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第310話 世界樹といえばその守護者

「お前さん、今度は世界樹に行くそうじゃのう?」


「ええ」


「それなのにワシを誘わぬとは、水臭くはないかね? 可愛い教え子に除け者にされてしまって、ワシ悲しい! ヨヨヨヨヨ!」


「ええ??」


あのまま直行してもよかったのだが、ここは冒険者らしくちゃんと下準備や情報収集してから行こうぜ! ってことになったので、今週は夏休み特別ローテでバージルは世界樹攻略が終わるまでは俺の護衛当番付きっきりだ。その分後で代休は取ってもらうが。王都に戻り手分けしてアレコレ冒険の準備を進めていると、珍しくマーリン・アクア学院長からお呼びがかかった。


夏でもクソ暑そうな魔法使いのローブを涼しい顔で羽織っている爺様と、学院長の自宅である豪邸で水出し玉露と芋羊羹を楽しみつつテーブル越しに向かい合う。非常にわざとらしい嘘泣きも彼がやると様になってしまうのがお爺様マジックという奴か。魔法というより手品に近い方の。


「あなたと世界樹に一体どんな関係が?」


「おや、知らんのかね? 世界樹の山麓に広がるスサイード樹海には、世界樹の守り手たるエルフたちが人知れずひっそりと暮らしておるのじゃよ」


「そうなんです?」


そういや集めたのはもっぱら世界樹にまつわる情報だけで、その周りの樹海については特になんも調べなかったな。どうせ師匠の背中に乗って樹海の上を飛んでいって世界樹の麓からスタートするという、3合目ぐらいにある駐車場までは車で行って、そっから登り始める登山みたいな真似するつもりだったから失念していたなり。


「世間一般のエルフにとって世界樹は絶対の神聖不可侵なる信仰の対象。お主がその世界樹にいざ乗り込もうと言うのならば……ワシも是非行ってみたい!!」


「おい!」


欲望駄々漏れだなこの爺さん! いや変わり者なのは今更だが。なんせ魔術師ギルドの名誉会長として無属性魔法の研究にもメチャクチャ乗り気で陰で俺の後押しをしたような人だ。倫理観とかぶっ飛んでいる博士とは違って、こちらは都合よく出したり引っ込めたりできる、ある意味もっと厄介な手合いである。


「嫌じゃ嫌じゃ! ワシもあの世界樹に何があるのか知りたいんじゃーい!」


「アレ? そこまで気にしている割には行ったことないんですか? 意外」


「うむ、これでも一応世界の理を守る賢者であるが故な。率先して安寧と秩序を破ることはあまりしたくはないのじゃよ。じゃが! そなたが冒険者として真正面から堂々と乗り込んでいくのであれば、それに便乗せぬ手はあるまいて! ハインツはよくてワシは駄目なんて言わんじゃろ? な? な?」


「いや、いいですけど。むしろいつも世捨て人みたいな雰囲気漂わせているあなたが珍しくそこまで熱心にせがんで来たのに駄目ですとか、イジメじゃないですか」


「ひゃっほーい!! おっと、ワシとしたことが年甲斐もなく取り乱してしまってすまんかったのう。フォフォフォ、感謝するぞよ、我が可愛い教え子よ」


「今更取り繕ったって遅すぎるのでゎ??」


最近みんななんか年甲斐もなくハッチャケすぎてない? 大丈夫?? 夏の暑さがそうさせるのかしら??


「それもこれも全てはそなたの影響じゃよ」


「え?? この期に及んで俺のせい??」


「そうではない、そうではないのじゃ」


氷の浮かんだ水出し玉露のおかわりを頂きながら、俺はニコニコ笑う学院長に枯れ木のような手で頭を撫でられる。肉体は老いているのにその手に巡るエレメントは瑞々しく潤沢だ。


「そなたという型破りで破天荒な若者が、嵐の如くに縦横無尽に世の中を駆け巡りながらこの世界の秘密を解き明かし、時に変革と進歩を促す。停滞し倦んでおった者、老熟し己が人生の先行きをある程度見定めておった者、或いは渇いておった者にとっては、そなた程心地よい刺激はあるまいよ」


心当たりがあるのではないかね? と問われ、なくはないですけど、と唇に手を当てる俺。


今回特に顕著なのはバージルだろう。まるで遠足前に弁当のオカズから水筒の中身からおやつまで気にしまくる子供みたいに、目をキラキラさせて世界樹行きの準備を進める姿は微笑ましいし、師匠も『今度こそあの女神の鼻を明かしてやろうとも!!』と全身にやる気と気合が漲っている。


