルコお嬢様だけを特別扱いすることはありませんでした。カヲルコお嬢様もそれを承知の上で、自分だけ特別扱いは望まなかった」


それまでどこか純粋無垢な表情をしていた刀のゲンブの目に、昏いものが宿る。


「黒天狗様がカヲルコお嬢様を大切に想っていたことは、おふたりをお傍で支え続けてきた我々全員が痛いほど知っています。そしてそれを喪った悲しみがいかほどのものかも……」


刀のゲンブはするりと水の流れるような無駄のない動作で刀を抜いた。


「あたしもカヲルコお嬢様を、本当のお姉様のようにお慕いしていたんです。あの方は誰にでも平等で、公平で、優しくて……。だから、カヲルコお嬢様の命を奪ったアブラミ小僧が憎い!」


「なるほど」


「あなたもアブラミ小僧の仲間なんでしょう? であれば殺します。あなたを殺して、あなたの首の前でアブラミ小僧をうんと苦しめながら殺して。腐敗した政治家どもに天誅を加え……黒天狗党(あたしたち)が、この国の明るい未来を作るんです!」


一撃必殺の居合を得意とする刀のゲンブが、目にも留まらぬ速さでシェリーに斬りかかる。


「もらった! っ!?」


だが残念ながら、シェリーの体はナノマシンの集合体でできた義体だ。どこを斬ってもなんの意味もない。


「あなた様の抱かれた悲しみ、怒り、嘆き、憤り。いずれも至極ご尤もの事と存じます。ですが、あなた様方が亡きお嬢様を大事に想っていらしたように、わたくしも坊ちゃまをとても大切に想っております故……こうして不運な巡り合わせを経て敵対するより他なくなってしまった事、心より残念に思います」


「っあっ!?」


シェリーの両目から一直線に照射されたレーザービームが、刀のゲンブの心臓を貫く。痛みも苦しみもない即死であったのは、せめてもの慈悲であろう。シェリーは心臓を焼かれ、倒れ込んで死んだ少女の亡骸を仰向けに寝かせ、憎悪に見開かれた瞳を優しく閉じてやると、近場の議席の上に置かれていた黒い鍵を手に取る。とはいえ、今頃ホークはとっくに扉の封印など力尽くで破って黒天狗と対峙している頃であろう。


怨みや憎しみは復讐の連鎖を呼ぶ。今度はこの少女に何らかの想いを抱いていた者が、シェリーを仇と新たな復讐の火種を燃え上がらせるのかもしれない。だがたとえそうなったとしても、シェリーは己の役割を果たすのだ。そうあれかしと造られたから? 答えは否。シェリー自身の意志で、である。


シェリーvs黒天狗党四天王がひとり、刀のゲンブ。シェリー、WIN.

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