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第29話 ギルマスとの謁見は転生者の嗜み

「どうしてこうなった??」


「色々と過程をすっ飛ばし過ぎたからだよホークちゃん!!」


突然だが、挨拶は大事である。飛び級で大学に進学するだけでなく、学者ギルドにも加入するとなれば、ギルドの責任者であるギルド長への挨拶はしなければならない。更に言えば、俺は商人の息子である。ブランストン王国の経済を牛耳る商人ギルドのギルド長にもまだ挨拶していないのに、先に学者ギルドや魔術師ギルドのギルド長に会うのはちょっと……という面倒な面子にこだわる連中はいつの世もどこの世界にもいるものだ。


そんなわけで、俺はあまり気が進まないながらも三つのギルドのギルド長が待つという高級レストランにて、会食をしなければならなくなった。あまり気が進まないとはいえ、その辺りを蔑ろにしてしまうと後々グチグチ文句を言われかねないため、ここは我慢だ。『自由に生きる』というのは『やりたい放題ワガママ三昧しながら身勝手に周りに迷惑をかける』ということとイコールではないのである。


それにしても異世界転生者ならまず真っ先に脳死で『冒険者になるー!』とかなんの脈絡もなく言い出して冒険者ギルドでファーストイキリを体験するのが嗜みみたいなところあるけど、まさか冒険者ギルドをスルーして他の三つのギルドに行く羽目になるとは思わなかったわ。


「やあやあ、よく来たねホーク君」


「へえ、その子が噂の天才児かい」


「はてさて鬼が出るか蛇が出るか!我輩、ワクワクして来ましたぞ!」


魔術師ギルドのギルド長であるお髭のナイスミドル。商人ギルドのギルド長であるいかにも極道のアネゴといった感じの気が強そうな婆さん。


そして、ドレスコードもあるような高級レストランだというのに何故か白衣に身を包んだ、赤毛緑眼の熊獣人のおっさん。彼が俺がお世話になる学者ギルドのギルド長、オークウッド博士だそうだ。いずれも個性的な面々である。特に三人目、一人称が我輩っておま……まあアタイとかあっしとかもう色々いるからいいけども。


「それでは、会食を始めるとするかのう」


「皆さん、うちのホークちゃんをよろしくお願いしますぞ!あ、これつまらないものですが」


「おやめ、イーグル。こんなところでジャラジャラと金貨を取り出すもんじゃないよ」


「我輩、頂けるものは頂く主義ですぞ!なんせ研究資金はいくらあっても足りませんからな!」


付き添いの父が取り出した露骨な賄賂に顔を顰める商人ギルド長の婆さんと、ホクホク笑顔でそれを受け取り懐に収めるオークウッド博士。これには学院の代表として同席している学院長も苦笑いだ。俺を除くと平均年齢が五・六十歳ぐらいの老人達の集まりが、王国でも有数の有名レストランのVIPルームで行われている。絵面が完全に悪の秘密結社の会合みたい。


「それでそれで?早速ですがホーク君、君は無属性魔法に対しどのような見解をお持ちなのですかな?我輩に詳しくお聞かせ願えますかな?何せ無属性魔法という概念そのものがこの国では禁忌とされているせいで、誰も大っぴらには研究できずにおりましてな!君のような若い才能の登場はまさにエポックメイキング!ああ我輩、時代が変わる予感をヒシヒシと感じますぞ!」


「およしよ、がっついてみっともない」


「みっともなさ大いに結構!見栄えの良し悪しなど我らが崇高なる学問の前では無意味!無価値!我々は日夜魔法や科学の針を一秒でも早く進めるために人生を捧げているのですよマダム!」


「確かに、君の書いた論文の内容は、私の目から見てもかなり斬新だった。魔術師ギルドでも、かなり活発に議論が交わされているよ。とても興味深いね」


「フォフォフォ、大人気じゃのう、ホーク君」


俺が身長2m近い縦にも横にも巨大な恰幅のよすぎる熊獣人の博士に詰め寄られている横で、学院長はしれっと酒を飲んでいる。仕事しろジジイ!


