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第285話 ピッグスメン

「あー勿体ない。食べ物を粗末にしちゃいけませんって教わらなかったんですか?」


「驚いたよ。あんたが闇属性と時属性の二重適合者であることを隠していたとはね」


止まった時の世界へようこそ、とばかりに時間停止の魔法を打ち破った偽ローザ様が、銃を取り出し構える。対する俺は、宙を舞った唐揚げとフライドポテトの盛り合わせのお皿をナイスキャッチ。恐らくは、というか間違いなく彼女がキドニーだろう。てことはそっちで固まってる偽ピクルス様が相棒のステイクか。


時属性の適合者が魔法で時間を止めた時、対抗できるのは同じく時属性魔法の適合者か、或いはヴァンくんのような無属性の適合者ぐらいだろう。その他の属性の適合者では、時間操作の世界には入門すらできない割とチート臭い分野なのだ……と、世間一般では認識されている。実際はそうでもないんだけどね。


1番解りやすいのは氷属性、これは最近諜報活動や潜入捜査中に普通に時間停止を活用するようになったローリエなんかが解りやすい。時間を凍結させる要領で時を止めることは彼女にも可能だ。時間凍結の概念を理解している彼女ならば、こうして止まった時の世界の中でも問題なく自分の時を解凍して敵に対抗できる。まあ、それは世間一般に広く認知されているわけではない裏技・バグ技の類いみたいなものだけれど。


「時間を止めて、その間に相手の頭の中を読む。うん、あなたに詐欺師は天職だ。ですが残念。あのふたりが長男贔屓(おうさま)相手に相談なんて無駄なこと、端からするわけがないんですよ」


熟達した時属性魔法の使い手ならば、ほんの数秒とはいえ無詠唱で時間を止める事だってできなくはなかろう。目の前の偽ローザ様のようにね。そして時間が止まっている間に、過去、つまりは古い時を覗き見る魔法で相手の記憶を覗き見る。


俺が口から出任せの、子豚部の友情の指輪がどうこうなんてでっち上げの嘘アイテムを金貨を元に急ごしらえしてふたりが本物なのか確かめようとした時に、こいつが取った確認方法がそれだ。一瞬時が止まった、というのは比喩表現ではなく、こいつが本当に魔法で時間を止めたのである。


彼女が時を止めて俺の過去、具体的には釣りワードに使った卒業式の日の記憶をほんの数秒だけ覗き見ている間、俺はあえてそれを破って自由を取り戻すことはせず、肉体の時は止められたまま精神の時だけを動かして、意識的に心を閉ざして閲覧できる記憶を限定し、彼女に卒業式の日の記憶だけを見せたのだ。


コレね、割とチートなのよね。なんでかっていうと、時が止まっているせいで相手が碌に抵抗できないから、幾らでも相手の過去の記憶を覗き放題なのよ。ズルくね? って思っちゃうよね。ズルばっかしている俺が言えた義理じゃないけどさ。


「だが時間なんてそう長く止めていられるもんじゃない! あんたもじき」


に、と言い終わる前に、彼女の時が再び止まる。なるほど、彼女が止めていられる時間はここまでなのか。こんだけ時間を止められるようなチート魔法使いが詐欺師やってるんじゃ、そりゃあみんな騙されてもしょうがないよなあとは思う。そも詐欺師より暗殺者とか、泥棒の方が天職なのでは??


俺は止まった時の世界で闇属性魔法を使い、無抵抗な偽ピクルス様と偽ローザ様の意識を深い深い深すぎる眠りの闇の底に叩き落とすと、キドニーの頭の中にある俺が時を止めて云々の部分だけを消し去った。忘れさせたのではない。何かの拍子に思い出してしまう事のないよう、最初からなかった事にしたのだ。


代わりに偽の捏造記憶に差し替えて、俺が不意打ちで睡眠魔法をかけたことにしておけば大丈夫だろう、たぶん。オラッ時間停止! 催眠ッ! 催眠重ねがけっ!! みたいな卑怯すぎる反則コンボの連続すぎて、正直気が引けてしまうが相手は悪人だから手加減は無用だよね、と自分に言い訳していいわけ?


まあ、しょうがないよね。今回は相手もチート時間停止女だったんだから、目には目を、歯には歯をって感じ。それでは唐揚げとフライドポテトの盛り合わせの残りを食べつつ、魔法でちょっと脳味噌の中身を拝借。ふむふむ、なるほどなるほど。この店の店主と店員もグルなのね?


しかも店の近所にも協力者が複数名配備されていて、店の方で騒ぎなんかあったら即座に外部協力者に情報が行くようになっていると。抜かりないね、さすがは国家公務員(強制)って感じ。


まあ、魔法刻印の術式さえ解除しちゃえば口封じのための爆発もなくなるので無意味なんだけど……って、なんだこいつら。魔法刻印なんてどこにもないじゃないか! つまりはデリゲード王国との司法取引云々ってところからしてまず嘘だった、ってコト?? 凄いな、よくやるよ詐欺師。


キドニーとステイクって名前すらも偽名、調査資料も真っ赤な偽物、このモノクロ写真も空港で撮っただけの赤の他人ってよっぽどだなおい。おまけにこいつらの本当の所属先は……秘密結社ホワイト・ウィドワーズ!!