多少焚き付けた自覚はあるが、あそこまで楽しそうに乗ってくれるのは、あのふたりにもそれぞれの思惑があるからであることは疑いようもなく。


「フォフォフォ。長生きはするもんじゃて。ワシの存命中に、まだ元気に動ける間に、そなたのような子供が現れてくれたことは、まさに奇跡じゃよ。世界は合縁奇縁・不思議な奇跡に満ちておるものじゃ」


「そうまでストレートに言われると、なんだか照れますね」


「老い先短い老人に、回り道や迂回をしておる余裕はあまり残されてはおらぬからのう」


「よく言いますよ。老い先短いなんてこれっぽっちも思ってないくせに」


「フォフォフォフォフォ! そこがワシのいいところじゃ。じゃろ?」


まあ、否定はしませんけど。


そんな経緯(いきさつ)があって、世界樹攻略パーティは俺、バージル、師匠、学院長の4人で行くことになった。こんなこともあろうかと! とあらかじめ世界樹の情報はある程度蒐集していたという学院長の手持ちの情報も使って、4人ですり合わせを行う。


元より旧友である師匠はこうなることを察していたのか、学院長とニヤニヤしながら『この腕白ジジイめ』『お互い様じゃ』と小突き合っていた。一筋縄ではいかないお爺ちゃん同士、仲がよくて結構なことだ。


     ◆◇◆◇◆


「それじゃあ世界樹攻略に向けて!」


「いざ! しゅっぱーつ!」


「「「オー!!」」」


それは朝からもう既に暑い夏日の早朝だった。そんな王国の気候とは一線を画す、冷え冷えで雪まで積もっているトルーブルー山の中腹にある師匠の神殿から、竜神形態になった彼の背中に乗って出発した俺たちは、朝焼けに照らされ荘厳にそびえ立つ世界樹に向かって一直線に飛んでいく。


ちなみに今日のバージルはヤタシールドとヤサカニペンダントをちゃんと装備しての、伝説の武具3点セットフル装備だ。学院長は普段着に魔法の帽子をかぶって普段は持ち運ぶのが億劫だからという理由で学院長室に置きっぱなしの魔法の杖を持っている程度だが、これは常日頃から世界最高クラスの魔法使い用の防具を装備しているだけであることが判明しただけなので問題はない。


むしろひとりだけアロハに麦わら帽子という服装の俺が非常に浮いてしまっている。冒険者の皆様に見られたら『冒険を舐めるんじゃねえ!!』と叱られてしまいそうな装いだが、驚くなかれ、この一枚でダイヤの指輪ぐらいなら買えてしまうお値段するという極めて特殊な繊維で織られたアロハ、そしてそんじょそこらの鋼鉄の鎧なんかよりもよっぽど防御力に秀でているという。


ただの麦わら帽子にしか見えないこの麦わら帽子も同じく、下手な鉄兜なんかよりよっぽどしっかり防刃・防弾対策がなされているという逸品で、試しにマネキンにかぶせてオリーヴに銃で撃ってもらったら見事に銃弾を食い止めたという凄い耐久を誇る防具なのだ。うーむ、魔道具職人の力は凄いな。ひとつの道を極めた職人の職人芸というものはどこの世界でも素晴らしいってことだね。


「いやー楽しみですねえ! あ、俺朝飯におにぎり持ってきたんですけど食います?」


「食べるー」


「うむ、頂こうかの。果たしてあの大樹の天辺にて何が待ち受けていることやら。ワクワクするぞい!」


学院長の風の結界で、ジェット機ばりの猛スピードで飛行する巨竜の背中の上でものんきにシートを拡げてピクニック気分で朝食を食べることができる。朝焼けの空、雄大に照らされた大地、その中で一際目立ってそびえ立つ世界樹。うーん、最高の眺め。世界は広く、こんなにも美しい。


あっという間に長々距離を通りすぎ、眼下に広がる樹海を一望しながら、俺たちは雲よりも高く天まで届きそうな、巨大な世界樹の麓まで飛ぶ。かくして勇者バージルによる新たな冒険の1ページ、或いは愉快なお爺ちゃんズ御一行様による一夏の大冒険が幕を開けるのであった。

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