「えー皆々様方におかれましては、この度我が息子ホークに格別のご引き立てを賜り深く感謝申し上げます。こちらゴルド商会からのささやかな贈り物をご用意させて頂きましたので、是非ともお納めくださいまし。これでいいかババア」


「やれやれ、なんでもかんでもそうやってすぐ金を押し付けて自分の意のままに状況を動かそうとする悪癖、変わらないねアンタは」


父と憎まれ口を叩き合う商人ギルド長の婆さん。なんだかとても意外な光景だ。父にもこんな風に言い合える友人がいたのだな、と思うと、よかったねえという気分になる。


「まあ、ありがたく頂いておくがね」


「残念ながら、ワシは受け取れんのう。生徒の保護者からそういった金銭を受け取ってはならぬと規則に定められておる故。ああ、ワシは悲しい」


「では、学院への寄付金を今まで以上に弾みますとも!是非ホークちゃんをよろしくお願いしますよ学院長様!オークウッド様!」


「おお、それはありがたいことじゃ」


「言われるまでもありません!わざわざ飛び級のお話まで用意したわけですからな!ご子息は我輩が責任をもって面倒を看させて頂きますとも!」


「アンタに任せる方がアタシゃ不安だと思うがね」


目の前で大人達によるお金のやり取りが行われているが、将来的に父の後を継いでゴルド商会を切り盛りするなり、男爵家に婿入りして貴族としてやっていくなりするなら俺もそういうのできるようにならなくちゃダメなのだろうか。人間性はさておき、商人としての才覚は本当に一流なんだよな父は。そうでなければたった一代でゴルド商会をここまで大きく成長させることはできなかっただろう。


「今回はあくまで、アンタんとこの倅が三つのギルドに面通しをしに来たってだけなんだろう?大袈裟なんだよ、あの冷酷非道な鬼のイーグルが、とんだ親バカじゃないか」


「とはいえ金で取り除ける類いの障害は極力排除しておくに越したことはありませんからな!学問の道とは即ち理解なき凡夫共との戦いの道でもある!研究の邪魔をされぬよう方々に根回しをしておくことを蔑ろにしては、肝心なところで足を引っ張られかねませぬわけですし!」


「そのイチイチ芝居がかった言い回しはどうにかならんのか、鬱陶しいぞオークウッド。そもそも、食事中に立ち上がるのはマナー違反であろうが」


三者三様にそれぞれの組織のトップに昇り詰めただけのことはあり、三人ともが個性豊かというか、キャラが濃いというか。むしろうちの父も学院長もそうだし、物凄く濃ゆい面子が揃ってやがんな。なんか胸焼けしちゃいそうだが、これで初等部で貴族のボンクラキッズ共の、発情期で凶暴になった猿みたいにキーキー煩い様を間近で見せ付けられなくなると思えば我慢のし甲斐もあるさ。校舎が離れればピクルス王子やローザ様との接点も減り、使いっ走りとしてコキ使われる生活からも少しは解放されるだろう。


(やれやれ、本当に難儀な子じゃのう)


(精神防御してる上から頭の中に入ってくんじゃねーよジジイ!つーか、あんたほんとに俺のことどこまで知ったんだよ??)


(フォフォフォ。そもそも、その歳で返事ができるそなたも大概じゃからな??)


しれっと俺の頭の中に、魔法で直接話しかけてくる学院長。どうやら今のところは俺の敵には回らないような素振りだが、全くもって信用できんぞ。そもそもこいつにできるってことは魔術ギルド長とかにできてもおかしくないわけだし。勝手に他人に心の声や記憶を読み取られるってのはなんとも気持ちの悪いものだ。


(やれやれ。そなた、そんな心がけでは大学で友人を作ることもままならんぞい?)


(そもそもできるわけないじゃないすか。飛び級入学してきた十歳児相手ですよ?まともに相手にされないどころか、絶対イジメられますって俺。金貨十枚賭けてもいいです)


まあ俺も使っているから文句は言えないんですけどね。自分が使うのはいいのに相手に使われるのは嫌だとかそんな道理はあるめえよ。クソ野郎なのはお互い様ってわけか、やれやれ。

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