つまりはアレか。シルバー・フラワー号の一件でイグニス様とローガン様と俺に面子を潰され工作員を2名も捕らえられ、そこから組織の内情を一部暴露された犯罪結社が早速報復のための刺客を送り込んできたってわけかい。行動が早いね。金を巻き上げた後で命も奪う。そうなりゃホーク・ゴルドの名誉も丸潰れって寸法だ。


ふたりの変身魔法を強制解除してやると、ハリウッド女優とハリウッド男優のような濃い顔立ちの美男美女……ではなく、なんかどこにでもいそうな平凡な通行人AとBみたいな印象の20代前半ぐらいの黒髪の男女が姿を現した。確かに詐欺師としては思いっきり目立つ美男美女よりも、こういう相手の印象に残り辛い普通の顔の方が便利なのかもしれない。


それにしてもホワイト・ウィドワーズかあ。思ってたより面倒な組織っぽいね。とりあえず目ぼしい情報を根こそぎゴッソリ抜き取ってから偽の護衛騎士たちにも半永眠状態になる睡眠魔法をかけてから扉を開けて、廊下で腕組みしながら壁にもたれかかっていたクレソンに「や」と手を挙げる。


雷属性の適合者であるため加速に優れた体質をしている上に『問答無用で相手と同じ勝負の土俵に上がれるチート』を持つクレソンはこの手の時間操作系攻撃にめっぽう強いのだ。なんなら自発的に加速して加速して加速して加速して、未来に跳んだりもできるけどこれは今は重要じゃないので置いといて。


「おう、どうしたご主人。二度も時間なんか止めやがって」


「一回目は俺じゃないけどね。あのローザ様とピクルス様、偽者だった。こないだ話したでしょ? ホワイト・ウィドワーズとかいう犯罪組織の事。そこからの刺客みたい。この店そのものが連中のこの国での活動拠点のひとつになってるみたいだよ」


「てェことは、廊下にいる偽騎士(こいつら)も全員敵ってことか?」


「うん。店長とか店の従業員含めて存分にブチのめしちゃっていいよ。必要な情報は全部頂いたから」


     ◆◇◆◇◆


国際指名手配犯キドニー&ステイク改め、エージェント・メアリィ&エージェント・アンディの始末屋コンビの遺髪がホワイト・ウィドワーズの本拠地に郵送されてきたのは翌日の夕方の事だった。


一国の皇帝であるイグニス・マーマイトや王族であるローガン・ヴァスコーダガマにはおいそれと手を出し辛いので、まずは手の届く範囲でにっくきホーク・ゴルドから大金を騙し取った挙げ句、命まで奪ってやろうと企んでいた目論見が狂ったことで、連中はさぞや慌てるなり憤慨するなりした事だろう。


俺が帰国してからの数日間でホーク・ゴルドがピクルス様やローザ様と個人的に親交が深いところまでキッチリ下調べを済ませ、子豚部についても認識していた辺り、ほんと優秀だったんだろうなあ。まさか変身魔法で王族になりすますだなんてバレたら極刑モノの大胆不敵な発想は普通だったらなかなか出てはきても実行には移せないだろうし、何かあっても『不敬だぞ!』の一言で相手を黙らせやすい、なかなかにいい手だったと思う。


ただ惜しむらくは、ホーク・ゴルドが不敬罪なんて屁でもないようなロクデナシだったことと、時属性魔法を悪用しての詐欺行為に真っ向から立ち向かえるようなチート能力の保持者だったことだろう。可哀想に、とは言うまい。こちらを騙して金と命を両方奪い取ろうとした相手だ。完全な自業自得である。


ちなみにホワイト・ウィドワーズにリベンジのチャンスはもうない。遺髪入りの小包をお届けにあがった運送屋の兄ちゃん、誰だと思う? あれね、怒り心頭になったオリーヴの変装。彼の合図で掃除と工作が得意な団体様がお着きになられましたとさ。


いやーまさかホワイト・ウィドワーズから報復のための刺客が送られてきたので念のため注意してねーってメッセージを送ったその日にローガン様とイグニス様が結託して、犯罪組織壊滅のために乗り出すとは思わないじゃん? いやちょっとぐらいはそうなるかもなーとは思わなくはなかったけれども。俺の予想では9割ぐらいの確率でそうなるかもしれないとは予測できたけれども。


禍根はキッチリ根元から絶つ。相手が組織ぐるみの犯罪者ならなおさらである。いいさ、これも世のため人のため。こうして人知れず、世界から犯罪組織がひとつ消えた。だが雨後のタケノコのように、悪い連中はポンポン生えてくることだろう。だが安心してほしい。名探偵イグニスがいる限り、この世に悪は栄えないのだから。

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